第147話 襲撃
「さてと、俺は俺で仕事しないとな」
スイに新たに作って貰った使い捨て用の大剣を担いでディーンの居る方とは真逆の門から歩いて近付く。というか門が四方にあるって一体どういう作りをしているのかってスイが悩んでたな。まあ四方にあってもそもそも城自体が広いからあんまり関係は無いのかもしれない。むしろ無いと不便かも。
「そこのローブ!止まれ!それ以上近付けばそれ相応の覚悟をしてもらうぞ!」
門を警備している初老の兵士が槍を向けてくる。だから俺はその場で止まって大剣を地面に突き刺す。
「まあ出来るだけ派手にって話だし本気でやってみるか」
少数で城が落とされたら権威はガタ落ちだから出来る限り大暴れして欲しいって話だ。まあ兵士の人達に恨みは無いし何なら俺達の方が悪だけど。
「それでもこいつらのせいで亜人族の立場が悪くなったし俺個人とすれば憂さ晴らしとしては嬉しいけどな」
俺が奴隷になったのも腹が立つけどそのお陰でスイと出会えたと思えばそう悪くもない。まあ腹が立ったのは事実だ。後街を歩いている最中の奴隷に対しての侮蔑の視線にも苛つく。
「って事でまあ死んどけ。自業自得だ」
「何を!?」
さっきまで小声で言っていたから気付けなかったようで慌てて槍を振るおうとした瞬間俺は突き刺した大剣を勢いよく抜き放つ。三メートル近い地面と共に抜き放たれた大剣を大きく上に掲げる。
「
振り下ろした大剣からビキっと嫌な音が鳴るが元から使い捨てだ。気にもしないでスイに作ってもらった指輪からもう一振りを取り出す。
「……ここはもういいか」
前に居た兵士の姿はもう居ない。あるのは木っ端微塵に粉砕された肉片と血飛沫で後は守っていた門の残骸だ。俺の振り下ろした先に斬撃が飛んだのは良いが中心部には何かしらの防御手段があるらしく傷一つない。けれどそれまでの道のりは悲惨なことになっている。道は抉れ途中の宿舎と思しき建物は半壊状態、何人か巻き込んだのか所々に血飛沫が飛散している。
「中に入れとまでは言われてないしあんまり奥に行って戻れなくなったら最悪だ。火力で劣るフェリノの所にでも向かうか」
俺は呟いてその足を別の方向へと向けていく。その姿を見る者は居ない。
「意外に脆いのかしら?」
私は魔法を使えば良いから門の前にはいない。遠くからヴァルトを使って戦況の把握をしながらそのヴァルトから魔法を使ったり直接斬りに行かせる。既に門を守っていた兵士は斬り刻まれてその骸を晒している。門も魔法によって削り切られ今は城の内部を短剣が飛び交うという地獄絵図が繰り広げられている。
「スイが言うには脆すぎるから内部には強い人が居ると思うって言われたけど居なそうよねぇ」
「ならばここで死ぬか?悪党よ」
路地裏で独り言を呟いていたらいきなり斬りかかられたので避ける。当たり前だが自分の護身用にヴァルトの幾つかは手元に置いている。接近には気付いていたが数は少数。取るに足らないと判断した。これならスイと手足不使用縛りで組み手をやった方が余程恐ろしい。何故あれで動けるのかさっぱり分からない。
「あら?無粋なお誘いね?」
私の目の前に居るのは二つの剣を模った腕章を付けている部隊。恐らく騎士団の中でも強いらしい二番隊。その一部の精鋭部隊だろう。わざわざ私の為に出てくるとは驚く。
「貴様を殺せば騒動が治まるというなら幾らでも出てやるさ」
「口に出してましたか?」
「いや、出してないが雰囲気で分かるさ。今すぐ襲撃をやめるなら一応今死ぬ事は無いぞ?」
そう言いつつもそれは後に死ぬか今死ぬかの差でしかないだろう。
「それで投降すると思ってますか?」
「一応言っただけだ。どちらにせよ捕縛に失敗してお前は死ぬ予定だからな」
そう言うと先程から話していた分隊長らしき男が剣を掲げて斬りかかってくる。他の騎士達も散開していく。
「ヴァルト」
手元に握ったヴァルトに呼び掛ける。すると刻まれたもう一つの術式、
「ん〜、久しぶりに使ったけどやっぱり強いわねこれ。あんまり多用していると腕が鈍っちゃいそう」
そう言いながらもそのヴァルトを指揮棒のように振るうとそれに応じて大量の水が騎士達に襲い掛かる。
「まあ、さっさと終わらせてしまいましょうか」
ローブの内側でほんの少し嗜虐的な笑みを浮かべる悪魔がそこに生まれた。
「どうしよっかなぁ?」
一気に接近して門の前にいた兵士は斬り倒したは良いものの門を壊すだけの力がない。開けようにもどうやら何かの魔法的な措置がされているようで開けられない。
「
フィーアに似た形に作って貰った剣をぶらぶらさせながら門の前でじっと立つ。先程から門の向こう側で兵士達が息を潜めて隠れているのが分かる。バレていないとでも思っているのだろうか。
「ん〜、こっち側からは諦めるかなぁ」
そう門の向こうに居る兵士達に聞かせるようにしてから少し離れた位置で剣を刺突の形で保持する。
