第14話 やる気ではなく危機感だけが芽生える俺

前回のあらすじっ!

 俺が母さんの小説のドラマに出演することが決まりました。以上っ!




 その後、母さんから現在の状況を聞く。


 ドラマは1月からの放送となる。現在は12月中旬で放送開始まで期間は短いが、降板した俳優のシーンは全て俺に変更するらしい。


「今回のドラマとなった私の小説は知ってるかしら?」


 母さんが俺に聞いてくる。


「あぁ、主人公の男性がタイムスリップして大正時代の日本に飛ばされる。現代に戻るためには、大正時代を生きる女性1人と恋に落ちなければならない話だったな」


「えぇ、そうよ」


(現代に帰るため、恋に落ちた女性と別れるシーンは、すごく感動したなぁ)


「大正時代は、帽子を被らないと外を歩けないと言われてるから、真白くんが演じる人は帽子を被ることになるわ。だから、その似合わない前髪……ではないわね。えーっと、ダサい前髪……かしら?それは帽子の中に入れてもらうわ」


「普通に前髪だけでいいと思うんだけど!?」


(なんで前髪の前に何か言葉をつけようとしてるの!)


「ちなみに、真白くんが演じる男は、主人公の事情を知る数少ない友人で、主人公のことをフォローするイケメン男性よ」


(なるほど。あのキャラか……え、俺、相応しいのか?だって『こんなところで突っ立ってる場合か!追いかけろよ!』とか、めっちゃカッコいい言葉連発してたぞ?……無理だろ)


「そういうことだから。あ、私の原作ドラマで下手な演技をしたら、前髪パッツンにするから頑張ってね」


 そう言って、母さんはリビングを出る。


「…………………」


(これは、全力で取り組まないと!前髪パッツンなんかされたら、外を出歩けねぇ!)


 やる気ではなく危機感だけが芽生える俺であった。




 俺は、さっそくさまざまなドラマを観るが…


(観ても演じる際のコツとかが分からない!『俳優ってすげー!』としかならねぇ!)


 俳優の凄さを感じていた。


(おいおい!収録は明後日の月曜日だぞ!?全然時間がねぇ!このままじゃ、母さんから前髪をパッツンにされる!)


 そんなことを思っていると…


「そ、そうだ!ここはプロに聞くしかない!」


 俺は急いで女優のミレーユさんにメッセージを送る。


『日向真白: お疲れ様です、ミレーユさん!少し相談したいことがあるのですが…』


『ミレーユ: お疲れ様です!どのような相談事でしょうか?ちなみに、明日の昼は空いてますので、デート可能です!』


『日向真白: 違うわ!急遽、俺がドラマの俳優に抜擢されたから、アドバイスとかあれば教えてもらいたいと思っただけだ!』


『ミレーユ: 俳優をされるんですね!おめでとうございます!そうですね……あ!それなら明日の昼から私、時間がありますので、その時に私が直接教えます!どうでしょうか?』


『日向真白: えっ!いいのか?ミレーユさんから教えてもらえるなら、お願いしたいが…』


『ミレーユ: はい!大丈夫です!』


『日向真白: ホントか!ありがとう!』


(おー!まさか、直接教えてくれるとは……。こんな俺なんかに貴重な時間を使って教えてくれる……やっぱりミレーユさんは優しいなぁ)


 俺はそんなことを思いながら、メッセージのやり取りを続ける。


 明日は、ミレーユさんが午前中は収録があるため、収録が終わった後、車で俺を拾ってくれることとなった。


『日向真白:じゃあ、俺が指定した場所に、13時には居るようにするよ』


『ミレーユ:はい!よろしくお願いします!』


 そう言って、俺たちはメッセージを終えた。




 そして、次の日の日曜日となる。


 ミレーユさんを待たせるわけにはいかないので、はやめに家を出る。


「あれ?お兄ちゃん、出かけるの?」


「あぁ、ちょっと用事があってな」


「ふーん、珍しいね。ま、気をつけてね」


 桜の声を聞きながら家を出る。


 今日もいつも通り、前髪を全て下ろして陰キャスタイルで外を歩く。


(シロ様とバレたら刺し殺される可能性もある!気を引き締めて集合場所まで向かうぞ!)


