第366話 魔王クラスの敵
「つまりゼブルが操っていたわけじゃないってこと?」
「そうだ。少なくとも私以外にもう一人魔族が背後に居るようだな」
ゼブルと会話をしていると尋問中に殺されたエルフに叛逆防止のための魔法を掛けた使い手じゃないと判明した。というかゼブルはどちらかと言うと傭兵のような立ち位置らしくこの街を攻める少し前にエルフ達と出会って金で雇われたらしい。
ゼブルのした仕事はそれほど多くない。元々別にこの街に対して悪感情を抱いていたわけじゃないので門を破壊した程度で人を殺してはないようだ。
「というよりはエルフ達が嬉々として殺していたから出遅れたという方が正しいな」
ゼブルがそう言って「今思えばエルフを助ける為の動きとは言い難いな」と顎に手を当てて考え込む。ゼブルの口の動きや動作から嘘を読み取ろうとしたけど全くそれらしい反応が無い。これが私を騙そうとしているなら相当だとは思うがまあほぼほぼ無いと見ていいだろう。つまりゼブルは完璧に騙されただけのシロだ。
「……エルフ達が何処に居るか分かる?」
「いや、知らないな。正確には移動しているようで今どこに居るかは分からん。今も居るかは知らないが私が会った場所へなら案内出来る」
「それでもいい。案内して」
ゼブルが私の言葉に頷いて先程まで座っていた瓦礫から立ち上がる。私も適当な建物から拝借した椅子を指輪で回収しながら立ち上がる。
「早速行くか?」
「……いや、少し連絡をしたい子達が居るからまた後で向かう。待ち合わせ場所は門のところで。時間は……あ〜、二時間後位で」
「分かった。では二時間後に門でまた会おう」
ゼブルがそう言って門の方へとゆっくり歩いていく。私は私でゼブルから離れるように移動する。その時私達の間に何かが生まれる。それは凄まじいまでの殺気を周囲に放っていて私達はそれに気付いた瞬間互いに本気で魔力を練り上げて放っていた。
「獄炎!」
「泥濘の華!」
私達の放った魔法は中心点で産まれそうになっていた謎の目玉に当たってその身を爆散させた。爆散する寸前に何かとてつもない量の魔力が集まっていたので自爆でもするつもりだったのかもしれない。
「……何あれ」
「……分からん。私は知らんぞあんなもの」
魔物かどうかも分からないあの目玉は一体何だったのか。そして未だにドキドキしている程の凄まじいまでの怖さは何だったのか。ただの魔物ではこうは中々ならない。凶獣なのかもしれないがそれにしては異質過ぎる。
「……ゼブル、やっぱり一緒に行動しよう」
「奇遇だなスイ。私も同じ事を提案しようと思っていた」
あれは異質で不気味だというのもあるがそれ以上に一瞬だけ感じられた実力は間違いなく魔王クラスだ。前触れなく不意打ちで現れる事といいどうにも不気味過ぎる。スイやゼブルなら対処は出来るが毎回同じように撃退出来るかと言われたら首を傾げざるを得ない。
私とゼブルは互いに少し緊張しながら拓達と合流する為に歩き始めた。その間何度か何かに見られているような気配は感じたがそれ以上の襲撃は無く拓達を見付けた時思わず安堵の溜息を吐いた。
「……ふぅ。神経を使うなこれは」
「ん、結構きつい」
スイは明確に自分と同等かそれ以上の存在と出会った経験が少ない。正確には敵対した存在が少ないと言うべきだろう。ヴェルデニアの強さは正確には測れないのでいまいち分からなかったしスイを一度殺した九凶星の男も姿が変化していたこともありいまいち分かり切っていない。イルナ達三匹とは敵対していないしウルドゥア達魔王とも敵対していない。つまりどれ程の力を持っているのか正確に把握出来ていないのだ。だからこそスイは初めてと言っても過言では無い程のその力の奔流に精神が削られていた。
「魔王だろうな相手は」
「ん、そうだと思う。少なくとも魔王じゃなかったとしてもそれに近い程の実力の持ち主」
「厄介だな。ああ、あとスイ。私の素因数は八だ。魔王じゃないのでそれほど役に立つとは思わないでくれ」
ゼブルはそう言いながら適当な店に入ると中から椅子を引っ張り出してきて座る。私も拓達を手招きしながら指輪から椅子を取り出して座る。ついでに指輪から適当な果実水を二つ分取り出して片方をゼブルに投げ渡す。
「……甘いな」
「美味しくない?」
「いや不味いとまでは思わん。ただ私はあまり果物が好きじゃなくてな。味は良いが匂いが少しな」
「果実水位しか入れてないからごめん」
「いやこちらこそわざわざ渡してくれたものに文句を言うような真似をしてすまんな」
「……口直しに串焼きでも食べる?」
「……一応貰っても良いか?」
「ん、大丈夫」
ゼブルに串焼きを一本渡して私は果実水を一口飲む。甘い味わいが口の中に広がる。成程、適当に取り出したから分からなかったけど確かにこの味は人を選ぶかもしれない。ちなみに果実水位しか入れてないとは言ったが実は地球で買った飲み物も割と多めに入れている。こちらの世界では絶対に飲めないと分かっていたから偶に飲むように入れておいたのだ。勿論それはお菓子やケーキ等も含んでいる。ちなみにお金は適当に作った宝石付きの装飾品を質に出したり何人か殺した奴らの財布から奪った物だ。まあ基本的には質に出して手に入れたお金で買ったものだから許して欲しい。
「拓達遅いな?」
手招きしてから来るまでが遅い。別にゆっくり来ているならおかしくは無いが拓がわざわざゆっくり歩いてくるとは少し思いにくい。私は拓達の方へと目を向けると同時にゼブルを蹴り飛ばしながら私は反対方向へと横っ飛びに逃げる。次の瞬間何かが高速で私達の居た場所を通過した。
「ぐっ……今度は何だ!?」
「分からないけどあれは拓達じゃなかったんだね。恐らく超が付くぐらいの高等幻術。しかも意識の誘導も行うタイプの凄く面倒くさい魔法だよ」
そう言った私の目の前には拓の姿の何かよく分からないハリボテのようなものが嗤っている気色の悪いものだ。
「……色々と言いたいことはあるがこの手口は先程の目玉と一緒だと思うか?」
「違う。感じられる魔力的にほぼ間違いなく別人だよ。つまり背後に居るだろう魔族は一人じゃない」
「……勘弁して欲しいものだ」
私とゼブルの目の前に居るそれらの数は五体。見た目は全て闇か影でも纏ったかのように真っ黒な存在だ。
『我等の邪魔をするなど万死に値する。死ぬがいい半端物共が』
そう言って襲いかかってくるそれらを捌きながら後ろに下がりながらゼブルに声を掛ける。
「最低でも魔王クラスが三人は居るってこと!ゼブル、出し惜しみしないでね。一歩間違えれば死ぬよ」
「……はぁ、本当に勘弁して欲しいものだ」
私達は互いにこの先に待ち受けるであろう敵を思い思わず溜息を吐いた。
「何にせよこいつを殺す所からスタートだね」
私は黒い存在に駆けていった。
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