第41話 ローレアとの再会



「うわぁ……凄い」


帝都の中に入ったスイが最初に溢した言葉がそれだった。アルフ達やハルテイア達もまた同じような感想を抱いたようで全員が周りを珍しそうに見ている。竜牙のメンバーやジェイルは来たことがあるようで特に何もしていない。

帝都の感想を一言で言うならば綺麗だ。建物も他の建物の外観を損なわない程度にきらびやかで全体的に調和している。設計段階からしっかりと作られたのが良く分かる。

道を少し進んだ先には綺麗な噴水があったり公園があったりとこの世界の文化的にはかなり豊かなのだろう。シェアルにも公園はあったが、ほんの少しの木と椅子ぐらいしか無かった。

それに比べて帝都の公園はしっかり遊具まで置かれていて地球のものと遜色ない。もしかしたら他にも転生してきた地球の人が居て設計に関わっているのかもしれない。


「何だろあれ、同じ色の服ばかり?制服みたい」


スイが馬車から眺めていると五人組の少年、少女が居て全員青い服を着ていた。男女で細部こそ違うがかなり似通っている。良く見ると少し離れた場所にも青い服を着ている者達がいて此方も数人で纏まっている。


「あぁ、帝都には学園があるらしいのでその生徒ではないでしょうか?あの黄色のリボンやネクタイを付けているのが二年生ですね。赤色が一年生です。三年生は今は居ないようですが緑色だそうです」


スイの疑問に何処で調べてきたのかダスターが答える。


「学園……ね。それって他の街には無かったよね?」

「はい。現在あるのは帝都のみとなっております」

「そう。本当に地球の人が関わっていたのかもしれないね。まあどうでも良いけど」


スイは興味無さそうに街を眺める。最初こそ凄いと思ったが良く見たら何処と無く地球のような雰囲気を持つ。比較的現代よりの近代といった感じでそんな雰囲気を持つせいで楽しみづらくなってきたのだ。


「ローレアさんに会いたいけど難しいよね……手紙でも送ってみようかな」


スイはそう考えると早速手紙を書き始めた。内容は帝都に来たこと、どうやって来たか等のごく普通の内容だ。出来るならばこれを機に会って不完全な魔導具になったトランシーバー?を渡したい。そうすればある程度連絡が取り合える。手紙を書き終えてから外を再び眺め始める。


「ああ、ダスター?王味亭って無いのかな?」

「王味亭……ですか?あれは法国セイリオス限定だった筈です。ノスタークの隣であるホレスにはあるようですがあれはそのうちセイリオスに併合されるからと聞いています」

「……そっかぁ。王味亭の料理は美味しかったけど無いんだね」

「無いですね。ですが帝都にも多種多様な食材が来ますので料理人も育っているでしょう。王味亭の料理に並ぶところもあるかもしれません」

「それもそうか。少しだけ元気出た」

「それは良かったです。それとスイ様……」


ダスターが小声で話し掛けてきたので近付く。正直に言って馬車内の者には聞こえるだろうが聞こえない振りをするようだ。


「ウルドゥア様が見ております」

「ん……会おうか」

「良いのですか?」

「アルフ達のこと?それなら気にしなくて良いよ。私にとって不利益となるなら皆は何も出来ないようになってるから。命令がなくてもしないとは思うけどね」

「そうですか。分かりました」


スイは馬車を降りる。馬車自体は指輪に収納し馬はミティックとアトラムに預けることにした。存分に喧嘩もとい不器用な愛をぶつけ合って欲しい。道の端に寄るとこちらに向かって歩く一団がある。その先頭に居るのは妙齢の美女だ。


「久し振りね」

「ん、手紙を渡そうと思ってたけど直接会えて良かった」


スイとローレア(ウルドゥア)がお互いに微笑むとローレアの後ろから兵士が来て……スイに槍を突き付けてくる。しかも一人ではなくほぼ全員が動いた。


「……?」

「貴様、例え貴族であってもローレア様に向かって礼の一つもせず口の利き方までなっていないとは無礼だぞ。ローレア様の気に入った方であるのだとしても看過できん」


そのうちの一人がスイに向かってそう声を静かに荒げて話し掛けてくる。


「……それで?」

「何?」


スイはローレアの方を見るとローレアは何がしたいのか分かったのか一瞬迷ったようだがこくりと頷いた。許可が得られたのでスイはその兵士に向き合う。


「貴方こそ今誰に槍を向けているのか分かっているの?首が飛びたいの?」


そのスイの言葉に力のある貴族だと思ったのか少しだけ躊躇ったようだがそれでも槍を向けるのはやめなかった。ローレアがかなり好かれているか仕事に忠実なのかだが恐らくは前者だろう。スイはその槍を指でずらして少し動けるスペースを作るとドレスの裾を両手でつまみ所謂カーテシーと呼ばれる挨拶をする。


