第307話 珍事
アルフ達の日々はかなりハードな生活となっていた。学園に通う事自体は辞めていないが頻度はかなり下がった。週に二度のみ行き後は行かないという最早学園に通っている意味があるのか怪しいレベルだ。元々学園での授業内容は一部が間違って伝わっていることもありそれほど有意義では無かったのである意味仕方ない事なのかもしれない。
空いた時間は天の大陸に転移して竜族達との鍛練の日々だ。夜は基本的に屋敷に戻って寝ているが偶に夜中まで鍛練が白熱し過ぎて戻るのが翌日の昼になる事もある。まあ主にそうなるのはアルフだけだが。
偶に天の大陸に行かない時はテスタリカの手助けであったり冒険者としての活動の為に異界に潜ったりして活動資金としていたりする。アルフ達は未だにスイの持つお金を使おうとはせず出来る限り自分達で稼いだお金でやり繰りしていた。ちなみにテスタリカからもお金は借りていない。
そうして過ごして何ヶ月も過ぎ、花が咲き乱れる季節になった。そしてその頃には色々と突っ込みどころが多い出来事がアルフ達を襲っていた。
「……なあ、なんで俺に付いてくるんだ?」
「主様に相応しい方かを見極めようかと」
「とは言っても我が主の中で見ていたのでどんな方かは知っているんですけどねぇ」
アルフの久々の休みの日に付いてきたのは女性二人組。片方は灰茶の髪に薄い黄色がかった瞳を持つ成人女性、片方は黒髪に黒い瞳を持つ成人前の女性、どちらも普通の人族に見える者だ。その二人組はアルフの事を先程から追い掛けて来るのだ。しかもどちらも見目麗しいせいで行く先々で男性からの目線が厳しい物になっている。
アルフからしたらただ付いてこられているだけなのでそんな目で見るなと周りに言いたいが意味は無いだろうし逆に煽っているようにしか見えなさそうである。そもそもこの二人は人じゃないのだと声を上げて叫びたくなる。
「どうしましたか?流石にそうじっと見られるのは些か恥ずかしいのですが」
「ヒーちゃん達に見蕩れちゃいましたか?」
「そんな訳あるか。三首の犬と暗殺梟に見蕩れる奴がいたら逆に見てみたいもんだ」
アルフの言葉に対して二人はニコリと笑う。
「心外ですね。私達の外見はこの世界基準で見てもかなりの美形であると自負しているのですが」
「我が主は間違いなく喜んでくれると思いますよ?」
「中身がやばいからな。外は良くても……な」
「あぁ〜、そんなこと言っちゃうんですか。ヒーちゃん怒りますよ?ねぇ?ケルちゃんからも何とか言ってください!」
「ヒーちゃんとは違って私は見た目からやばいと言うのは否定しづらいからなぁ……」
そう、先程からの会話で分かっていたと思うがこの二人はスイの創った魔法、ケルベロスとヒークの二人?二匹である。
スイが眠り始めて五ヶ月が経過した頃突如としてスイが創ったと思われる命達が現れたのだ。屋敷の中に突如として出現した複数体の気配にアルフ達が臨戦態勢で部屋に突入するとそこに居たのはスイの頭を膝枕しているケルベロス(人型)とスイの頬をつんつんしているヒーク(人型)、スイと髪色などを反転させたような瓜二つの姿をしたイル・グ・ルー、アルフ達が来たのに合わせてお辞儀をした鎧姿のナイトメア、何故か大量に居る魔物達に唯一居た痩身の男性と数えるだけでも多い。後ヴェルジャルヌガが異常に多い。部屋の中に良く入れたなと言いたくなるレベルだ。
全員?から敵意らしき物が感じ取れなかったのとアルフ達の知るナイトメアと敵対していたがイル・グ・ルーが居た事から危急の事態ではないと判断してアルフ達から安堵のため息が漏れる。
「クヒャハハハ、一応俺は敵対していた筈だけど良いのかぁ?そんな安堵しちゃってよぉ。もしかしたらマザーを殺すやつかもしれねぇじゃねぇか。気ぃ抜いてんじゃねぇぞ?」
イルから強烈な殺気が来るが直後にナイトメアに頭をぽかんと叩かれて殺気が霧散する。
