第224話 何だかんだで馴染んでいるのかもしれない
公式にアルダに拾われてから何だかんだで五日が経過した。初日と二日目は一応色々と警戒して魔軍の兵士達と交流してみたけどごく普通の反応だった。女兵士達からは私達の部屋にとか言われたけどそれは断っておいた。
私の自由が無くなってしまうからだけどそのせいでアルダが何かしてるんじゃないかと凄く怪しまれて部屋に帰ってきた時にはぐったりしていた。申し訳ない。
という事で未だにアルダの部屋で仮住まいとしています。素因の回復率は妙に低くて当初の予定の二週間程度を過ぎても恐らく半分も回復していないだろう。魔の大陸は他の大陸に比べて魔素が多いけれどその代わり魔力を吸収する魔族も多いので人族の大陸の時と比べて十分の一も回復出来ていない。
「アリア、出るぞ」
「ん?何処に?」
アルダから話し掛けられたのは私だ。スイという名前は人族の大陸では何故かそこそこ知られるようになってしまったので偽名を名乗ることにしたのだ。まあパッと思い浮かばなかったからアルダに名前を付けるように頼んだらアリアと呼ばれるようになった。
「砦」
「……何で?」
アルダの言葉の意味が良く分からなくて首を傾げる。ぶっちゃけ私を連れて行く理由は全く無いし私は別に軍属じゃない。戦えないのは他の兵士も知っているし何の為なのか想像が出来ない。
「料理番と愛でる用、後は単純に魔軍兵士の大半出るから飯出ないぞ。流石に遠征中にお前一人を養えるほど俺は金を持ってない」
「成程」
魔の大陸の料理は基本的に高い。理由としては単純。食料になりうる物が少ない。以前も言ったが魔の大陸自体かなり環境の変化が酷い大陸だ。北は雪原、南は砂漠と訳の分からない所で育つ作物がまともな筈がない。攻撃してくる麦に地中に潜る葡萄、足を生やして逃げ去る豆、爆発して空へと逃げる大根等最早魔物と何ら変わりない。酷いものなら吹雪を作り出すほうれん草に灼熱の太陽を作る玉葱とかもある。
そんな食料?達の採取作業は困難を極める。何だったら人族の大陸で野菜買った方が良くない?ってレベルには困難を極める。だから一定以上の実力が無ければ野菜を手に入れられない。だから必然高くなる。とりあえずそれは野菜じゃなくない?とか思ってはいけない。
まあ遠征に何日掛かるかは分からないが数週間がベストかな?その最中高い食事を与え続けるのは確かに現実的じゃない。なのでアルダに付いていくことにした。まあ砦の状況とかも見たかったし丁度良いといえば良い。
そして付いてきました北方砦。最前線じゃないですかやだー。輜重兵が居るからどうしても遅くなったけど流石魔族達としか言いようがない速度で砦まで行軍してきた。僅か一週間で到着したね。多分人族がこの量の補給を持って険しい雪原を歩いて行ったら二週間、いや下手したら一月は掛かるかもしれない。
ついでに私は凄くヘトヘトに疲れてる。素因一つがこれ程まで辛いとは思いもしてなかった。ちなみに魔軍兵士に素因一つ持ちは流石に居ないので滅茶苦茶面倒掛けたと思う。ごめんなさい。でも本来なら私の方が強いんだからね!と無駄に心中で張り合っておこう。
北方砦に着いたけれど当然人族はここまで来れたりはしていない。まず魔の大陸に上陸すら出来ていないのだから当たり前だが。魔の大陸の北方側は凄まじい程の吹雪が常時展開されている。これは母様の素因によるものだけどそれを知るものは少ない。ついでに既に母様の手から離れているから母様が万が一亡くなったとしてもこの吹雪が止むことは無い。
これは他の南方、東方、西方全てに言えることで魔王の素因によって地形や環境が変わったけど既に魔王の手からは離れてしまっているのだ。だから砂漠は消えないし山岳地帯も消えない。どうしてそうなっているのかの理由までは父様の興味を惹かなかったのかはたまた当たり前すぎて覚えていなかったのか分からない。多分当たり前すぎたんだろうね。
北方砦には整備の為か数人の兵士が居るだけで殆ど居なかった。北方砦まで人族来れないからもっと前線で魔族達は戦っているのだろう。補給物資は殆ど食料だけで娯楽関係はそれこそお酒くらいしかない。後は明らかに業物だろうと思える武器や防具が数十個のみ。人族とは大分違うだろうね。武器の補充無さすぎるんだけど。矢とかは使わないのかな?
