第1話 事の発端
暗い廊下、灯りは懐中電灯一本のみ。床は歩くたびにギシギシと、今にも抜け落ちそうな音を立てる。
「思ったより雰囲気あんな…」重い口を開き、俺の友人『
俺は吊り橋効果を実践するため、友人と共に廃校となった小学校にやってきた。
この小学校は取り壊しを行おうとしたという過去があるが、取り壊し作業一日目に現場にいた作業員全員が、突然集団で失踪したという事件が起きた場所なのだ。
その作業員たちは未だヘルメットの一つすら発見されていない。
俺たちは今、そんな場所にいるのだ。
吊り橋効果を試すにはちょうど良い場所である。
「ねぇ、
「ごめん霧野さん、もう少しだけ付き合って」
怯える霧野さんをなんとか宥めながら、奥へ進んでいく。
そもそも、どうして怖がりの霧野さんをここに連れて来れたのかを説明しよう。
厳密に言えば、俺が連れてきたのではなく義亜が連れてきたのだ。
俺と霧野さんとの間にほぼ接点はなく、俺たち二人の共通の友人が義亜なのだ。
「頼む!作戦に協力してくれ!」
俺はそう頼み続けた。
最初は断られ続けたが、毎日帰り道でコンビニのピザまんを奢り続けたら協力してくれた。本当に現金なやつである。
実際、霧野さんは来てくれたが、怖いものが苦手な人をどうやって心霊スポットに連れてきたのかは、何度聞いても教えてくれなかった。
そんなことを考えながら奥へ進んでいくと、ある地点で急に義亜が立ち止まった。
「なぁ二人とも…、気付いてるか…?」
「何にだよ?今度はどうした…?」
俺は呆れた感じでそう答えた。
ここまで来る道中、義亜は何度も同じようなことを言っていた。
「今、うめき声聞こえなかったか…?」や「今なんか音したよな…?」などと数分置きに立ち止まって呟いているのだ。
もしかしたら、この小学校に住む悪霊にでも呪われたのかもしれない。
「今度はどうしたんだよ…?」
怪訝そうにそうつぶやく。
「床の音が違うんだ…。さっきまでは今にも抜けそうなほどギシギシいってたのに、今いる所はまるで床の下に何かが満遍なく詰まってるみたいにしっかりしてるんだ…」
「さっきの場所と床の材質が違うだけだろ…」
そう思って自分の足元をライトで照らと、衝撃の事実に気がついた。
「材質が…、一緒…!?」
なにかの勘違いだと思い、その場で足踏みをする。
すると、さらにおかしな点に気がついた。
床に使われている木の板自体はギシギシと音を立てている。
だが、その床の下に何かがある…いや何かが『いる』から、床が沈まないのだ。
俺の行動と顔色を見た二人は何かを察したように青ざめる。
「嫌な予感がする…、もう帰ろう…」
俺がそう呟き踵を返そうとした瞬間、この辺一帯の床が大きな音を立てて上に盛り上がるのを感じた。
次の瞬間、床は凄い力で跳ね上がり、俺たちは吹っ飛ばされた。
床の下からは、ゾンビのような怪物が大量に湧き出てくる。
「なんだあれ…!!早く逃げるぞ!」
逃げようと瞬間、やつらがすごい速度でこちら側に向かってきていることに気がついた。
「だめだ…あんなの逃げ切れるわけがない…!!!」
義亜がそう叫ぶ。
「一体どうすればいいんだ…!!!」
俺は必死に考える。
「ギャアアアアアアアアアアッッ!!!!」
次の瞬間、霧野さんの叫び声が聞こえてきた。
霧野さんは怪物に肩を噛みつかれていた。
「あいつ…!いつの間にここまで…!」
俺は霧野さんに噛み付いた怪物に怒りが湧き、無策で突っ込んだ。
「大事な女の子の体、傷つけんじゃねェよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」
俺は肩に噛みついていた怪物を蹴り飛ばした。
すかさず、霧野さんの安否を確認する。
「霧野さん…大丈夫…? 急いでここから出よう…! …あれ…! 霧野さん!?」
霧野さんは下を俯いたまま返事をしない。
次の瞬間、霧野さんはあの怪物のような形相をして、腕で俺の腹を貫いた。
あれはゾンビだ。間違いない。俺はそう思った。
出欠多量で薄れゆく意識の中、俺はやり残したことに気が付き、最後の力を振り絞って意識を鮮明に回復させた。
「まだ…ファーストキス…してねぇ…!!!」
俺は、怪物化した霧野さんにキスをした。
「ア゛ア゛アッ…」
腹を貫いていた手が、力無くするっと抜ける。
彼女の血の気のない肌が、元の色へと戻ってゆく。
「もう…悔いはねェ…」
俺はその場に倒れた。
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