第169話 更に雑事をこなそう
目の前でドゥレとインリが荒い息を吐いて多量の汗を流している。眷属化の痛みに耐えているのだ。これのもどかしい所は治癒魔法を掛けてはいけない事だ。掛けてしまうと魔族としての再生と肉体の損傷を治そうとする魔法が相乗してしまい過剰回復で逆に身体の崩壊を促してしまうのだ。そうなるとかつてのアスタールのようになってしまうしあの状態は治せないので治癒魔法は厳禁だ。だから何も出来なくてもどかしいのだ。
「お母さんとお父さんは大丈夫なの?」
「大丈夫だと信じるしかない。これを見てもレンは眷属になりたい?」
「うん。怖いけど。すっごく怖いけどなる」
「そっか。ならいずれね」
私がそう言うとレンはうんと頷く。今更だけど何だか騙している様な気がして少し罪悪感のようなものが湧く。だけどちゃんと死ぬ可能性が高い事は説明しているのでこれは気のせいだ。
ドゥレとインリはお互いの手を握り締めている。本人達は気付いていないだろうが。眷属化に必要な要素に恐らく意志の強さが含まれる。それが正の感情か負の感情かは関係無い。というかそうじゃないとリンが眷属化した理由の説明が付かない。意志が薄弱であれば痛みに呑まれる。つまりどれだけ生にしがみつけるかで眷属化の成功率が大きく変わるのだろう。
まだ完全にそうだと決め付けれる訳ではないがもしそうならアルフの眷属化は高い確率で失敗することだろう。アルフの想いは嬉しいが生への渇望ではない。恐らく身体の再構成に耐えられない。それにアルフは自分の身体が強靭であるからこそあれだけ強いと自分で思ってしまっている。ならば身体が作り変えられるというのは無意識に拒否してしまう。そうなれば眷属化は失敗だ。無意識の改革をしなければ成功することはまず無いだろう。
「意識改革って結構面倒なんだよね……」
少しだけ面倒臭さを感じながらもそうしないとアルフと一緒に居ることは出来ないので頑張ろうと思う。フェリノとステラは眷属化するかは未定だがディーンでこの調子だとまず間違いなくすることになるであろう。嬉しい反面少し憂鬱でもある。
「まあ少しずつ変えていけば良いか。今すぐやる必要は無いんだし」
ドゥレとインリの魔力が落ち着いてきた。身体が健康であり生を強く望んでいれば成功しやすいというのは合っているのかもしれない。レンにもう大丈夫だと声を掛けて暫く休ませるように言ってから部屋を出る。レンは笑顔になって両親の身体に布団を掛けるとその横で一緒に寝たようだ。私もいずれアルフとそんな関係になるのだろうか。そう考えたら少しだけ顔が赤くなる。ぱたぱたと手で顔を扇いで冷ます。
リーシャの部屋に戻ると丁度説教?いや調教か躾かな?が終わったみたいでディーンが椅子に座ってリーシャは床にくたばっていた。とりあえずリーシャを無視してベッドに腰掛ける。ちなみにディーンは私が入ってきた瞬間に椅子から立ち上がって私の前に跪いた。いやまあ私がヴェルデニアを倒せばまず間違いなく魔国を継ぐことになるので今からするのはおかしくはない。ただ私が少しだけ怯むだけだ。
「リーシャへの話は粗方終わりました。この愚かな者も己が分を弁えたことでしょう。もしもまだ何かありましたら遠慮無く申し付けください。その魂まで鍛え直してみせます」
臣下モードなディーンの言葉に頷く。というかそれ以外何をしろと?
