第159話 訪問



「……………………」


私は項垂れながらひたすら罵倒を受け流す。目の前に居る女性はそこそこ年齢がいっているのか化粧を派手にして誤魔化そうとしているおばさんだ。このおばさんはルンの母親なのだが最初に会った瞬間、私の謝罪を聞く前にいきなり近寄って来て思いっきり顔を叩いて倒してきた。その上突然の事で動けなかった私に対してひたすら泣きながら罵倒するという器用なことをしている。

まあ母親としておかしくない反応といえばそうなのだろう。どんな状況で仕方なかったとしても自分の子供が死んだのだ。もしもその原因の一端を担ってそうな者が来たら感情的になってもおかしくない。

まあそのくせ一緒に来たジアに対しては怒らない辺り変に冷静な部分もあるようだが。ジアは貴族じゃないとしてもこの帝都の一番隊の隊長の息子だ。顔が知られているのだろう。あれ、おかしいな。一応私も母様の娘だという情報自体は流した筈なのだが考えてみればあまりそういう反応を示されたことがない。実は知られていないのだろうか。


「貴女さえ!貴女さえ居なければ!」


まあ確かに私が居なければ間違いなくルンは死ななかっただろう。というか殺したのは私だし当たり前だが。でもその殺す原因を作ったのはこの家の先祖だ。文句は是非ともそちらにお願いしたい。

項垂れながら聞いている振りをしていたら視線を感じた。応接室の扉が少しだけ開いていてそこから小さな男の子が見ている。小さいとは言っても発育がそれほど良くないだけで実際はもう少し上なのだろうが十歳くらいにしか見えない。ディーンみたいに九歳なのに五〜六歳にしか見えない子も居るしそういう感じかな?ちなみにディーンはしっかり食わせてるおかげか今では身長こそまだそこまでだが九歳と言われたら納得出来る程度にまで成長している。

その男の子は私の顔を見るとほうっと息を吐いて見惚れ始める。いや私に見つめ返されてるのに凄いなこの子。その男の子の顔は女の子にしか見えない。髪も長めでちょっとお洒落さんな子だ。男物の服を着ているので男の子だと判断したけどもし違ったらどうしよう。


「貴女が死んでしまえば良かったのよ!いや死ね!死んでしまいなさい!」


それは許容出来ない。おばさんは凄くヒートアップして私に馬乗りになって首を絞めようとしてくる。さっきまではあくまで起き上がらない私に罵倒していただけだったので好きにさせていた先生だったが流石にそれは不味いと判断したのかおばさんの腕を取り引き剥がす。若干首を絞められて少しだけしんどい。油断した状態で首を絞められたりしたら死ななくても辛いと覚えておこう。

ちなみにジアはおじさんに泣かれながらも罵倒されたりとかはないようだ。何故私だけ。あと先生はあの初老の男性だ。この人最初から最後まで無難に終わらせようと奔走してくれたから嬉しい。やっぱりこの人は欲しいかな。普通に優秀な人に思える。



さて首を絞められたりとハプニングはあったが結局のところは何事もなく?終わった。あくまで謝罪と状況説明の為だけだから何かあったら困るのだが。いや襲撃されたな。あれはハプニングで良いか。正直どうでも良い。

クザの家の方だがルンの家とは違い終始クザの阿呆さ加減を嘆いていた。どうも普段から馬鹿な行動を取っていたようだ。唯一褒められた事がルンと知り合い恋仲になった事らしい。というか恋仲だったのかあいつら。その為何故か謝罪と状況説明をしに行って謝られるという不思議な経験をしてクザの家訪問は終了している。

今は寮に戻ってゆっくりしている最中だ。流石に帰っている最中に襲うほど馬鹿ではないらしく行きと違い帰りはゆっくり出来た。何があったかアルフ達に聞かれたけど答える気も無いのではぐらかしておいた。アルフ達にルンの家での事を言ったら襲撃しそうだったからだ。まあ私がするから一緒にしても良いのだがこれにアルフ達は関係無いしこの襲撃自体も私の自己満足に近いので手伝わせたりはしない。

指輪から王城襲撃の際に使った認識阻害のマントを出す。真達のように不思議な目の持ち主が居ないとも限らないので少しだけ認識阻害の強度を上げて物理的にも見えないように顔の部分に付ける仮面を作っておく。

仮面ってどんなのがあるのだろうか。全くイメージが湧かない。いつかドラマで見た仮面舞踏会の上半分だけの仮面が思い付いたがあれは実際に隠せているのだろうか。かといって蒸れそうな顔全部を覆う仮面はしたくない。可愛くないだろうし。

