第353話 膝がやられちゃった……
「それと姉さん出発する前に聞きたいんだけどこの子達って誰?昨日の夜何となくで一緒に蟹食べてたけどさ」
「こっちはリロイ!リーリアが付けたの!」
拓からの質問に対して答えようとしたらリーリアが先んじて答えていた。リロイと呼ばれた子は男の子みたいでリーリアの後ろでリーリアの服を摘んでいる。リーリアもリロイもそうだが二人とも黒い布を服の形に裁断しただけみたいな服装なので早めに二人の分の服を作りたいと思う。
「リーリアとリロイだね。よろしくね僕は拓也って言うんだ」
「よろしくタクヤ!」
「よろしくしないよタクヤ」
リーリアは素直によろしくと言ったのに対してまるで反対の事を言うリロイにかなりの曲者感がする。拓は一瞬何を言われたのか分からなかったのか少し固まっていた。
「僕はリーリアとママが居れば良い」
リロイはそう言うと私の服を摘んだ。
「……え、待って。リロイも私をママと呼ぶの?」
「リーリアのママで僕のママでしょ?呼んじゃいけなかったの?」
リロイはそう言いながらリーリアに手招きをして近くに寄らせるとリーリアをギュッと抱き締める。リーリアは少し驚いたようだがすぐに笑顔になって抱き締め返す。そのままの状態で私を見てくるので仕方無く二人ごと抱き締めてあげた。二人の体温は子供らしく温かった。
「まあ拓、二人は生まれたばかりだから大目に見てあげて。成長していくにつれて考えも変わっていく筈だから」
「分かった。姉さんをママと呼ぶのは……ちょっとどうかとは思うけど」
それに関しては激しく同意する。二人の発生に間接的に関わりは持っているがそれだけだ。ママと呼ばれるだけのことは何もしていない。
まあそれに関しては言い聞かせていくしかないだろう。根気強く伝えていけば変わってくれると信じよう。それと、今更気付いたがリロイの素因も中々見ないレアな素因だった。だからといって強い訳では無いが。リロイの素因は渇望。どこでどう使うのかさっぱり分からない。少なくとも父様の記憶の中に一度たりとも出現したことは無い。
「リロイ、渇望で何が出来るの?」
「その時が来れば分かるよママ」
これは焦らしている訳じゃなく発動出来る場面が極端な程少ないという事だろう。しかも効果は一定していない。かなり使い所が難しい素因のようだ。
その後、ルーレちゃんも挨拶したがリロイとは仲良く出来なかった。ただシェスとは何故か意気投合したみたいで二人で握手していたのが酷く印象に残った。ちなみにリーリアは最初の暴れ具合が何だったのかと思う程皆と打ち解け合っていた。
皆でコーマの街の方へ馬車を進める。御者台には誰も居ないから無人の無馬車とでも呼ぶべき物が爆走するというかなり気持ち悪い光景を辺りに見せていると偶に進行方向に居た魔物を轢き潰す。スイが結界を張ったのとその結界にリーリアが死の素因の効果を乗せたことが原因だ。
結界に触れると即死する程では無いが身体の一部の機能が一定時間死ぬ事で結界に抵抗出来なくなりそのまま押し潰されるのだ。とは言っても轢き潰されたからといってその程度ではこの大陸の魔物は死にはしない。
悠久大陸の魔物であれば間違いなく死んでいるが耐久力がかなり高いこちらの大陸の魔物は身体の半分が欠損しても生きている時がある。まあそこまで行くと他の魔物に食われて終わるが少なくとも馬車程度に轢かれた所で死にはしない。
つまり何が言いたいかと言うと馬車で轢いた魔物が怒りの形相で大量に追い掛けてきているのだ。コーマの街に魔物の数が少ないと言っても居ない訳では無い。道中には当然出るしコーマの周りを囲む森にも出て来ないだけで魔物は大量に棲息しているだろう。
