第298話 キオの処遇?
「じゃあ気になってた事も終わったしキオ、君の処遇を決めようか?」
宿の部屋でキオに向かってそう言うディーンにキオは表情を暗くする。ディーンの表情は笑顔でありながらその目に笑みの色は無い。何処までも冷たくまるで人を人と思っていないかのような目でキオの背筋に冷たいものが走る。
「処遇……ですか?」
「あ、勘違いしないでね。殺したりするつもりなんてないよ。ただどうしても気になるんだよねぇ。僕の考えだけどさ、君ってレクト?だっけ?それの部下とかそんな感じじゃない?最初は適当な嘘を散らばらせまくっただけだと思ったんだけど……レクトの名前がどうしてそこで出てきたのかなぁって思うんだよね。多分だけど僕達が出会うのは偶然であって予測してなかった事態なんじゃない?だから咄嗟に重ねた嘘の中にレクトの名前を出してしまったんだと僕は推測してるんだけど?レクトの妹ってのが嘘な事を僕は知ってるからね」
「……どうしてレクト様の妹というのが嘘だと?」
「あ、そこから?ん〜、単純に僕の持つ情報網に君の情報が入ってきてないからかな?法王の妹なんていうのが本当に居るなら僕も知ってないとおかしいっていうか?」
「機密情報かもしれませんよ?」
「それは無いかな。スイ姉に僕習ってるんだ」
ディーンは確信してるようでキオの事を目を逸らさずに見詰める。
「スイ姉程精度が高い訳じゃないけどさ、その人が嘘をついているか否か位は判別出来るんだよ。最初は嘘ばかりだから逆に分からなかったけど」
「……良く分かりましたね。そうですよ。私はキオ様の部下に当たる者です。バレないと思っていたんですけどね」
「そっか、まあ別にどうでも良いんだけどね。ただ本当に気になっただけだから。じゃあ処遇はそうだな……君の上に当たる存在にこう伝えて。僕達に関わるなって。無理に関わったら全力で抵抗するよって。キオ、勿論君自身も対象だからね」
ディーンの言葉にキオは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。キオとしては出来たらスイ達と行動を取りたかったのだがここまではっきりと来るなと言われたら抵抗したとしてもそれは逆効果だろう。
「分かりました。伝えておきましょう」
結局キオに言えるのはそれだけだった。その言葉を聞いたディーンが満足そうに笑うと話の最中ずっと足蹴にしていた魔族に毒を与えて部屋から出すと自分もまた立ち上がる。そしてそのまま部屋から出ようとする前にキオの肩に手を置くと笑みを浮かべてこう囁く。
「じゃあね、アレイシアの使徒」
その言葉に今度こそキオの表情が青褪める。振り返るよりも前にディーンは部屋を出ていった。
「ディーンどうだった?」
「ん〜?多分大丈夫じゃない?急いで帰る支度をすると思うよ」
アルフの問いにディーンは笑いながら答える。アルフ達は最初から最後までキオの事を信用などしていなかった。目が脅威だとは思ったが敵意があるなら最初の遭遇時に目によって攻撃を加えれば良かっただけでそれをしなかった時点で敵対する意思が無いことは容易に分かった。目による攻撃など初見殺しが一番強いのだからその判断は間違いとは言えないだろう。
では何が目的なのかを考えた時取り入ろうとする動きから仲間に、あるいは外部の協力者といった味方としての立ち位置に入りたがっていると考えた。ならばそれを望む相手は誰かを考えた時にキオの口からレクトの名前が出た。
しかしレクトは元から外部の協力者といった感じになっている。それはスイとの雑談でも知っているしわざわざ今更疑わせるような行動を取る必要が無い。であればレクトに近しい存在でありながら明確に味方になり切れていない存在からだと考えディーンの持つ情報網からそれを特定した。
「あぁ、という事は正解だったのか」
「まあ十中八九正解だと思うよ。キオは多分転生者だね。アレイシアによって転生してきた子。まあそれがスイ姉と同じ世界かは分からないけど意外と転生者が多いんだなって思ったよ」
