第139話 推理
「…………」
昨日私は誰かも知らない襲撃者によって命を狙われた。かなりの手練れであり首を攻撃される寸前まで一切気付かなかった。その後の腕前もかなり高くはっきり言ってフェリノが来たからこそ助かったといえる。
そのフェリノはあんなことがあったばかりなのでスイの隣でかなりピリピリしている。アルフ達はその姿を見ていないので警戒こそしているがかなり曖昧だ。
「フェリノ、流石に授業中は来ないと思う。フェリノが来た瞬間に帰ったことを思うと誰かに見られたい訳じゃないんだ」
「でも……」
「私は大丈夫だから」
そう言って私は無理やりフェリノを引き離す。かなり怖くはあるが常に行動が共に出来るわけではないのだ。私一人での対処も考えておかなければいかない。襲撃者が弱ければ幾らでもいけたのだが。
「……(あの襲撃者は私を魔族だと知っていたのかな?それとも知らずに襲ってきた?」
その辺りの目的も分からない。魔族か否かを理解していたのかどうかが分からなければ襲撃者の見当も付かない。まあ分かったところであまり意味は無いのだが。
私は悶々としながら実技授業へと移動する。当然一緒に行くのはジアのみだ。ルゥイは同じクラスではあるが滅多に教室に戻ってこない。生徒枠というより臨時教師枠に近いのだろう。そのため教室でルゥイを見かける事の方が少ない。
「スイどうかしたのかな?眉を潜めてさ。可愛い顔が台無しだよ?」
ジアにそう言われて驚いた。私がピリピリしているのを理解されるとは思っていなかった。表情には出さないようにしていたつもりだがまさか会って数日のジアに見抜かれるとは。
「良く分かったね」
「ん?あぁ、表情が薄いからかな?人の顔色を覗くのはそこそこ得意なんだ。何か悩み事があるなら相談に乗るよ?」
ジアはそう言って少し歩くペースを落とす。話を聞く態勢をさりげなく作る辺りにジアの優秀さが垣間見える。
「……ジアを巻き込みたくないから言わない」
下手に隠し事をすればジアのような人はさりげなく情報を集めて助けようとする。それが分かったので最初から関わらせたくないと明言しておく。しかしそれに対してジアは恐ろしい事を小声で返してきた。
「……それって君が人族じゃないことと関係しているかい?」
「!?」
思わずジアを見ると真剣な表情であり冗談で言ったわけではないと理解出来た。いつ気付かれたというのか全く分からない。ぼろを出したつもりはないがどうしてそう思ったのか。
「あぁ、やっぱりそうなんだね。という事は魔族かな?見た目の特徴的には吸血鬼族。現在の魔族達から逃げてきた、又は抵抗している……合ってるかな?」
「……ど、うして?」
「……場所を変えようか。授業は……まあ一回くらいサボっても大丈夫だよね」
ジアはそう言うと私の腕を取って学園内部を歩き回ると暫く使われていないのか妙に埃っぽい教室の中に連れてきた。鍵が無いので代わりに魔法で岩塊を作ってつっかえ棒にしておく。
「さて、どうして僕が気付いたのか言おうか。正直最初は普通の子に思ってたよ。おかしく思い始めたのは至って簡単だ。魔法暴発事故、あれの生徒がいまだに見付からないって事かな。結界内部での出来事を教師が一切把握していないっておかしいなって思った」
「それだけじゃ私に辿り着くのは」
「うん。無理だね。でも僕が得た情報を組み合わせたら君に辿り着いた。アルフ達の言う主人であるスイの強さ、幼い癖に異常すぎるって事。此処から実際は歳上か幼くても関係ない種族かなと思った。街の至る所での工事現場、異常な数の怪我人、此処から実際は何かしらの襲撃がありそれを隠されたんじゃないかと考えた。まあ隠す意味が街の人には無いから第三者の手によって変えられたんだ」
「……続けて」
