第105話 何でそうなった
「……臭い」
さて、今私がしているのはあの岩穴?の中の捜索だ。商人親子達に教えられたのはこの岩穴の中の何処かに隠した宝物がある筈という情報だ。ぶっちゃけ私はそんな物要らなかったのだが商人親子は自分達の財産である荷物を食い荒らされたばかりだ。あの親子にあげれば印象も更に良くなるだろう。遠慮されても押し付けてしまえばいい。
しかしそう考えた私を今は若干後悔している。理由は最初に言った通りだ。臭いのだ。半端なく。まともに掃除もしていなかったのか至る所にゴミが落ちているし何処かにトイレ代わりの場所があるのか臭いが漂ってくる。唯一まともな場所だったのが最初の広間とは一体どういうことか。
ちなみに商人親子には広間の外で待ってもらっている。流石に目の前で人が死んでいく光景を見せられたら人の命が軽いこの世界であっても多少の動揺はするだろうし何より死体だらけの広間に置くのもどうかと思ったのだ。
ちなみに岩穴の外にしなかったのは魔物がいるからだ。基本的に弱い魔物しか居ないと言っても不意を突かれたらどんな者であろうとも死ぬ。どう見ても戦えるようには見えないので中に居させたという事だ。
「ん、見付けた」
大した物は置いていないがかなりの量が置いてある。というか普通に多い。屈強な男が十人がかりで運び出しても十回は往復しないといけないほどと言えばどれ程の量か理解出来るだろうか。何でこんなに溜め込んでいるのだろうか。食料にしか興味が無かったとかそんな所だろうか。
ふと気になったので広間に戻ってくる。あ、当然宝物は指輪の中に全部入れた。指輪が便利過ぎる。これからもお世話になります。
広間の中には当然スイが殺した盗賊達の姿がある。その服装を見ていくとどの盗賊達も似たり寄ったりな格好をしている。ぼろぼろの麻の服に麻のズボン、何人かは綿が入った服を着ているようだ。
ちなみにこの世界に麻や綿は無い。それっぽい素材というだけだ。名前を知らないが確か何か凄い横文字だったと思うのだがそんな素材関係について父様が覚えているわけないので私の記憶の中には存在しない。また機会があれば調べておこう。
服装の統一をしていないのであればこれは同じ場所出身というのが正解だろう。であれば何処かの村の生き残りとかだろうか。そして生き残った全員で街に向かいたかったが何らかの理由で入れない、もしくは弾かれた。故にここで盗賊活動をしていた。宝物はあっても売り先が無いので放置とかだろうか?まあ合っているかは分からないがと思った所で以前結局使わなかった魔法を思い出した。
「
死体から記憶を抜き取る魔法だ。死んだ直後にしか使えないが比較的有用な魔法ではあるだろう。ちなみにスイが作った魔法では無い。グルムスがかつて作った魔法だ。
読み取った記憶は頭の記憶だ。そして分かったのは盗賊達が元村人であったこと、大暴走で村が壊滅したこと、その時期が秋で食料が貯められなかったこと、その為に冬の街道を行くだけの体力が無く偶然寄った行商人を殺して食料を奪ったこと、犯罪を犯したことで街の門が通れなくなってしまったこと、そして街道に陣取り盗賊としてやっていくことになった、というものだった。
おおよそスイが想像した通りであった。ちなみに頭はその村の村長の息子だったようだ。境遇は可哀相には思うがそれで人として堕ちてはいけないラインにまで堕ちたら駄目だろう。確かに最初の殺人は村人を助ける為の苦肉の策だったのかもしれない。
しかし盗賊となり途中から殺人を愉しむようになってしまってはもうどうしようもない。最初の殺人の際に数人で行商人と一緒に街まで行けば良かったのだ。そこで助けを求めたならば何とか出来たかもしれないのに。
スイはせめてと思い盗賊達の死体から武器を取り村人の姿にした後魔物に殺されたように偽装していく。その後指輪の中に入れる。後で村人の住んでいた村に埋めに行こうと思う。
そうした後に広間から出る。商人親子の元に向かうと近くに寄ってきた。子供はキラキラした目を向けているが若干引っ込み思案なのか母親の背に隠れたままだ。
「先程も言いましたが改めて助けて頂きありがとうございます。この事は一生忘れません」
縛られていたのを解いた際に男性から言われていたがそれでも言いたかったのか再び頭を下げて感謝の言葉を述べる男性。その隣で女性も頭を下げ子供も良く分からないなりにペコっと頭を下げる。良く見ると子供の年齢はせいぜい幼稚園児かそれより少し上かといった程度だ。それで……そんなに発育が……女性もスタイルが良いし遺伝子というものの不公平さを感じる。
「気にしないで。そういえば盗賊達の宝物はどういう扱いなの?」
今までは自分達だけだったので奪った後は気にしていなかったが今回は親子がいる。盗賊達の宝物の通常の扱いが分からない。