暫く唸っていて最終的に仮面案が無くなり薄い布を多重に合わせたやつになった。名前は知らない。というか興味が無かったしこれ自体拓が教えたやつだ。

まあこれだけだと実際あまり意味がなさそうなので布一枚一枚に認識阻害の術式を付与していく。私ですら見えないのだ。きっとまともに見れるものはいないだろう。


「少し見にくいけど一応使えるかな?後はマント……いやローブに改造しよう。そっちの方がそれっぽい。何がぽいのかは分からないけど」


変なノリで作ったが結構似合っている感じがする。着てみると何だか良い。何がかは知らない。この姿のままアルフに会いに行ったら気付いてくれるだろうか。そんな事を考えていたら突撃していた。今私は男子寮間近です。この後血生臭い光景を見る事になるので不安になったのだきっと。

アルフの反応は男子寮の庭のようだ。今更だけど寮に庭があるのが不思議でしょうがない。まあ気にしても仕方ないのだが。庭でアルフは剣を振っているようだ。コルガではない。あんなものブンブン振り回していたら風切音だけで生徒達が飛び起きる事だろう。


「ん?誰だ!!」


アルフに気付かれた。認識阻害のせいで気付きにくいのに良く分かったものだ。ここはノリに任せてみよう。


「ふふふ、誰だと思うアルフ君?」

「……何してんだスイ?」


え、あれ、気付かれた!?早くない!?おかしいな。認識阻害は正しく発動している筈なのだが。とりあえずしらばっくれてみよう。


「スイ?誰の事かな?まあ良い。折角の私との逢瀬なのだ。他の者の事は考えて欲しくないものだね」

「……何かそういうノリで返せば良いのか?えっと、くっ、誰かは知らないけど敵なら容赦はしないぞ!」


うん、これ完全にバレてるね。どうしよう。ちょっと収拾が付かない。


「……何で気付いたの?」

「ん、ああ、あのノリは終了か。というか俺がスイの事を見間違えるかよ。認識阻害されていようが好きな女の事を間違えたりしない」


顔が真っ赤になるのが分かる。不意打ち過ぎる。


「わ、私もアルフの事好きだよ」

「うん。知ってる。愛されてるなぁって本当思う」


アルフが私を言葉で殺しに来てる。ノックダウンするまでそう時間がかかると思えない。そんな事を考えていたらアルフが近づいて来て私を抱き締める。


「あ、アルフ?」

「逢瀬なんだろ?俺にわざわざ寮が違うのに会いに来たんだ。少しくらい楽しんでも良いか?」

「え?えぁっ、は、ひゃい」


え、まさか、そういう、そんな感じ?ちょっ、心の準備が。

アルフに部屋に連れ込まれた。えっと、あのキスとかばっかだったです。それ以上はあんまりしてないけどちょっと腰が砕けて三十分ぐらい動けなかった。幸せ過ぎてちょっと甘え過ぎたかもしれない。この後ルンの家行くの嫌なんだけど。ここから魔法で区画ごと潰すとかじゃ駄目かな?



さて、気を取り直してルンの家の前だ。結界を張っているので周りに気付かれる心配もない。アルフとの逢瀬でちょっと幸せだからダイジェストでお送りするね。

ルンの家でおばさん発見。全裸にして路上で放置。顔やスタイルだけは良いからもしかしたら襲われるかもね。放置した場所スラム街だし。きっと何も出来ないだろう。身に付けていた宝石とかはスラム街の女の子に渡しておいた。換金する際はグルムスの家に行くように言っておいた。

おじさん発見。斬首。何か言ってたけど無視。こっちはスラム街の犬達に渡しておいた。犬というより野犬だけど餌としては十分だろう。私は人肉を食う犬とか見たくないので捨てた後は一目散に去った。

男の子発見。連れ帰った。いや何かこの子私に心酔しているのか出会った瞬間泣いてお願いされたんだもん。一緒に連れて行ってって。

アピールポイントとして書類業務や情報収集、領地経営の手伝い経験とかを推された。どうも親に対しては特に何も思っていないようだ。私とは違う方向性の狂人だろう。何せ父親の死体を見てありがとうって言ってきたし。

執事やメイドを発見、どうしよう。悩んだ結果従属するなら生かしてそれ以外は殺す事にした。まあそう伝えたら死にたくないからか従属を選んだけど。二十人も増えた。要らない。グルムスとの繋がりは流石に分からせたくなかったのでこのまま男の子に仕えるように指示を出した。

お爺さんとお婆さん発見。多分祖父母。四肢を引き裂いてから異界に捨てておいた。きっと美味しく頂かれることだろう。

家は壊しておいた。腹が立ったし。金目の物とかは男の子に渡しておいた。つまりこれでお家断絶した感じだ。男の子には別の人として生きるように指示してある。グルムスとの関わりはこの子には伝えているからきっと有効活用するだろう。

こんなものかな。アルフとの逢瀬は今後継続して行なっていきたいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る