ディーンがそう言ったのは翠の商会の情報網、宗二のアンデッド情報網、ディーンに個人的に接触してきたアイとユエ、アイに従属している執事やメイド達、ディーンが少しづつ拡大させている亜人奴隷達の部隊等が転生者らしき存在やその痕跡を見付けて報告してきているのだ。中には翠の商会に従業員として応募してきた転生者もいる。転生者の大半は村などの閉鎖的コミュニティに存在しているようだがそう言ったところでは転生者はそこそこ目立つので見付けやすいのだ。
少なくともディーンが確認が取れた転生者だけでも十四人、内六人の前世の記憶は虫食いにあったかのようにバラバラだった。とは言ってもあくまで失われているのは自身に関する記憶ばかりで知識などはそれほど失われていなかった。ただスイと違うのは転生者達に力と呼べるものが殆ど無い事だ。勿論知識による補完のせいか魔法などは他の人族に比べて総じて効果が高いがそれだけだ。
その事からディーンは推測していた。スイとキオ、クライオンにイーグ、それ以外の転生者達との違いは何なのかと。その結果ディーンが思い浮かべたのは根拠も証拠も無いのだがしっくり来る答えがスイ達力を持つ者達は神によって呼ばれた者達ではないかというものだ。
そしてその答えを補完するものとしてスイ経由で亜人族の神ドルグレイ、話に聞くアレイシアとの邂逅がある。キオからもアレイシアの使徒という言葉に過剰な反応を見せた事からそれが現実味を帯びた。クライオンもまた世界に
その事から神に選ばれて連れてこられた転生者達は三神かはたまた元々居た世界の神が何かしらの力を与えるのだと推測される。あくまで現状そうというだけで実際はどうなのか分かりはしないが。
「……あれ、そうだとスイ姉にも何か力が渡されてないとおかしいよね?」
ディーンはそこまで考えて違和感に気付いた。スイは恐らく三神かそれに近しい存在に呼ばれた存在だと思われる。というかそうじゃないなら奇跡的な確率で今の魔族としての身体を手に入れた事になってしまう。可能性としては無くは無いがそれよりかは神によって器が恣意的に選ばれたと思う方が自然だ。であればクライオン達にどのような力があるかは不明だが何かしらの力が与えられて然るべきである。
「魔族としての身体がそうってこと?確かに混沌や身体的スペックは高いけども何かモヤッとするな」
「どういう考えからスイに力が云々って話になったんだ?」
アルフに問われディーンは先程の推測を口にする。
「あぁ〜、確かにそれなら無いとおかしい……のかもな。でもキオは目があったけどクライオンやイーグには何があるんだ?それにルーレも聞いた感じだと確か呼ばれた感じだったろ?あの子は何を持ってるんだよ?」
「ん〜、僕の考えだとクライオンにあるのは寿命に関係するものだと思う。しかも他者にも使える系の。じゃないと年齢と見た目が合わなすぎる」
スイから聞いたクライオンの話と見た目が幾らエルフだとしてもおかしすぎる。何かしらで操作しているとみるべきだろう。
「イーグさんは分からないけど武聖なんて言われてたし武器関係じゃないかなって、例えばどんな武器だろうと何でも使えるみたいな。ルーレ姉は分からないけどさ。まだ分からないらしい素因かなぁとは思う。違うかもしれないけど」
「ならスイにあるのは何だと思う?」
「……力ある言葉関係かな?」
「なるほどなぁ。まあ無難だよな」
スイの記憶力や計算能力があっても力ある言葉を使うのはかなり難しいだろう。しかしそれを状況に応じて使う事が出来るのだ。力ある言葉に対して何らかの力を持っていてもおかしくはない。
「まあ分からないけどね」
ディーンはそう言うと肩を竦める。そうしてから先程出て来た部屋の方を見るが既に部屋から出て行ったようでキオの気配は無い。
「人族の神アレイシアにどう伝えると思う?」
「ありのままを伝えるしかないと思うよ。まあ僕達の害にならないなら放置で構わないよ。スイ姉からも殺しちゃ駄目って言われてるしね」
それに、とディーンは繋げて窓の外を眺めると純粋そうな笑みでこう告げる。
「何か使い勝手良さそうだし?」
その言葉に毒気を抜かれたのかアルフは苦笑いを浮かべると同じく窓の外を眺めて遠くに見えた小さな本当に小さな白と黒の鳥を見て笑った。
「確かに、あれは使い勝手良さそうだ」
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