「はっきり言って何故気付かなかったのか不思議なほど違和感を感じなかった。そこから認識そのものを変える能力か魔法、魔導具を誰かが使っている。魔法はありえない。魔力的にも、魔道具も同様にそんな長く続くわけがない。つまりそういう能力。だから魔族が関わっていると考えた。そこから襲撃してきたであろう者も魔族であると仮定した。まあそれがこの街にいるであろう魔族を狙ったものか学園そのものへの襲撃かは分からなかったけども」
「……学園に対しての恨みを持つと思われる人族を仮の魔族と化して襲撃してきたよ」
「ありがとう。ちょっともやもやが晴れたよ。そしてその後すぐに君が居なくなり戻ってくるまで一月以上のタイムラグがあった。しかもその際アルフ達が少し動揺していた。その事から予想外の出来事であると仮定した。先の襲撃事件と合わせて再度襲撃されて連れ去られたのだと思う。ちょうど凶獣二体による襲撃があったから陽動だったのかもね。じゃあ何故君が拐われたのかを考えた。まあ結論は簡単。情報を知る者だからだ」
ジアはそこまで言うと少し言葉を区切り私を見る。私は殆ど完璧な推理に頷くしか出来なかった。
「良かった。推理したのに間違えていたらどうしようかと思ったよ」
「殆ど完璧だったと思うよ。否定しようとしたのに出来なかった」
「そっか。まあ後もう一つ理由があるんだけどね」
「何?」
「魔族の知り合いが居るんだよ僕。というより僕の母がそうだね」
「……は?」
一瞬何を言われているのか分からなかった。魔族の腹から産まれた存在ならばジアは魔族の筈だ。しかしその様子はない。
「母は僕を普通に産んだんだよ。魔族としてではなく普通の子供として。だから僕は素因を持っていないし事情もある程度知っている。まあスイが授業中にした質問を聞いて大丈夫かなって少し不安に思ったけどね」
そう語ったジアを見て私は少し強張った身体がほぐれる。
「はぁ……そっか。なら良かった。もしも敵対するようならどうしようかと思った」
「あはは、僕は友達を裏切る様な人じゃないんだよ?」
ジアを少しだけ睨んで指輪から適当にジュースを出して渡す。喉が渇いたのかジアは礼を言うとすぐに飲む。私も緊張したのか少し喉が渇いていたので喉を潤す。
「ちなみに君の立ち位置はどんな感じなのかな?そこは分からないんだけど。母に聞いたら分かるのかもしれないけど流石に今から家に行くのはね」
「ん、私の立ち位置。魔王ウラノリアと北の魔王ウルドゥアが娘」
「へぇ、魔王ウラノリアの……えっ!?」
「何?」
「えっと、地位的にかなり高い?」
「王位を簒奪されたから何とも言えないけど一応元王女?お姫様になるらしいよ。まあヴェルデニアが居なかったら私は生まれていないしどう言うのが一番かは分からないんだけど」
私の発生をヴェルデニアが来る前から研究していたならば間違いなく元王女、元お姫様だと言えるのだがタイミングが分からないのでどう言うのが正解なのだろうか。後で母様にでも訊く事にしよう。
「あぁ、なら前に言ってた欲しいって……」
「ジアさえ良ければ私の眷属にでもして終わった後にハーディスで要職にでも付けようかなって」
「かなり偉い人からのスカウトだったわけだ。これは思ってた以上の大事だったね」
ジアがそう言って額を拭う仕草をした瞬間突如として窓が割れて何かが飛び込んでくる。咄嗟に警戒してジアを引き寄せて前に出ると飛び込んできたその小柄な影は私の前までやってくると滑り込むように土下座をした。
「申し訳ありませんでしたー!!!」
全力で叫んだ襲撃者はぴくりとも動かず綺麗な土下座だ。私は事態が全く飲み込めずとりあえず小柄な影をチラッと見る。ちょっと見覚えがある猫耳に思わず顔を覗き込む。
「メリティ……?」
そこに居たのは意外な人物で私は暫くの間混乱することになったのだった。
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