「通常は討伐した者の総取りとなります。複数なら山分け、兵士や騎士が討伐しに来た際は国が、国からの要請で冒険者等が混合なら総人数で割合を決めてそこから山分けとなります。兵士十人と冒険者二十人なら一対二ですね。十人単位になるように国が調整したり冒険者ギルドが調整するので複雑な割合にはなりません。こんな所でしょうか」
「なら今回は私の総取り?」
そうスイが訊くと男性が頷く。
「ん、なら宝物は貴方に渡そう。私は要らない。反論も認めない」
スイがそう言い切ると男性が酷く驚く。女性も目を見開いている。子供は何の話をしているのか理解出来ていないようでつまらなさそうな顔をしている。
「えっと、あの、流石にそれは……私達は助けられた側ですしそもそも死んでいたかもしれない身です。そこまでして頂く訳にはいきません」
「でも貴方の荷物は全部無くなったでしょう?」
「うっ、いやそうなのですがしかし…」
「良いから受け取って。さっきも言ったけど私は要らない。それに……私が何か分かってるでしょう?」
そうスイが言ってほんの少しだけティルを動かす。男性は分かっているのか少しだけ顔を強張らせたがそれでもすぐに首を横に振る。
「それでもです。ここで施しを受けようものなら商人としては良くても人として堕ちてしまいます。それだけは駄目なのです」
そう毅然として言い放つ男性。
「ん〜、困ったね。ならこうしよう。私の正体が魔族なのは分かるよね?幸い分かりづらい種だから魔族とバレる心配は比較的少ないけれどずっとそうとは言えない。だから私の専属の商人にならない?今は活動拠点が帝都だからそこに向かう必要があるけどどう?嫌なら断ってくれても良いよ」
「少し妻と話ししても良いでしょうか?」
「良いよ。気の済むままに話し合って。あっ、それとゴリラ…じゃなくてヴェルジャルヌガの生息地って知らない?あと数時間したら十数体は狩っていかなきゃいけないんだけど」
「何故ヴェル何とかを?」
「元々私それを狩りに来たんだけどね。その時偶然ここに来たの。まあ商人連中に売り付けるためだよ。というかヴェル何とかが正式名称みたいになってるんだね」
何と可哀想なゴリラだろうか。名付けられた当初は強い魔物として猛威を振るっていただろうに今では正式名称で呼ばれることすら稀な存在と成り果てているとは哀れすぎる。
とりあえず教えてもらった場所は荒野方面の奥地にある湖らしい。そう言えば通った時も湖らしきものが遠目にあったような気がする。暑かったので無視して馬車で引きこもっていたが。
一応親子には魔力でマーキングしておいたので場所はすぐに分かる。ヒークも呼び出しておいたので護衛も完璧だ。ヒークが倒せない魔物などあの辺りには居ないので大丈夫だろう。ではゴリラ狩りに行ってきます。
終わりー。狩って来ました。ゴリラ達。いやあ意外な連携を見せてきたりして面白かった。曲芸のように股の間から小さなゴリラが突撃してきたりキューティクルが高すぎる個体が私によって投げられたゴリラを自らの毛で滑らせて助けたりゴツゴツしている筈の地面を滑ってスライディング仕掛けてきたりキュッと音を立ててブレーキ掛けて攻撃を避けたりと凄い楽しかった。
余りに面白かったので殺すのが勿体なく感じてついつい威圧感を出しながら魔力で空気そのものを重くして創命魔法で眷属にしてしまった。もしもこれが出来る個体達がこのゴリラ達だけだったら凄く勿体無いと思ったのだ。後悔はしていない。
えっ、ゴリラ狩ってきたんじゃなかったのかって?狩ってきたよ。別の場所に居た群れを。そこのゴリラは何か普通のゴリラだったのでとりあえず全部蹴り殺して瞬殺してきた。
眷属にしたゴリラは合計で十二体。キューティクルゴリラ(メス)が四体、スライディングゴリラ(オス)が三体、股潜りゴリラ(オスとメス)が二体、ブレーキゴリラ(オス二体メス一体)が三体だ。とりあえず後で魔力をあげて強化しておこう。
今は股潜りゴリラの二体を抱き締めている。意外にふわふわしていて癖になる。ちなみに股潜りゴリラの大きさは大体小学生五、六年生くらいの大きさ。でもゴリラです。軽く岩くらいなら握り潰せます。流石ゴリラ、さすゴリ。
と下らない事を考えながら岩穴に戻ってくる。そこでは男性が待っていて考えがまとまったのが分かった。
「ん、どうするかは決めた?」
「はい。私達は貴女の専属となりたいと思います。よろしくお願いします……ところでその…ヴェル何とかは一体?」
「これから私が飼います。気にしないで」
うん。凄い呆然としてる。まあそりゃそうだよね。狩るって言ってたのに何で持って帰ってきて飼うんだって話だよね。ごめん。でも意外にこの子達可愛いから許してね。
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