「ま、力が無いけど壊せないなんて言ってないよね」
あくまで門を派手に壊すことが出来ないと言うだけだ。門の向こう側に行くだけならそれほど難しくもない。
「ごめんね?何か騙しちゃって」
門の向こうの兵士には聞こえていないだろうがそう呟くと自分が出せる最高速度で一気に門に近付くと剣を突き出す。最初はザクッと刺さった音、その数瞬後に巨大な音が近付いてきて門を一気に爆砕する。
いきなり壊れた門を見て兵士達が呆然としている。その壊れた場所から入ると兵士の首を掻っ切っていく。十人いた兵士はものの数秒で全員首無し死体と成り果て地面にその身を横たえていく。
「ひ、ひぃぃ!た、助け」
少し離れた位置にいた新米らしき女性兵士が腰を抜かして股の間に染みを作っている。それに無造作に近付いていく。
「あ、あぁ、しに、死にたくない」
ガクガク震えながら命乞いをする女性を見て剣を鞘に収める。それを見て助かると思ったのかはたまたあまりの恐怖に意識を失ったのかふらっと倒れて地面に横たわる。
「……まあ全員殺せって話じゃないし良いか。大して強くもないみたいだし」
一応女性兵士が持っていた剣を回収する。特に名剣の類でもないごく普通の支給品の剣だ。それを手元で弄びながら城の方を見るとどうやらかなり慌てているらしく窓から逃げようとする者や重装に身を包んで後ろに非戦闘員を匿っている者、扉を閉めて結界を張って防御に徹する者など色々な者がいた。
その中で数人見付けると
「流石。私じゃすぐ気付かれちゃうな」
そう呟いてその場をサッと立ち退く。多分自分を迎えに来るだろうなと自分の兄を思いながら。
私の目の前には重厚な扉が立ち塞がる。空から侵入に成功した私は出てくる兵士達の首を一撃で折りながら進んで行くとこの扉を見付けたのだ。謁見の間とかそんな感じの場所だろうとは思う。道のりがそんな感じだったし。この状態で謁見の間に居るとは思っていなかったのだがだからこそ居るのかもしれない。中には複数の人の気配だ。
扉には結界が張ってあったが問答無用で蹴り飛ばす。私を止めたければ攻性複層結界でも持ち出してこないといけない。まあその程度ならやっぱり問答無用で蹴り飛ばすけど。
「やはり止めれんか。賊よ。我が首を取りに来たか」
そこに居たのは予想していた通り無駄に豪華な服装をして王冠をその頭に乗せたそこそこ高齢の男性だ。その付近には近衛兵と思われる精鋭が立っている。
「……貴方に興味などない。イジェ、私は貴女に用がある」
王の横で静かに座る高齢の女性を見る。呼び掛けられた事でかそれとも私の姿を見て気付いたのか何も言わずじっとこちらを見る。
「我が妻に用だと?貴様何者だ」
「黙れ、お前と話す事はない。イジェ、今すぐ亜人族の奴隷化を撤廃しろ。貴女が主導したのは分かってる」
「なる程、亜人族の者であったか。それならばこの襲撃にも理解出来る」
イラっとしてきた。なんでこいつはいちいち口を挟んでくるのか。消し飛ばしてやりたい。
「だが少数で何が出来る。我等が力を振るえば亜人族は二度とこの地を踏むことも出来なければ最悪あの大陸ごと無くしてやっても構わないのだぞ?」
「……はぁ?」
大陸を無くす?何を言っているんだこいつは。何でこんな勘違い甚だしい言葉を口に出来るんだ。何故この状況で調子に乗れるんだ。父様が亜人族のため作ってあげたあの大陸を無くそうとする?こ・ろ・す・ぞ?
「…………」
「無駄に正義感が強いのかもしれんがそれは悪手である。我等を完全に敵に回したいのか?今襲撃をやめ奴隷として大人しく捕まると言うのならば多少の罰は与えねばならんが亜人族全体に悪影響を与えぬと誓おう」
「……死ねよ。要らない」
私は一気に近付いて拳を振り抜くが途中で気付いた近衛兵が身を挺して護る。その程度で護れると思うな。
近衛兵の胸を貫通した状態で王の首を狙う。しかし少し速度が落ちたせいか他の近衛兵達が王の身体に体当たりして無理やり退かす。そのせいで二人目の頭に当たって破裂させてしまった。
「逃げないでよ。王を代替わりさせて従順にする計画を今から遂行するからさ?」
私は無表情のまま二人の死体を捨てる。
「動くなイジェ、今護ろうと動くなら私は貴女を斬り捨てる」
イジェが動こうとしたので先に牽制をしておく。今私は冷静ではない。敵ではないと分かっていてもイジェごと斬り捨ててしまう可能性が高い。だから動いて欲しくなかった。
「……貴女は、いいえ、貴女様は……」
「気付いた?なら貴女がすべき事は分かるよね?」
そう言った私の目の前でイジェは頷くとゆっくりと若返っていく。その姿を見て王は放心していた。こいつ最後は全部裏切られながら死ぬのも良いかもね。
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