第361話 お買い物



酒場から出て宿にもうすぐ着くというタイミングで宿の前に誰かが来た。誰かというかあの糸目の男性だった。まさか宿を突き止めてきたのだろうか。


「ん?あ、やっぱりここだったか。会えて良かったよ」

「わざわざ探したの?」

「ああ、ちょっと君に謝らなきゃいけない事が出来ちゃったからね」


糸目の男性はそう言ってから頭を下げる。


「君が酒場で相手した男は私の従兄弟なんだ。迷惑を掛けて済まない。私に出来る事なら何でもしよう。どうか許してはくれないだろうか?」

「酒場……あ、あの女の人連れてた若い方?」

「若い方?良く分からないが多分それであってる。女性を三人程連れていたなら間違いない」


成程、妙にプライドが高いとは思っていたが貴族的な立ち位置という事も相まって注意する人が少なかったのかもしれない。だとしても調子に乗り過ぎだと思うが。あと私が一瞬反応に遅れたのはレシピのせいだ。浮かれ過ぎて普通に忘れていた。


「でも別にして欲しいこととか無いし謝ってくれたならそれで良いよ。そもそも親戚だからといって貴方に謝られる意味は無いと思うけど。ケジメの意味ならあの人がするべきだし」


まあぶっちゃけ謝られた所でどうでもいい。あの男が私達に危害を加えるなら別だがどう頑張ってもあの程度の実力じゃ私達の誰にも傷を負わせられないと思う。戦いを経験したことが少ないルーレちゃんやリロイ辺りは攻撃を食らう可能性はあるが魔族である二人には生半可な攻撃じゃ傷は付かない。

拓は普通に戦いを経験しているからあの女性達が戦えて援護出来たとしても無理だろうしリーリアは普通に強い。シェスの武器は何故か串焼きに使われている串ばかり使うがあの子の串の威力は普通に岩を砕く。刺突一発で身体中の骨が砕かれかねない。いや砕くだろう。


「そうか……ではせめて私から謝罪の証としてこれを受け取って貰えないだろうか」


そう言って糸目の男性はバッジを渡して来た。


「これは私の関係者だと保証するものだ。何か困った事があればそれを提示すればある程度の混乱は避けられると思う。勿論この街の事だけではあるが」

「ん、まあ受け取っておく」


そう言うと糸目の男性は笑みを浮かべる。


「欲を言えば私の屋敷で貴女のためにパーティでも開きたいのだが」

「そっちは遠慮しとく。私がしたのは魔物を殺して呪いの解除方法を教えただけだから」

「それでもだよ。私達には原因すら分からなかったからな。治すその糸口が掴めただけでも構わない」

「ん、呪いが完全に治るのには恐らく一月は掛かると思う。気長に頑張ってね。応援しておく」

「ありがとう。改めて感謝する」


糸目の男性はそう言うと頭を下げる。そしてすぐに頭を上げると近くに待機させていた馬車の御者に手を上げて近くに寄らせる。


「困り事があれば何時でも屋敷に来てくれて構わない。貴女なら歓迎しよう。では私はこれで失礼する。貴女もこの街を堪能してくれ」


糸目の男性はそう言うと馬車に乗り込む。私はそれを手を振って見送った後、宿に戻って来て部屋でベッドに横たわってから考えた。

糸目の男性や呪いに掛かっていた女の子、酒場で出会った?男の名前知らないなと。意外と名前を知らなくても案外何とかなるのだなとくだらない事を考えた後、物凄くどうでもいい事だと思ったのでそのまま寝る事にした。




翌日ベッドでそのまま寝ちゃったせいでしわが付いたドレスをペシペシ叩いてある程度伸ばしてから指輪に戻す。交換で指輪から出したドレスを着たあと一階に降りると食堂ではもう皆が居て食事をしていた。どうやら一番起きるのが遅かったようだ。この街の居心地が良すぎて気が緩んでしまっているようだ。