「リーシャ、お前が望むのならばスイ様が直々に慈悲を下さるそうだ。返答せよ」
ディーンが本当に九歳か疑問に思ってきた。私と同じ転生者とかじゃない?違う?そっかー。
「許されるのであれば卑小なるこの身に慈悲を頂きたく存じます」
リーシャ性格一気に変わってない?別人にしか思えないよ?実はそっくりさんとかじゃないの?違う?そっかー。
もう何も言わずにリーシャの首筋に噛み付く。そして眷属化を促した。そうしたら五分ちょいで眷属化した。いや早くない?個人差があるのは分かっていたけれどどう考えても早いよね?まあ魔法を生業としている魔導師だから単に魔力の扱いが上手かったというだけだが。
観測していたが仮にもヒヒの息子を封じる程の強固な結界を作っていたことはあるとしか言えない。魔力量こそジールさんにも劣る程度ではあるが魔力操作技術は凄まじい技量だった。ジールさんの魔法もかなり練度が高くてロスなど殆ど無かったが少しはあった。けどリーシャはロスが無かった。殆ど無いではなく全く無かったのだ。これはリーシャが魔力の一欠片すら逃さない程の高度技術を持ち更に殆ど認識不可に近い魔力の素粒子である魔素すら見逃さない認識能力を持つということだ。実はかなりの掘り出し物だったのかもしれない。
「リーシャ凄いね」
私の素直な賞賛にすぐ復活したリーシャが照れている。ディーンも驚いているようで頷いていた。そしてそれを見て更にリーシャが照れる。
「リーシャ、後で良いから魔力操作の技術を教えて」
ディーンがさっきまでの臣下モードから一転していつもの可愛いディーンに変わった。リーシャは少し驚いたようだがすぐに笑顔になって頷いていた。私の演技と一緒で人心掌握の術かなと思ったがディーンのは素だった。何か私が汚れている気がして少しショックだった。さて最後に向かうことにしよう。
入ったのは冒険者組の部屋。中に居たコルンは私を見ると嬉しそうに笑う。コルンは不思議なケースだ。恐らくベースは間違いなくコルンなのだが根本的な思考がおかしくなっている。魔族であると分かっている私に懐いているのがその証拠だ。彼女は魔族を敵だと認識していた筈なのに。更に言えば私は恐怖の対象でしかなかった筈なのにだ。
それに対してリンは負の感情で眷属化した此方もまた珍しいケースである。まあこちらはわざわざ敵対している者を眷属化させた魔族が少ないからだが。対称的な二人の動きは面白い。コルンが抱き着きに来ようとしてリンがコルンを押し留める。そしてそれに対してコルンは不満気な顔を隠そうとしていない。リンは辛そうだ。
「ふふ、おいで。コルン」
私がそう言うとコルンは満面の笑みでリンを押し退けて私に抱き着く。リンは悔しげにそして憎々しげに私を睨む。それに対して私が何かする前にコルンはリンの腹を蹴る。かなり本気だ。一瞬腹が陥没した。
「うっぐえぇぇげほっ」
相方の腹を人族の状態なら死ぬ勢いで蹴りながらもコルンは気にも留めていなかった。リンを救う為に私に眷属化された筈なのに哀れなものだ。眷属化の瞬間はまだリンの事を気にしていた筈なのだが少しずつ変質したのか今では完全に意識しなくなったようだ。
「〜〜♪♪〜♪」
そして更におかしくなったのが言葉を喋らなくなった。声帯は至って普通であり喋れる筈なのに喋らないのだ。完全に壊れていると見るべきだろう。少なくとも現状で回復する見込みはない。別に回復させるつもりもないが。
「コルン少しだけ外に居てくれる?ディーン達と遊んでいてね?」
「〜♪〜〜♪♪〜♪」
コルンを追い出すとリンに向かい合う。リンはキッと此方を睨んでいる。その眼を見ながら私はリンの頬に唇を落とす。一瞬ぽかんとしたリンは何をされたのか理解して顔を赤くする。そう、今日は飴の日だよ?いっぱい愛してあげる。
リンの首に唇を落としてゆっくりベッドに押し倒す。眷属になっているせいかろくな抵抗も出来ないリンは顔が林檎のように真っ赤になっている。可愛いなぁ。いっぱいいっぱい愛して愛して私無しじゃ居られないくらい愛し尽くしてあげるね♪
首筋に唇を落とし少し服をはだけさせて鎖骨に唇を落とす。頬に手を添えて私の方を向けさせると鼻に唇を落とす。リンはもう思考が上手く定まっていないのか真っ赤のままなすがままにされている。だから唇に唇を落とす。舌を入れてみた。驚いて目を開けているが舌を絡めて蕩けるまでする。
「はぁっ……ん……何…で?」
「今は何も考えずに委ねて……」
それだけ言うともう一回する。お腹の方から服の中に手を入れると少しだけ抵抗したが構わず入れて抱き締める。少し思っていたのと違ったのかピクっと動いた。それに対し私はにっこり笑う。
「えっち…♪」
「んにゃ!?ち、違うわよ!?」
「気にしなくて良いよ……もっと凄い事してあげる♪」
そう言うとリンは少し思い出したのかキッと今更睨む。けどさっきよりも睨みは弱々しい。さてリンは何時までその虚勢が続くかな?
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