第3話 瓦解のノクターン
そして俺は的に、ペンを投げた。
電流を帯びたペンは見えないほどの速さで飛び、的の真ん中に突き刺さった。
「じ、14番、推定…Fランクです…」
「⋯⋯なんだ、あの電流は見せかけか?」
周りの人達の落胆した目線が痛い。
俺の能力は投げるだけだったのか。
周りに比べて、実に弱そうな能力だ。
自身の能力に期待しつつも、実は弱かった事に落ち込んだ。
「能力も練習すれば強くなる場合もあるので頑張りましょう」
慰めてくれるのは、乳の大きい看護師だけだった…
――能力検査が終わり、次は身体検査だそうだ。
といっても、検査は俺だけだ。
能力検査は2日に1回あるらしいが、身体検査は1ヶ月に1回なので入ったばかりの俺だけが受けるということらしい。
またもや部屋を移動し、計測台に乗せられる。
まずは身長、体重だ。
「身長174cm、体重69kg」
看護師が計測結果を医師に伝える。
またもやおかしい。俺の身長は160後半だったはずだ。いきなり5cm以上伸びるなんて、有り得ない。
やはり俺の体では無いのか⋯?
「うむ、体格、健康状態共に異常無いな」
計測台から降りる時、少しつまづきよろめいた。
まだ感覚が鈍ったままであるようだ。
昨日に比べてだいぶましにはなったが。
医師はそれを見るなり、思いもよらぬ事実を告げた。
「まだ体が馴染んでないのも仕方ない。なんせ脳を移植したばかりだからな」
脳を移植だと?
そんな事が可能なのか、この時代の医療で。
だから俺の体も知らないモノだったのか。
そうであれば合点がいく。
だが、俺の元の体は何処に行ったのだ?
それが知りたい。それにこの体は誰のモノであるのか?
「俺の元の体は…何処に行ったんですか?」
それを聞くなり、医師はほんの少しだけ、顔を曇らせた。
「君の体は…電車に巻き込まれて、木っ端微塵になっていたんじゃ。見るも無惨な遺体であったよ」
木っ端微塵だと?やはり俺は電車に轢かれていたのか。
そしてもう1つ、この体は誰の所有物なのかを聞き出さなくては。
「この体は……誰のですか?」
「……それは教えられない」
流れで教えてくれると思ったが、そうはいかないらしい。
ともかく、まだ男で良かった。
顔が男で体が女なんてキメラが生まれてしまったら、たまったものではないからな。
「顔はそのままにしてあるから、リハビリを続けてくれ」
どうやら事故で俺の脳が損傷していたそうだ。
それでこの体の持ち主の脳に、俺の脳の情報を全て上書きして俺の頭に移植し、首から下も繋げたらしい。
なんて技術なんだ…この時代ではそれだけの医療技術があったのか。
しかし前の体よりも筋力はありそうなので、リハビリ次第では有用に使えそうだ。
取り敢えず、筋トレを頑張ろう…
看護師に俺の部屋まで連れられる廊下で、そんな事を考えていた。
部屋につき、俺は本を読んでいた。
テレビは無いが本棚があり、50冊ほどはありそうだ。
これだけあれば、しばらく暇はしなそうだな…
「この本は⋯『東京の歴史』か。歴史は学校であらかたやっているけどやる事も無いし読むか」
『2023年7月7日。七夕の日に突如として、槍が落ちた。
政府は調査隊を派遣したところ、槍を中心として突然爆発を起こした。
半径30kmの生命は消滅、200kmの範囲で謎の病原菌を撒き散らした。
だがその病原菌は人間などには感染しなく、人工物であるロボットやAIのみに感染した。
感染したロボット達はほのかに赤い光を放つようになり、損傷すると動物の様に赤い液体を撒き散らす。
その赤黒い液体を媒介して感染が広がる。
人々はその感染したロボット達を
【IA (Infected Artifacts)】
と呼んだ。
IAは無作為に人々を殺したという。
その行動が何故だかは、未だ解明されていない。
大量の人々が殺され、東京23区でも建て直した区は半分以下。
1年ほどの歳月を掛けてそれぞれの区が、街を囲うように高さ60m程の巨大な壁を建設した。
建設が終わり、人々に安定した暮らしが戻る頃には東京の人口は1400万から930万人にまで減っていた。』
「これは常識だな。IAとやらはテレビでも見たことが無いが、余程危険とだけは聞いてる」
やがて眠くなり、心地よい睡魔が瞼を重くさせる。
俺はいつにも増して、ぐっすり寝ていた。
――しかしその安寧さえも、脅かされることとなったのであった。
耳を
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