第53話 突然の襲来



お兄ちゃんの話が終わり壇上から降りる時にそれは起きた。突然、そう突然だ。魔族の気配が真後ろから発生した。


「っ!?」


私は急いで後ろを振り返る。当然母様もグルムスも揃って振り向く。ルゥイはそこから一泊置いて振り向く。その右手にはいつの間にか白く輝く剣、天剣シャイラが掴まれていた。振り向いた瞬間起きたのは強烈な爆風。耳が痛くなるほどの轟音と衝撃が私を襲う。

私はすぐに右手に指輪から断裂剣グライスを出現させて握る。


<……戦闘?>

「みたい。いくよ」


グライスの声に返事を返しながら椅子を飛び越える。先程までのドレスに黒羽ティルを纏う。入り口付近は先程の爆発のせいか煙が立ち込めていてどうなっているか分からない。


「……邪魔!」


右手に風の魔力を纏わせて振り抜くことで煙を吹き飛ばす。煙が晴れたとき見えたのは凄惨な光景だった。見た目にも明らかに生きていない者達が複数居る。原型があるならまだマシで腕しかないものなどもある。


「アルフ達は大丈夫かな……」


周りを見渡すがアルフ達の姿が見当たらない。最悪の可能性を考えて気分がざわつく。その時まだ完全に晴れない煙の中で剣戟が響き渡る。その重たい音に向けて走り出す。


「くぅっ、なんだこの獣はぁ!崇高なる魔族に対して歯向かうとは!」

「てめぇなんざ崇高でも何でもねぇよ!そもそもお前紛い物だろうが!」


角を生やした男とアルフが剣を交えている。それを見た瞬間駆け出し男の腹にグライスを刺す。


「良く分からないけど……敵だよね?話は聞く必要ないからそのまま死んで?」


グライスを男の腹から上に向けて払う。裂けた腹から薄く輝く珠を取り出す。


「しょぼい素因。やっぱり量産してるみたいだね。下らないことをする魔族に制裁を与えないと……」


その時再び魔族の反応が現れる。場所は自分の後ろ。


「っ!?」


振り向き障壁を張ろうとするがすぐに爆発が起きて吹き飛ばされる。


「げほっ……何あれ」


目の前に現れたのは先程斬った筈の男。復活したのかと思ったが地面に同じ男が居ている。


「……どうなってるの?」

「ふふふ、崇高なる魔族の贄となるが良い」


男が話した瞬間周りに同じ男が大量に現れて一瞬で自爆を……。



「……ふぅん。やっぱり何か強いのが居たねぇ。でも僕の人形達に殺されちゃったかな?」


少年が一人呟く。場所は学園内部に存在する喫茶店。優雅に紅茶を飲みながら何処か遠くを見るようにしている。いや実際少年は此処じゃない場所を見ているのだ。


「あぁ、でも自爆させたら見えにくいからやめた方がよかったかなぁ?いや良いや。どうせやることは変わらないし強いのが居たら普通に戦ったら負けそうだ」


一緒に頼んだケーキを摘まみながら少年は瞳を輝かせる。


「あぁ、もうすぐヴェルデニア様に会える。少し待っていてください。きっとこの国を貴方様に捧げましょう。さてと……人形の数は二万位か。まあ大丈夫でしょ。じゃあ行ってらっしゃい。この国に死を与えておくれ」

『『『我らが想像主の為に』』』

「あいつにも連絡を取っておかないとね。面倒だし人形に連絡取らせたら怒るかな?怒るよねぇ……」


少年は面倒そうに呟くと懐から小剣を取り出す。その剣の切っ先で自分の右手の指を切ると血を机に落としていく。


血鏡ブラッドミラー


机の上に落とされた血がまるで鏡のようになると一瞬だけ光り次の瞬間別の景色が浮かび上がる。景色の中には黒い鎧が居た。


「やぁ。元気にしてる?」

『……貴様か。何の用だ』

「特にないよ。計画が最終段階に移行した。今人形達が至るところで暴れまわり始めたよって報告」

『……そうか。では我も出ようか』

「へぇ?出るんだ。まあ頑張りなよ。僕は高みの見物といくよ」

『……勝手にしろ』


鏡の奥の鎧がそう言うと景色が消え再び血に戻る。


「あっは、ウルドゥア……君は一体どこまで耐えられるかな?」



「スイ!」


アルフの目の前で男達に囲まれ大爆発に巻き込まれたスイ。どう見ても障壁は間に合っていない。


「くそっ!」

「獣よ。君の相手は此方だぞ?余所見をしても大丈夫なのかね?」


アルフは目の前でにやにやと笑う男を睨み付ける。


「大丈夫だ。スイはあの程度じゃ死なない。だから俺がやるのは……」

「あっはっはっは!あの爆発を喰らって死なないわけが無いだろうに。健気なやつだな!」

「このくそうるせぇ奴を全力で殺す」

「は?」


アルフの全身に魔闘術の薄青い光が出てきたと思った瞬間駆け出しコルガで目の前の男を叩き潰す。抵抗しようと剣を振り上げたようだがアルフの力は並外れているため一切の抵抗が出来ずに男は死んだ。