「はじめまして。兵士様方。私の名前はスイ。ここにおられますローレア様の娘でございます。以後お見知りおきを」


挨拶を終えてにっこりと微笑むと兵士達が揃って後ろに下がり槍を落とし……土下座した。


「「「「ご無礼のほど申し訳ありません!」」」」


一斉に唱和された男達の謝罪を聞きながらスイはこの世界にも土下座ってあるんだなぁと関係無いことを考えていた。



「それでスイ?これからどうするの?」


土下座騒動から多少目立ってしまったので馬車内に避難したスイとローレア。アルフ達は空気を読んだのか外で馬車と一緒に歩いている。兵士達が二十人ほど居たので外にはおよそ五十人以上の集団が纏まって行動するというかなり奇妙な集団になっている筈だが気にしないことにした。


「ん、特には決めてない。まず帝都のことをあまり知らないから奴隷制度とか色々変えたくてもどこから手を付ければ良いか分からない」

「そうね……なら見付ける迄の間はどうするの?」

「適当な宿に泊まりながら依頼をこなしたりしてるかな」

「……ねぇ、良ければなんだけどね」

「分かった」

「まだ何も言ってないわよ?」

「断ると思うの?」

「……そう。なら良かったわ。私も母親らしいことをしたかったのよ」

「ん?」

「学園に通ってみないかしら?」


ローレアが言ったのは意外な言葉だった。少なくともスイにとっては。


「別に良い……けどアルフ達はどうしたら良い?」

「望むなら一緒に入れてあげるわ」

「亜人族でも大丈夫なの?」

「入れるのは大丈夫よ。中でのトラブルに関しては何も出来ないけれども」

「どうして?母様は結構権力を持っているのでしょう?」

「ええ、だけど学園内はそういった権力を振りかざすのは禁止されているのよ。だけど安心して。学園の教師の中に貴女のお兄さんがいるから」

「……えっ?」

「あら?知らなかったかしら?ゼスという名前の男の子が居るわ。私とあの人の一人目の子供よ。貴女で二人目」

「ゼス……私のお兄ちゃん。会ってみたい」

「ふふ、なら審査とかちゃんとしないとね」

「何をしたら良い?」

「そうね。なら学園の方に向かいましょうか。寮生活になるのだけど大丈夫かしら?」

「大丈夫。でも一人部屋じゃないならフェリノ達の誰かと一緒じゃないと困るかな」

「その辺りは大丈夫よ。それくらいなら適当な理由を付ければ幾らでも変えられるわ」

「分かった。アルフ達にも訊かないと」


スイはそう言って馬車から出る。止まりきっていない馬車からだったので兵士達はかなり慌てていた。ちなみにローレアも真似をしたのか兵士達が更に慌てていた。


「アルフ」

「ん?どうしましたか?」


ちなみにアルフ達は一応口調を丁寧にしている。兵士達に何を言われるか分からないからだ。


「学園に通うことになる。アルフ達はどうする?」

「……良ければご同行したいところです。フェリノ達も同じ気持ちでしょう」

「分かった。じゃあハルテイア達に訊いてくる」


スイはそう言って離れてアルフの変な口調に笑いそうになるのをこらえた。いつもと違う話し方は想像以上に破壊力があったのだ。


「……っ!!はぁ、はぁ。ハルテイア達にも訊こうっと」


何とか笑いの衝動を押さえたスイはハルテイア達にも同じことを聞いてみると全員断った。理由は簡単で魔法が少ししか使えないからだ。学園の正式名称は戦技養成学園、つまり戦えるようにすることを中心に教えてる学園だ。その中には魔法も当然含まれる。定期的に行われるテストで成績が悪ければ退学か留年するかになる。ハルテイア達はそうなるとスイにあまり良い影響が無いだろうと考えたようだ。ちなみにアルフ達は簡単な魔法であれば使える。


「ん、分かった。私達が学園に居てる間はダスターかトリアーナと一緒にいて。二人はまともだから」


グラフはまともではあるが言葉数が少なくコミュニケーションが取りづらいので除外だ。ミティックとアトラムは最初から論外である。ハルテイア達が頷いたのでスイは再び馬車に戻る。ローレアもどうやらミティック達に聞いたようだ。


「あの子達は来ないみたいね~。まあ当然よね」

「ん、来たら来たで面白そうだけど。じゃあ私とアルフ達合わせて五人分の審査の用意とかをお願い」

「ええ、分かったわ。三日後に学園の方に来てくれる?試験は受けないといけないから」

「ん、分かった。じゃあ三日後に学園に向かう。あの奥にある大きな建物で良いんだよね?」

「そうよ。じゃあ私はそろそろ戻るわ。審査もしないといけないから。またねスイ」


ローレアはそう言ってスイの額にキスを落とす。スイもローレアの頬にキスをする。ローレアはにこりと微笑みスイの頭を撫でると馬車から降りていった。そしてすぐに人混みに紛れてしまう。スイはローレアを見送ると馬車の椅子に深く腰掛ける。


「学園かぁ。お兄ちゃんが居るんだよね。ふふ、楽しみだなぁ」


スイはその顔を年頃の少女のように笑顔にするとまだ見ぬ兄の姿を想像して一人微笑んだ。

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