そんな魔物達の平穏を脅かす何かが来たと思ったら次の瞬間身体が脱力して結界に思いっきり踏まれるのだ。誰であっても腹が立つ行為だろう。本来お互いに攻撃する間柄だろうに種族関係無く一心不乱に馬車目掛けて突進してくる様は中々胸熱な展開ではある。追われる側はたまったものではないが。
「姉さん、あれどうするの?このままだとコーマの街滅びるよね」
当然コーマの街に向けて進んでいるのでこのままだとかつてないほどの規模の大暴走となりコーマの街を沈めることだろう。勿論流石にそれをするつもりは無い。コーマの街が悪人ばかりの街だと言うならまだしも、まだ何も知らないのに滅ぼしたりするのは愚行だろう。あと街で食事もしたいしベッドで眠りたいから滅ぼしたりするのはNGだ。
「何処かで迎撃したいけどこの馬車って反転出来るように作ってないんだよね。停めるか何かにぶつけてから止めるしか無いんだけどどうする?」
「どうしてそんな暴走車作ったの!?」
拓に突っ込まれるが理由なんて無い。曖昧に笑っておいたけどバレてそうだ。
「まあ停めるね。そろそろ街が近いみたいだし」
魔力の供給を止めるとゆっくりと馬車が停まる。追い掛けて来ていた魔物達はすぐには襲って来ず周りを囲み始めた。連携が取れている事を考えると恐らく知性ある凶獣が居る。しかも人系種族に対して恨みかそれに似た感情を抱いている。
「……まあだからと言って危ないってことはないけどさ。生み出してから初めての出番だよ。出ておいでヘカトンケイル」
出て来たのは顔をローブで隠した長身の女性。ヘカトンケイルは三体の巨人なのだが、何故か人型の時は一体しか出て来ないのだ。理由は良く知らないがいっぱい居ても困るだけだし別にいいかと放置している。
「……我等ヘカトンケイル、ここに推参しました」
「ん、あいつら倒しちゃって」
ヘカトンケイルはかなりの無口で必要な事以外は全く喋らない。ちなみに呼び名を別に付けようとしたらそれは断られた。
「………………」
ヘカトンケイルが蹲ると次の瞬間、何故か空から二体の巨人が現れ蹲っていたヘカトンケイルも巨人と化していた。拓が言うにはこの三体には一応名前があるようでコットス、ブリアレオース、別名アイガイオーン。ギューゲース、別名ギュエースの三体らしい。別名が面倒くさいし何でコットスだけ無いのかも分からないので私はコッちゃんとブリちゃんとギューちゃんで良いと思う。
三体の巨人は五十頭百手という異様な姿をしている。百腕巨人とかとも呼ぶらしいが心底どうでもいい。三人の性能は分かりやすい。その巨躯による攻撃と剛腕から繰り出される突如生み出される巨岩による攻撃だ。巨岩の大きさは小山位はあるので完全に戦略兵器とかそのレベルだと思う。
時折生み出されては投げられたりそのまま叩き付けられる巨岩によって魔物を殲滅していく三人。作るよりも蹴り飛ばした方がダメージが大きそうに見えるのは気のせいだと思いたい。
差程の時間も掛けずに殲滅しきった三人を撫でようとして照れたのかすぐに消えて行ってしまう。流石私が未だに撫でられていない娘達である。撫でる動きを察知した瞬間、即座に戻って行った。
「……音凄かったね」
拓がそう言うので頷く。
「これ街の方まで聞こえたんじゃないかな?」
「そうかもね。まあ何か訊かれても知らぬ存ぜぬで良いんじゃない?調べようも無いのだし」
私がそう言うとそれもそっかと拓が納得する。
「リーリアがやりたかった……」
「僕の出番……」
とりあえず今は凹んでいる二人を慰めるのを誰か手伝って欲しいと思う。ちなみにこの後二人を膝枕しながら撫でていたら機嫌が戻った。代わりに私の膝がやられたけど。次似たような事があれば二人に任せようと思う。お膝痛い……。
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