IFルート ミルネ(悪役姉 幸福END)
あぁ、どうして私はいつだって不幸になってしまうんだろう。
後悔ばかりが私の胸をちくちくと痛めた。
ボロボロの馬車と言葉の通じない御者は私を孤島へと案内していた。
私は自分の祖父と同じくらいの年齢の方とご婚約が決まった。そして、その方は非常に猟奇的で有名な方だった。そう、私はあの場で断罪され、事実上の死刑になったのだ。
いや、死刑になったほうがましだったわ。
三日ほど馬車にゆられ、自分の匂いが気になり始めた頃、船に乗せられて私はその屋敷にたどり着いた。
蔦がうっそうと繁り、手入れの行き届いていない庭は雑草で森のようになっていた。ボロボロのガーゴイルは今にも崩れそうで、下を通るのが恐ろしい。
「お待ちしておりました」
「ひゃっ」
突然現れたメイドはひどく老いた老婆で少ない歯を見せてにかりと笑った。あまりにも不気味で私が挨拶をせずにいると老婆はにやにやとしながら私の体に触れ
「こりゃ良いお妃様がいらしたわ」
と呟く。
私はその不気味さに自分のこれからの顛末を想像し、胃酸が逆流するのを感じた。
「おやおや、緊張しなくていいんだよ」
「っ!」
「今日のデモンズ閣下はご機嫌が良いのでございます」
「……」
何も話さない私に老婆が微笑みかけると玄関の両扉が開いた。外見とは違って中はかなり煌びやかだった。金の装飾が豪華な家具がピカピカに磨かれている。
あぁ……。
「ささ、デモンズ閣下、お妃様がいらっしゃいましたよ」
「おや、メイばあ。お疲れ様」
低く唸るような声がロビーに響いた。さすがは祖父と同じ年齢だ。年季の入った声だ。私は、後何時間生きていられるんだろうか。
「メイばあ、ミルネ嬢を部屋に案内してやるといい」
「閣下、その前にお顔合わせではないのですか」
「うむ、しかし、一度も目があわないのだが」
カツカツと大きな足音が近づく。私はぐっと目を閉じる。怖い、怖い。あぁ、私の人生はここで……
「ミルネ嬢、デモンズだ」
私は握られた手の甲にビッと電流が走るのを感じた。ゆっくり、ゆっくり瞼を開く。そこには真っ黒な髪の好青年がひざまづいていた。
私の頭は瞬時にパニックになる。
デモンズ公爵は私の祖父と同じ年齢だ。こんなに若いはずがない。それに、毎年5人以上の妻を娶っては死別している猟奇的な男のはずだ。
でも私の目の前にいるのは私と同じくらいの年齢で、ヒンスやシャール様にも負けない好青年だ。
「おや、妹をいじめ、婚約破棄をして公爵を怒らせた君はそんなに気が弱かったかな?」
クスっと笑ったデモンズ閣下の顔はひどく美しかった。
「僕をみて驚いているね」
メイドの老婆がクスクスと笑う。
「僕の年齢は60代、妻を何人も手にかけた恐ろしい男だとお国に使える公爵たちはないことないこと言っていたかな?」
デモンズ閣下はマントを翻すと
「僕も嫌われたもんだ、あぁ嫌われ者の君と気が合いそうだ」
デモンズ閣下の噂は嘘だった……みたいだ。
私は安堵でぽろぽろと涙が流れる。
「本土には多くの理不尽や陰謀があったろう。でも、ここは違う。僕だけの島だ。もう、他のご令嬢とのしがらみも嫉妬もやっかみも捨ててここでゆっくり暮らすといい」
「——はい」
「いい笑顔だ」
デモンズ閣下の頬が少し赤くなった。
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