「おはよう姉さん」

「おはよ、スイ」


拓とルーレちゃんが気付いて挨拶をしてきたので私も返す。


「おはよう二人とも。あ、私も朝食お願いします」


店員さんに声を掛けてから二人と同じ席に着く。ちなみにシェスとリーリアとリロイは隣のテーブル席だ。美味しそうにジャムを塗ったパンを食べている。


「姉さん、今日はどうするの?昨日みたいに一日見て回る?」

「ん、それでもいいけど折角だし皆で見て回りたいかな」

「あ、それなら服屋さんとかアクセサリー店とか見に行かない?リーリアとリロイにもちゃんとした服を着させてあげたいし」


リーリアとリロイにもコーマの街で服を数着程見繕ってはいるがコーマの街は人の出入りが極端に少なかったせいか服のデザインセンスとでも呼ぶべきものが古臭かったのだ。なんというか野暮ったいような感じというべきか。兎に角可愛い感じの二人の服にしては似合ってないと言わざるを得ない。


「良いね。皆で見て回ろうか」


私がOKを出したことで今日の予定が決まった。ちなみに拓はその時に「姉さんにコスプレ……!」と言ってテンションが上がっていたがファンタジー世界であるこちらの世界では獣耳付きのパーカーとかは亜人族の機嫌を逆撫でするので売られていません。後露出が異常に多い系統も普通にないからね。その辺り理解しているのだろうか?




宿から出てすぐにあった古着店は服屋さんであって服屋さんじゃないみたいな感じだった。こちらの大陸では魔物が強すぎて大規模な農場が作りづらい関係上綿花とかの栽培が厳しいようで古着等は雑巾や布巾として再利用しているようだ。

ちなみに普通の布巾なども売られていたが高めだった。多分貴族用か富豪用の為の布巾では無いかなと思う。元子供服とかで屋敷中を綺麗にしているのは見栄えがあまり良くないからね。

その店から出て暫く歩いた後に入った服屋さんは内装がかなり綺麗で隅々まで掃除が行き届いているのがすぐに分かった。あと服が高いのは分かるのだけど宝石店とかで使われてそうなショーケースに服が収められているのを見ると不思議な気持ちになった。ここは展示会場で服は展示物だったのだろうか。何の展示会場となるのだろう。

というか探したけどどうも見付からなくて店員さんに聞いたらこの店は大人用の服しか売っていないようだった。何故かを聞いたらそういうブランドなのだと返された。ブランドなら仕方ない……のかな?良く分からない。

子供服が売ってある店を教えて貰うことにした。すると安い方と高い方があるがどちらがいいかを訊かれたので一応両方見に行くと言うと教えてくれた。ただ店員さんには安い方は辞めておいた方が良いと忠告された。逆に気になるのだけど。

一応先に安い方を見に行ったが行かなければ良かったと後悔した。汗の匂いか知らないが凄く臭い。とはいえそれに気付いたのは私と何故かシェスだった。シェスは野生児か何かなの?ちなみにすぐに気付かなかっただけで暫くすると全員気付いて離れてきた。

高い方として紹介された店はどう見ても先程の店の系列店だ。内装が似通っているし店の名前も大分似ていた。子供服しか扱っていないというのも似ている。ここでは全員数着程購入した。私もドレス以外も着たい。いや別にドレスを着ること自体に抵抗があるとかでは無いし着るのにも慣れてきたから別にこのままでも構わないのだが偶には私だってドレス以外も着たくなる時もある。それに私やルーレちゃん等の魔族組は成長や退化を使わない限り背格好が変わらないので何時か何処かで着ることもあるだろう。そう考えたら魔族にとっては服とは一生物なのかもしれない。

ちなみにその店の隣にアクセサリー店があった。お洒落をしたい子供達を対象にしているのかもしれない。売られているのは宝石などを加工した物が多くその割には値段が安かった。デザインが凄く綺麗で宝石を潤沢に使えるからこそ出来る物だと感じた。当たり前と言えば当たり前だがこちらの大陸では錬成や鉱石作成の技術が残っている。悠久大陸の方で技術が絶えたのはヴェルデニアのせいだからだ。


「こっちの大陸で宝石を大量に買ってあっちで売れば一気に大金持ちね?」

「命の危険があるけどね」


ルーレちゃんの言葉に私がそう返すとルーレちゃんは「人生上手くいかないものね」とか言っていた。その言葉自体には同意するけどその前の会話と合わせると途端に凄く安っぽく聞こえてしまうのはどうなのだろうか。何とも言えない気持ちになった。

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