「……無駄に殺気を振り撒かないでください。屋敷の中には普通の人族も居るのですから」
「メアちゃんはお硬ぇなぁ。もっと楽ぅに過ごしゃあ良いのに」
「……貴方が緩すぎるだけです。というかケルベロス姉様とヒーク姉様からも何か言ってください」
「主様の頭を抱えているので無理です」
「我が主の頬は柔らかいですねぇ。何時まででも触っていられますぅ。はぁ〜もちもちつるつるぺたぺた〜♪」
「……」
「クヒャハハ、まあ仕方ねぇんじゃねぇ?ケル姉にヒーちゃんは人の姿してなかったからなぁ」
「……はぁ」
アルフ達を放って始まった会話に戸惑っているとアルフ達に痩身の男性が近付いてくる。アルフ達が警戒すると痩身の男性は頭を下げて挨拶をする。
「お初にお目に掛かります。私の名前はアルズァーンと呼ばれるもので本体は蜥蜴型の魔物となっております。紆余曲折ありまして今は主様、スイ様にお仕えする形となっております。以後お見知り置きを」
「え、あぁ、宜しく」
丁寧な対応にアルフ達は困惑しながらも頭を下げる。アルズァーンの挨拶に釣られたのかそこで漸くケルベロスとヒークも挨拶をしてきた。とは言っても名前を言った後はそのまま元の状態に戻ってしまったのだが。
「……はぁ、アルフ様達には色々と聞きたい事があると思いますが簡潔に申すなら私達が中に居たままだと姫様に不都合が生じる可能性があるという事で追い出されました。良ければ私達もこの屋敷に置いて下されば幸いです」
ナイトメアの言葉に後ろから来たテスタリカがグッと指を立てる。それだけをするとテスタリカは戻って行った。良く見たら目の下に凄い隈があったので眠っていなかったのだろう。危険がないと判断するや否や即座に部屋に戻って行ったようだ。
「……えっと、宜しくお願いします」
苦労人になりそうなナイトメアに思わず同情の目を向けてしまったのは致し方ないと思う。
とまあ不思議な事があってこうしてアルフが二人、もとい二匹に付け回される事になったのだがこの二匹人型で歩くのが好きなのか事ある事に外に出ては大小のトラブルを引き起こしてくるのだ。ナンパ程度で終われば別に何も言わないのだが金銭感覚が狂っているとしか言いようがない買い物をしようとしたりと大変なのだ。
幸い暴力沙汰は起こしていないのが良かったがこの二匹力も相応に強いので器物の損壊自体はかなり多い。握り締めたコップが割れること計十二回、ちょっと押した壁が崩れる事計三回、物にぶつかり壊す事計十回、手に取った商品を壊す事計二十一回ともう少し加減という物を覚えろと声を大にして言いたい。
幸い壁以外は高い物は無かったのと壁を壊したと思われていなかった事からそれ程お金自体は掛かっていないが一日過ごすだけでこれなら一年放置すればそれだけで一人の人生を終わらせるくらいはお金を使うのではないだろうか。しかも全て弁償で。
「……はぁ、何でこんな金がぽこぽこ飛んでいくんだか」
「それは……まあ色々あるんです」
「……」
「あぁ、そうかよ。頼むから大人しくしててくれ」
少し投げやりになりつつもアルフが歩いていく。その姿を二匹は鋭い目で見つめる。
「……自覚症状無し」
「……悲しいね」
二匹の間だけで通じる言葉にアルフは聞こえていないのかどんどんと歩いて行く。その後を二匹は寂しげに微笑み追い掛けていく。
そんな一人と二匹の姿を遠くから眺める少年が居た。それは傍らに居る少女に声を掛けると少女が無線の魔導具を使い誰かに連絡する。誰かはその報告を聞いて悲しげな声で呟く。
「……あぁ、暫くそのまま監視していてくれ」
「分かりました。このまま監視を続けます」
少女が無線の魔導具を止めると傍らに居た少年と共にふらっと人混みの中に紛れ消えて行った。
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