「まだ居る筈だ。全員殺してやるよ」


アルフの怒りが他の男達に伝わったのか目の前に何体もの男達が現れる。現れた瞬間から一人の男をコルガで潰し蹴りでもう一人の頭を爆散させる。近寄ってきた男には拳を胸に叩き込み核と思われる素因を吹き飛ばす。


「なんだ……何故あいつはあんなに強い!?」

「黙ってろよ三下」


驚愕に目を見張った男の正面に立つと自爆するよりも早くコルガを横薙ぎに振り抜く。


「馬鹿な……このような獣に……」

「うっせぇよ。死んどけ」


アルフが息の残っていた男の顔面を踏み潰す。


「フェリノ!ステラ!ディーン!何処に居る!」


スイへの信頼からアルフはまず最初に近くに居た筈の仲間を呼ぶ。


「お兄ちゃん!ごめん!ちょっと手伝って!」


呼び掛けると少し離れた所で先程の男と全く一緒の男がフェリノと戦っていた。近くにはステラが居て魔法で援護しているようだった。ディーンもまた魔法による援護だ。恐らく毒が効かないか効いてもすぐに自爆するため近寄れないのだろう。良く見ると接近したのかディーンは身体に傷を負っている。すぐにアルフは駆け出すとコルガのもう一つの能力を使う。


大地の牙グランドファング!」


コルガを地面に突き立てると男の足元が一瞬でその様相を変化させると出てきたのは獣の顔。その口部分が異常に大きく男に噛み付く。


「ぐあっ!なんだこの魔法は!?」

「せぇい!」


動きが止まった所にフェリノが近付き首を切り落とす。その後しっかり胸を刺し素因を壊す。


「大丈夫か?」

「私達は大丈夫。ディーンがちょっと怪我したけど大怪我じゃないから治癒魔法をかけたら大丈夫だと思う。それよりスイは?」

「スイは爆発に巻き込まれた。どうなったか分からないけどこの程度で死ぬやつじゃないだろ」


その言葉は自分に言い聞かせるような口調だった。それに気付いたのかフェリノは小さく頷く。


「とにかく他のこいつらを殺すぞ」

「分かった。ディーンは大丈夫?」

「大丈夫だよ。次は失敗しないから」

「よし、じゃあいくぞ。紛い物の魔族に死を与えてやろう」


アルフはそう言うと再び煙の中に飛び込んでいった。



「自爆する魔族は初めてね」

「これは……魔族ではない。単なる紛い物だ」

「グルムス、貴方なら辿れる?」

「ローレア様、これは人形です。しかも自立型の。辿るのは不可能でしょう」

「お爺ちゃんでも無理なの?」

「そもそもこいつらの素材は元人間だ。そこに紛い物の素因を埋め込むことで人形にしたもの。こいつらの死を恐れない心そのものは自分の意思だ。つまり操られているわけではない」

「えっ、ということはこいつら自分達で勝手に自爆してるの?させられてるわけじゃなく?」

「そういうことだ」


ルゥイが斬った男を見ながらローレアとグルムスが話している。ルゥイは人災として一応貴族達を守らなければならないため最前列から動けていなかった。グルムスもローレアも守らなければならないような存在ではないが人が見ている中で戦うわけにもいかない。


「スイ……大丈夫よね?」

「当然だ。私やウラノリア様が関わり最高のスペックの素体を作り上げたのだぞ。この程度でやられるものか。しかし気になりはするがな」

「それは……どっちの意味でかしら?」

「ふふ、ローレア様なら分かるでしょう?スイ様がキレないことを祈るしかない」

「えっ?」

「スイ様が万が一キレたら……ルゥイ全力で防御に徹しろ」


そう言った瞬間入り口付近に膨大な魔力が現れる。貴族達はあり得ないほどのその魔力量に腰を抜かして逃げようとする。


「これは……」

「キレてはいないか……?だが危ないな」

「まあ私達に危害は加えないでしょう」


ルゥイは入り口付近を心配そうに見つめながら剣を握り締めた。



「……痛いなぁ」


大爆発に巻き込まれた際に何も出来なかったのだが元々のスペックが高すぎたせいか痛いで済ませてしまう。


「痛かったよ。ふざけてるね。私だから良かったけど他の人なら死んじゃってる。いや他の人ももう何人か死んでるんだよね。あぁ、腹が立つ。どうしてこんなことを?これじゃ魔族の評判は下降しちゃう。いやそれが狙い?あぁ、だけど……私が父様に頼まれたことを邪魔するのが目的?ふざけてる。馬鹿にしてる。殺してあげる。苦しめて泣き叫んでも止めてあげない。殺す……殺す殺す殺す!!!」


その瞬間スイの身体から膨大な魔力が溢れ出す。


「……みいつけた」


男の怯えた瞳の中に誰かの目を見付けた瞬間スイの身体がかき消えた。その場に残されたのは無惨に切り裂かれ頭だけ残った苦悶の表情を浮かべた男だけであった。

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