第195話 メイドさんです。



さて、そんな決意をしたのだけど現在は体育祭の十日目です。時間が飛びすぎ?そう言われてもそもそもやる事ないから基本的に繰り返しの日々にしかならないのだ。

アルフとはあれからちょくちょくお風呂に入るようになった。抱き着いたりキスをしたりしているけどやっぱり手は出してこない。まあ出されても困るのだけど。見られているのを自覚しているからね。

ルーレちゃんとも一日体育祭を見て回った。ただ分かったのは流石に飽きるという事だった。出店は時折変わっているけれどもそれ以外は殆ど変わらないのだ。唯一剣技大会のようなイベントは毎日違うものがやっているのでそれだけが楽しみだがそれも大体昼の半ば辺りで終わる。その後は出店を冷やかす位しかない。しかも大半は食べ物系の出店ばかりで少食な私達だとあまり食えない。結果として見て回るくらいしか出来なかった。ルーレちゃんはこんな筈じゃって崩れ落ちていた。地球の祭りで期間が長くないのは祭りの数が多いのと飽きるからなのかもしれない。

真達の誕生日プレゼントも一応考えて魔導具を作っておいた。良く考えたら彼等は国からお金を貰っているので大半の物は自前で買える。そういったものでもプレゼントとして渡されたら喜べるだろうが万が一既に持っている物だったら目も当てられない。

だから自作の魔導具にした。これなら絶対持ってないからね。魔導具は一応装飾品の類に見えるように色々作ったけれど一番の推しは翠鳥だ。トレードマークにしようとしているけれど一向に浸透しない翠鳥だ。ちなみにカワセミでは無い。単に翠色の鳥なだけだ。やっぱりスイと名付けられたからか翠色に執着したい。まあ今のところ成果はまるで無いけれど。一応偶にだけど髪に簪として付けていたりするんだけどなぁ。

母様は一昨日来たので一緒に体育祭を歩いたけど流石に二度目となると目新しいものは無くぶらぶらと歩く位しか無かった。それはそれで楽しかったけれど少なくとも体育祭でやる必要性は全くない。

勇者のあの子はあの日の内に剣国へと戻っていったようだ。何か思うところでもあったのだろうか。まあその辺りは良く分からないので気にしないことにしよう。それより今何故か私はメイド服を着させられている。勿論私の意思ではない。目の前に居る女子達のせいだ。敵意とかがある訳でもないし近寄ってきているのに気づかなかったのだろう。まあ近寄られても特に何も出来ないと高を括ってしまっていた。


「……これ、何?」

「やぁん!可愛いー!!」

「良し!やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」

「さあ!行くわよー!!」

「「「おー!!!」」」

「いや、だから」


良く分からないままに女子達に身体を抱えられて連れて行かれる。彼女達って……同じクラスになった子達だったかな?初日はそこそこ嫌われていたと思うのだけど一体何があったの?というかどこに連れて行こうとしているの?更に言えばこの格好は何?意識してなかったとはいえどうやって着替えさせられたの?更衣室とかでもない路上の道で地味に強制脱衣と強制着衣させられたの?普通に恥ずかしいのだけど?

疑問に思いつつも頭が上手く回らなかった為とりあえず放置して成すがままにした。抵抗するのは簡単だけどそれをしたら確実に怪我をするし一応は敵意が無いみたいなのでやめた。ちゃんと私の服とかは畳んで一人の女の子が丁寧に持っているし武器の類であるグライスだけは何も触らなかったみたいだし。

そうして連れてこられた先は……メイド喫茶?いや執事服を着た男……じゃない、良く見たら女の子だ。メイドと執事両方女の子だね。どういう店なの?


「連れて来たわよ!最強の助っ人をね!」

「「「おー!!!」」」

「いや、状況の説明を」

「さあ、貴女はこれを持って少しだけ外に立ってて!すぐに呼びに行くから!」


何か渡されて外に置かれた。プラカードかな。メイド&執事喫茶と書かれている。あなたを癒すひと時を、私達がご奉仕させて頂きますっていかがわしい店かな?さっきから男性客ばかりなのはそれが理由かな?何人かは女性も混じっているけれど。まあ何か良く分からないけれど今日は特に予定もない。適当にやっておこう。プラカードを持ちながらぶらぶらするがあまりこちらに意識が向かない。意外に呼び込みは難しいのか。だけど少し悔しいかなぁ。良し、本気を出してみよう。

無垢な笑顔を浮かべて軽快な足取りでけれど見た目相応に少し不安定に歩き回りながら男性も女性も等しく巻き込むようにまるで自分に微笑んだかのように錯覚させながらしっかりとプラカードも見せていく。如何に他者の視線を自分に集めるかが肝だ。

けど自分を見せるだけでは意味が無い。プラカードをしっかりその視線に含ませるように持って自然と意識させる。けれど意識するだけでは人は来ない。そこに集まりたいと思わせる魅力が必要となる。まあそれは私自身の笑顔や他に呼び込みをしている子の笑顔で補える。そして最後に少し方向を変えて店の方へと歩いていき振り返って笑顔を浮かべて手を振る。店に入ったらとりあえず裏の方へと向かう。

プラカードを置いて中を見ると私が呼んだ客が来店していた。うん、釣れたね。ずっと笑顔を浮かべるのは割と面倒だったけど私の笑顔で効果があるなら同じ手法を色んなタイプの子にしてもらえば客の数は一気に増えるだろう。


「凄っ……」

「思った以上だぁ……」

「やばくね?この調子でされたら私達持つかな?」

「とりあえずどういう状況か教えて貰えたら嬉しいんだけど」


そこでようやく説明して貰えた。まあ、大体は想像通りだった。原因は一つ、この体育祭でメイド喫茶は意外と多いのだ。具体的には見て回っただけで七軒ほどあった。供給過多なのだ。そしてその中で最も多く人が出入っているのがここからほんの少し離れた場所にある。そっちの方に人が流れているせいでこっちの方に人が来ないのだ。そんな所に私が来たものだから何とかならないかなと強引に連れてきたようだ。

私を連れて来たら何で改善すると思ったのだろうか。

まあ原因は間違いなく二日目にやった剣舞のせいだろう。あれで一気に顔が売れたのは間違いない。まあそれだけではない感じもするが流石にそこまでは分からない。多分だけど体育祭の最中ずっと誰かと行動していたのを見て印象を変えたとかそんな感じじゃないだろうか。

まあ、現状を変えようと思えば幾らでも方法はあるだろう。そもそも一番の集客率を誇るメイド喫茶はそれこそこの店の文言通りに若干ではあるがいかがわしいサービスが多少含まれているのだ。ならばそれを告発すればとりあえずあの店は潰れるだろう。恨まれそうだからしないけど。

ちなみに料理も少し食べたけどあんまり美味しくなかったしはっきり言って女の子の質もそれ程良いとは思えなかった。その点ではこっちが勝っている。料理は明らかに上質で女の子の質も勝っている。それでも負けるのはあくまでこの店が常識の範疇だからだ。


「……ん、料理で人を引き寄せる?女の子の可愛さで引き寄せる?どっちがいい?」

「両方?」

「欲張りセットみたいな?」

「知恵を何卒」


確かに知恵とか知識とかは高いと自負しているけれどそういう問題なのだろうか。まあ何とかしてみようか。これはこれで青春の一ページというものだ。知らないけど。


「ん、頑張ってみようか。とりあえず呼び込みの動作と接客態度、料理の質向上とか色々あるけど頑張ってくれるよね?」


私が関わる限り負けなんて絶対に認めないよ?何故か女の子達の表情が引き攣った。解せぬ。

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