第17話 成仏って大変なんですね

今日も元気に霊界に来ました。

そろそろゆっくり寝て夢をみて心と体を癒したいところではある。

そんなことを考えつつ、おじいさんに話しかける。


「おはようございます!」


「おう、飯はできとるぞ!」


なんだこのアットホームな家は。

さっき現世で夜ご飯を食べたばっかりなのに、もうお腹ペコペコだ。

もしかして体と魂の空腹感は違うのかな。

魂って言うぐらいだ、霊界の食材には霊力が含まれていて、それを摂取することによって、満腹を得られるのかもしれない。

朝食は、白米と汁物、漬物、そして昨日採ってきた果物だった。

食うとまたこれがうまい。

白米食ってうまいとか初めての体験だ。

これが自然の力か・・・。


「こんなおいしいごはん、初めて食べましたよ!」


「全てが新鮮じゃからの」


将来田舎で暮らしてもいいかもしれない。

そんなことを考えてたら、あっという間に平らげた。


「そういえばおじいさんの名前ってなんていうんですか?俺の名前は天之原 明です」


「ほう。いうてなかったか。明というんじゃな。儂は玄三げんぞうじゃ。皆にはゲンさんと呼ばれとる。」


(ゲンゾウ お前だったんかい!!)


心の中でそう突っ込み、橋から落ち、川に落ちたあの恨みは、ゲンさんの優しさに免じて水に流すことにした。


「上の名前はないんですか?」


「あぁ・・・儂はこの世界に来た時から、記憶があんまりなくての。少しずつ思い出してはおるところじゃ。」


「それは大変ですね。記憶がないなんて」


「なに、記憶がないのはほんの一部じゃよ。気にするな」


死ぬ前に何かショックなことがあったのだろうか。記憶が一部でもなくなるなんて、よっぽどだと思う。

あんまり突っ込んでいい話でもなさそうだ。

本人は気にするなと言っているし話を変えることにした。


「ところで聞きたいことがあるんですけど、自分の影を狩りに行く人と、行かない人とで別れてるように見えるんですけど、それって何でですか?」


昨日、町を歩いてて思った疑問がこれだ。

影を狩りに行く人と別に、商売をしている人、ギルドを運営してる人をみて、疑問に思ったのだ。


「そうか、落ち着いてから説明しようと思っていたが気付きおったか」


ゲンさんの顔がちょっと険しくなった。


「決して隠していたわけじゃない。まだこの話をするのは早いと思ったからしてなかっただけじゃ」


やけにもったいぶる、まるで、いいことだけを説明したけど悪い説明は省いたかのような。

まぁ実際そうなのだろう。

あの時、気が動転していたので、気をきかせてくれたのだろう。


「大丈夫だよゲンさん。言って」


ゲンさんはうなずき話し始める。


「影を狩りに行かない人には2通りある。まず1つ目が、影に負けた人じゃ」


「えっ?負けても、また戦えばいいんじゃないですか?」


「いや、そうはいかん。なくした霊力の回復に時間がかかる。そして何より、心の強さが足りんかったから負けたのじゃ」


「そういえば、心の強さが重要って言ってましたね」


「うむ。自分の心の問題を解決し、鍛える必要がある。そうすることで、心が強くなり影を倒すことで生前の心の穢れを浄化したといえる」


「それは大変そうですね。そして時間もかかりそうだ」


「そうじゃな、まぁ、そうなっている1人が儂なんじゃがな」


「えっ?ゲンさん、影に負けたんですか?」


「先ほども言った通り、影との闘いは心の闇との闘いじゃ。その記憶がない儂には勝ち目はないよ」


「そうなんですね。記憶が戻らないとどうしようもないんですね・・・」


ゲンさんはうなずき、話の続きをする。


「そしてもう1つが、自分の影を倒した人じゃな」


「えっ?自分の影を倒してもすぐ成仏できないんですか?」


「ここに滞在できるだけの霊力がなくなったら成仏できるんじゃ。心の穢れを浄化すると未練もなくなり、霊力が急激に減り始めるんじゃが、それには数年かかる」


「霊力を減らさないと次の人生に行けないってことですね」


「そうじゃな、おそらく霊力が強すぎると、前世の記憶を引き継いでしまうんじゃないかといわれておる」


なるほど、前世の記憶を持って生まれてくる人は、その際に、霊力が強いのが影響しているってことか。


「確かにみんな、前世の記憶持って生まれてきたら大変ですもんね」


「そういうことじゃ」


そして最後にゲンさんは言った。


「なにより、この世界自体に霊力があるからの。自分の影を倒さん限り、霊体はその霊力の吸収だけで、この世界に居れるだけの霊力を維持してしまうのじゃ」


どんなに影に痛めつけられようが、この世界にとどまる霊力を維持し続けるみたいだ。

なかなか残酷そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る