第163話 そういえば変わってたね
「はぷっ……ん、んくっ……ちゅ……ぁ……」
授業が終わると同時にスイとアルフは自然に教室の外に出ると屋上へと登って行きそこで吸血していた。空き教室の類は残念なことに無かったので仕方無くこの場でしているがスイの羞恥心は限界に達しかけていた。
何故なら実はこの場にはもう一人居るのだ。あの後どうなったかを聞きたがったジアが追い掛けてきたのだ。吸血中はどうしても周りの警戒が疎かになるので入ってきて声を掛けられるまで気付かなかったのだ。だが吸血を半端に終わらせると後々面倒なことになる。だからやめるにやめられない。
「……ご、ごめん。あ、えっと、あぁ、ちょっと離れておくね」
ジアが凄まじく挙動不審になりながら階段を慌てて下に降りていく。結界を張れれば良かったのだがそんな事をすれば流石に教師達が気付く。気付かれないように張るだけなら簡単だ。だが吸血中ずっと意識し続けるのは困難でもある。だからしなかったのだがやれば良かったかもしれない。見付けたのがジアだから良かったものの教師や他の生徒に見付かった方が面倒である。記憶を消せるとはいえあまりそういう事ばかりするのも躊躇われる。
「ん……はぁ……んんっ……ぁぅ……ぷぁ……」
息を荒げて顔を赤く染めたスイはアルフの顔を見上げる。吸血後は妙に艶っぽく変化するスイだがこれはスイにとっての吸血が快楽変換されているのが原因だ。吸血鬼はその衝動によって吸血した際の感覚が異なる。食事のような感覚で満腹感を得る者やスイのように快楽へと変換する者、特に何の変化も得られないがほんの少し尊大な態度になる者など様々な者がいる。
「アルフ……」
「スイ……」
その為最近ではアルフからの吸血を行った後は二人の世界を構築することが多い。フェリノ達からも吸血しているが実はこの際に妙な気分になってキスを強請ることも多い。なのでフェリノやステラ、ディーンのファーストキスは実はスイだったりする。こればかりはスイの理性とかで止めるのは難しいので三人には嫌なら止めるよう言ってはいるのだが誰も止めたことはない。いや好かれすぎて逆に困る。
二人で世界を構築していたら控えめに階段の扉がノックされた。ジアが待っている事を完全に忘れていたので慌てて二人は離れる。いや手は繋いでいたりベタベタしているので全然離れてはいないが。
「ジアどうしたの?」
「あ、えっと、あの後どうしたのかなって思って」
「ん、お家取り潰し?」
スイがした事を全部言うとジアはそっかと言ったきり黙ってしまう。
「それがどうしたの?」
「ううん、特に何かある訳じゃないよ。事の顛末が気になっただけだから」
ジアはそう言うとそういえばと話を切り出す。
「シェアルの街が滅びているのが確認されたそうなんだけど何か知らない?」
そう訊きつつもジアはスイが滅ぼしたと確信に近いものを持っているようだ。スイはその問い掛けに対し特に気負うこともなく言葉を返す。
「ん、私が滅ぼしたよ。邪魔そうだったしあの街は要らない」
ジアはそれを聞くとまあそうだよねと納得の言葉を返す。シェアルの街の嫌われ具合が良く分かる態度だ。
「何処の人が確認したの?」
「城塞都市の領主だよ。納税されなかったから聞きに行ったら事態が発覚したってさ」
なかなか発覚しないなとは思っていたがまさかそういった事情が無い限り分からないとは思っていなかった。そこまで嫌われていたのかあの街。少しだけ愕然としたがあの街の事を思い出したら確かに理由が無い限りは行きたくないなと思い直した。
まあどうでも良いかと考えてスイはアルフに抱き着こうとして授業の鐘が鳴る。少しだけ鐘を見て不機嫌な表情になりながらも授業を受けに三人で一緒に教室に向かう。そのせいでスイの本命がどっちなのかと言った会話が至る所でされたがすぐにアルフだろうと全員が納得した。
授業が終わり放課後、スイは帝都の街を眺めていた。勿論ただ眺めているわけではなく授業中に帝都へと入ってきたアスタールの事を知っていそうな集団を探知し続けているだけだ。スイは少しだけ面倒そうに立ち上がると教室から出てその集団へと歩き始めた。
