第022話 『力と金』②
「明日からも……
いつもどおりの帰還ムーブに入った
無言が
ちなみに『周回』という言い回しは、最初にシロウが言い出したものだ。
『開かずの扉』の向こう側へいつまでたっても行くことができず、日々
シロウ曰く、そんな
他にも『滑車を回す』とか、『開くまで回す地獄のマラソン』とか、シロウとカイン以外にはよくわからない独特の表現を使うことも多い。
戦闘開始時にたまに交わされる「強さは?」→「トラ」→「おけ」などというやり取りにどんな意味があるのかなど、シロウとカイン以外にわかるはずもない。
戦闘が終了した際に「死者出ませんでした」とか言って笑われてもついて行けない。
シェリルやフィアとともに首を傾げているというのがヴァンの正直なところだが、『
今のは上手いだの、さっきのはちょっとズレてるだの、二人で嬉しそうに言い合っているところを稀によく見かける。
二人のそういうところを目にすると、表情や態度に出さないままになぜかシェリルとフィアの機嫌が急速に低気圧化するので、ヴァンは正直ひやひやさせられるのではあるが。
そのヴァンはといえば、そういうシロウと馬鹿なことを言い合っている時のカインは、本当に年相応の少年のように見えてちょっと安心する。
通常時のカインはあまりにも大人っぽすぎて、
ヴァンが知る――
ヴァンからすれば
だけどカインの場合は、なぜか逆に感じることすらあるのだ。
まるで本物の大人、いやそれどころではないナニモノかが、子供のフリをしているような――
一度遠回しにそういうと、「ヴァンにだけは言われたくないですね」と笑いながら言われた。
確かに見た目だけでいうのであれば、『
ヴァンはもともと、他人よりも躰が大きい子供ではあった。
だが『
黙ってさえいれば、
そんな
カインやシロウ、ああ見えて一つお姉さんであるフィアは言うまでもなく、同じ歳であるシェリルだって自分よりずっと大人だと思う。
みんな自分のやりたいこと、在り方をキチンと持って『
もちろんヴァンにだって、そういうのがないわけじゃない。
ただ実際は子供であるべき年齢でありながら、その一部とはいえ強制的に大人であることを強いられるのというのは、ある意味においては不幸なことだともいえるのかもしれない。
そういう意味ではヴァンが自分を子供だと思う根拠。
『
大人は大人であるがゆえに、大人なことが言えない場合もあるものなのだ。
「ただ楽しいから」よりも「それらしい大仰な理由」の方が上だなどと、なぜか思ってしまいがちにもなる。
だが子供は子供ゆえに忌憚なく持てる実は大人な視点をこそ、子供っぽいと捉えてしまうものでもある。
だからカインに笑ってそう言われてしまえば『身体は大人、中身は子供』の自覚があるヴァンは、内心で赤面してそれ以上言及できなくなってしまうのだ。
その時のカインの笑顔が時折カインがシロウに見せる、素でありながら最も大人にも見えるものとなればなおさらである。
子供らしい勘の良さが、自分が今はぐらかされたのだと言うことを告げてはいても。
とにかくヴァンにしてみれば、どのような理由があるにせよこの楽しい非日常な日常が終わってしまうことが嫌――怖いのだ。
「特に事情がなければね」
だから苦笑いでのカインの即答に、心の底からほっとした表情を浮かべる。
「ヴァンも好きよね、周回」などとフィアに笑われるのはいつものことなので気にしない。
実はヴァン以上にほっとした表情――には浮かべてはいないが、そんな気配を出しているシェリルはちょっとズルいとは思うのだが。
それにカインがこういう言い方をするということは、事情とやらもある程度想定した上なのだということは間違いない。
つまりよほどのことがなければ、明日からもこの非日常な日常は続くのだ。
今日の大きな変化を警戒して、様子見ないしはお終いにはならない。
それさえわかればヴァンにとってはもう充分。
自覚はないとはいえ、滅多には見せない笑顔も浮かぼうというモノである。
無意識であろうその表情を見ているヴァン以外のメンバーがみな微笑ましそうにしているあたり、自分が一番子供だという自己分析はあながち外れているというわけでもないのだろう。
「しかし扉に充填する必要がなくなったら、『魔石』めちゃくちゃ余るよな」
『
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