「弓矢とかは無いの?」
近くに居た男性兵士に聞いてみた。アルダは前の方に居て私の近くには居ない。男性兵士は困った表情で説明してくれた。
「これは内緒だぞ?俺達が弓矢なんて使い始めたら人族全員死んでしまうだろ?だから剣と防具と盾だけなんだ」
「……」
その言葉にやっぱりかーという思いが広がる。まあそうだよね。魔族の力に耐えうる弓矢となればそれは最早バリスタのレベルだ。そんなものバシバシ撃たれたらそりゃもう溜まったものでは無いだろう。攻城兵器か何かと間違えられるレベルだ。同様に槍が無いのは中距離から放たれる豪槍なんて人族は防げないのだろう。多分盾ごと貫通すると思われる。
剣でも若干微妙ではあるが多分上手く使って盾を斬らないように頑張っているんだろうね。それと幾つかの武器や防具が明らかに他の物より劣っている。見た目には全く分からないしラベルが貼ってある訳では無いけれど少しの間とはいえ把握を持っていたお陰か何となく分かる。あれは見掛けだけの
確かこういうのって捕まえた人族達にやらせているんだっけ?でもこういうのを作るって事はその人達も反ヴェルデニア派と見てもいいのかな?いや選択肢が無いだけかもしれないね。無条件に信用するのはやめておこう。
「まあこれは誰にも言わないでくれよ?特にあいつらには」
そう言って男性が指し示した先には数人の魔族達。私もそちらを見ると渋々来たというのが分かる程嫌そうな顔で態度の悪い魔族達が居た。成程、この人達は魔族側の犠牲者か。魔族が一人も倒されなかったら人族心折れそうだもんね。剣国に亜人族が居れば接戦を意識しなくてもある程度楽にやれそうなんだけど剣国にもあまり亜人族が居ないっぽいんだよね。別に剣国に亜人族に対する偏見は無いらしいんだけど人族の大陸というだけで亜人族は避けているみたい。
こればかりはどうしようも無いからなぁ。時間を掛けて変えていくしかない。次に亜人族の大陸に行く事があればちょっと頑張ってみようか。頑張ってどうにかなることなら良いんだけど。
「分かった」
私が了承の意味を込めて頷くと男性兵士に頭をくしゃっと撫でられた。少し乱暴で痛かったけれど払い除けたりはしない。男性兵士が少し沈痛そうな表情でいたのが妙に印象に残った。もしかしたらあのグループの中に仲の良い相手が居たのかもしれない。それとも状況のせいとはいえ同じ魔族が死ぬのを眺めるというのは嫌なのかもしれない。
「アリア、こっちに来い」
アルダに前の方から呼ばれたので男性兵士と別れて前へと向かう。そしてアルダの前に到着した瞬間有無を言わさず砦の中に放り込まれた。あっ、さっきまでずっと砦の外に居たよ。凄く寒くて早く入れて欲しいと本気で思ってた。北方は凄いんだよ?寒暖を感じない、或いは感じにくい筈の魔族が防寒着必要になるんだから。私ももこもこした服に身を委ねていたけどそろそろ本気でキレようかなって思っていたぐらいには寒かった。
「何だこのガキは」
「うちの料理番だ。まだ小さいんだ。先にそいつだけでも入れろ」
「ふざけてんのか?」
明らかに柄の悪い大柄の魔族がアルダに掴みかかっていた。なので私は問答無用で大柄な男性の後ろから股に向かって足を振り上げた。メリッと割と酷い音が立った。大柄な男性は白目を向いて倒れ込んだ。魔族でもやっぱりそこは痛いんだねー。
「アルダ!皆も砦の中入ろ?」
とりあえず笑顔で無邪気に微笑んでおいた。女性兵士はグッジョブという感じで親指を立てていたけど男性兵士の大半が引き攣った表情だったのが少しばかり不満に思いました。
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