「アスタールさん……」
「コルン、良い加減にしなさい。あの人は私達を守る為に立ち向かってくれたのよ。いつまでもメソメソしてたらふと会った時に馬鹿にされちゃうわよ」
「リン……でも……」
そう明らかにあの襲撃者はアスタールよりも格上の存在だ。コルンにもリンにもそんなことは分かっている。あの襲撃者の狙いはアスタールだけだったから自分達は生き残っているだけだ。
それが分かっているからこそ悔しいのだ。アスタールにとって自分達は足手纏いにしかなっていなかった事もそんな人に自分達を守ってもらい恐らくは命を落としたであろう事も何もかもが悔しくて仕方ない。何より好きになった人を喪った痛みは当人にしか分からない。
「あの襲撃者は誰だったのか分からない。けどかなりの使い手である事は間違いないわ。少なくとも今の私達じゃ刃向かうことすら許されない程度には実力に差が開いている。だったらせめて強くなって今度は守られる側じゃなくて守る側になるしかないでしょう」
リンはそう言って拳を握り締める。それはBランクという平均からしたら高位のランクまでかなりの速さで上がっていった二人にとっては悔しい思いだ。自惚れるなと突き付けられたのだ。
「そう……だね。私達が出来る事なんてそれぐらいしかないよね。うん。分かった。私は強くなる。今度こそ守れるようになる為に」
涙を拭い立ち上がるコルン。リンもまた涙を瞳に浮かべながらも気丈に振る舞う。そしてそれを白けた目で見る少女が居た。
「こいつらか。アスタールが守ったのって。片方は知らないけどもう片方は久しぶり?」
二人は得体の知れない悪寒に従い振り向きながら剣を構える。そこに居たのは小柄な白い少女だ。翠の瞳は何も映していないかのようにも中身を見透かされているような気にもなる。
「ん……他にも居た筈だけど今は……宿屋かな。この感じだと私に関係あるのを集めてた?忠犬みたい」
その白い少女、スイはコルンの方を見ると面倒臭そうな表情を浮かべる。
「折角助けてあげたのにまた出会うなんて嫌な運命だね。そういう星のもとに生まれちゃったの?」
少女の言葉にコルンは首を傾げる。その様子にスイは少しだけ頭を悩ませると理解した。
「ああ、あの時と声が変わったからか。グライスに声は渡しちゃったもんね。なら……ん、んん!あ、あぁ。こんな感じだったかな?」
スイはグライスに渡した筈の声を物真似だけで出してみせる。そしてそれでようやくコルンは気付いたようだ。汗を流し腕が震え今にも武器を取り落としそうだ。足は回れ右をして逃げたいのか力が完全に抜けてしまっている。
そんな尋常でない様子のコルンにリンは気付く。コルンを庇うように前に出たリンはスイの姿を見て脅威的には感じなかった。どうしてコルンがこれ程までに怯え切っているのかは分からないが今動けるのは自分だけだと気を引き締める。
「ん、これも縁だしいっそ人を辞めてみる?今よりかは強くなれるよ。ただし死ぬ可能性もあるけど。あ、いや、うん、そうだね。拒否権なんて与えないでおこうか。アルフ達の為に眷属化の実験させて?」
そうスイは言うと一歩踏み出す。その瞬間弾かれたようにリンが切り掛かる。その姿を見てスイは哀れなものを見るようにふと腕を差し出してその身体を裂いた。
(私は……どうなったの?確かあの子に切り掛かって……そしたら腕で私の身体を……!?)
リンの視界にコルンが見える。泣きながら少女に懇願しているようだ。それに少女は答えたのか少女の口がコルンの首に……!!やめて!駄目!そんな声を出したくても身体は全く動かない。そして首に口を当てられたコルンは最初は痛がっていた筈なのに途中から少しずつ喜んでいるかのようになっていきそこで私の意識は途切れた。
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