 俺は集合場所まで、不審者の如く移動する。


 その途中…


 ピンクの髪をショートカットにしており、マスクで顔を覆った女の子を発見する。


(小学生くらいかな?何やら困っているようだけど……)


 その女の子は周りをキョロキョロと見渡しており、少し涙目となっていた。


 俺は声をかけるか迷うが、集合時間まで時間があるため、声をかけることにした。


「ねぇ、君、何か困ったことでもあるのかな?」


 俺は女の子の目線に合わせるよう、屈んで声をかける。


「………うん、お姉ちゃんと逸れてしまって」


 女の子は暗い表情で答える。


「そうなんだ。俺でよければ手伝うよ?」


「ホント!お兄ちゃんは良い人なの!」


 俺の返答に、女の子は一瞬で笑顔になる。


「良い人かは分からないけど、さすがに見過ごすことはできないからね」


「そんなことないの!お兄ちゃんはとても良い人なの!」


「ははっ、ありがと。さっそくだけど、交番に行こうと思うんだ。場所はわかる?」


「それが分からないの。最近この辺りに引っ越してきて……」


「わかった。俺が案内するからついてきて」


「うん!」


 そう言って、俺たちは近くの交番を目指した。



 交番に向かっている途中…


「ねぇ、今言うのは間違ってると思うけど、どうして前髪が長くて顔もわかりにくい俺なんかについてきてるの?自分で言うのもなんだけど、怪しさ満点だよ?」


 俺は疑問に思ったことを聞いてみる。


「うーん……なんとなく、お兄ちゃんは悪い人じゃないって思ったの!」


 なんとなくらしい。


(これは注意した方がいいな。なんとなくで思ったことを安易に信じないように)


 そう思って注意しようとすると…


「あ!そういえば、お兄ちゃんの名前を聞いてなかった!」


「ん?あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったな」


 言われて気づく。


「俺は日向真白って言うんだ」


「おー!カッコいい名前なの!」


 女の子は手を叩きながら褒めてくれる。


「ははっ、ありがと!そういえば、俺も君の名前を聞いてなかったよ」


「そうだったの!ヒナの名前は『星野ほしのヒナ』小学生6年生!よろしくね、真白お兄ちゃん!」


「あぁ、よろしくな」


(ん?星野ヒナってどこかで聞いたことあるな)


 そう思い、聞こうとしたが、俺たちは交番にたどり着き…


「あー!お姉ちゃん!」


 ヒナちゃんが交番前に立っている女の子に駆け寄る。


「ヒナ!もう!心配したんだぞ!」


 そう言ってヒナのお姉さんはヒナを抱きしめる。


「うぅ、ごめんなさい」


「いや、ヒナから目を離したアタシも悪い。そんなことよりも、ケガはないか!?怪しい人に声をかけられたりしてないか!?」


「うん!大丈夫なの!真白お兄ちゃんが助けてくれたから!」


 ヒナは俺を紹介する。


「すまん。妹が助けてもらったようだな」


 そう言って、ヒナのお姉さんが俺に声をかける。


 サングラスにマスクをしており、目はつり目で、ヒナと同じピンクの髪をサイドテールにしている。胸はなかなか立派なものを持っているようだ。


「いえ、困っているようだったので、声をかけただけです」


「いやいや、ホント助かったよ。ありがとう」


「そんな、気にしなくても……あ、ヒナちゃんが俺のことを「悪い人じゃない」って、なんとなく思ったらしいんです。なんとなくじゃ、いずれ悪い人に捕まるかもしれないので、注意してた方がいいかもしれません」


「そうだな。しっかりとヒナに言っておくよ。ホント、ヒナを助けてくれてありがとう」


「いえいえ!では、俺は用事がありますので」


「真白お兄ちゃん、ありがとー!」


 ヒナちゃんの声を聞きながら、俺はミレーユさんとの集合場所へと向かった。




〜星野ミク視点〜


 アタシ、星野ほしのミクは、妹の星野ヒナと逸れてしまい、交番へ向かった。


 しかし、ヒナは交番にいなかったため、もう一度捜し直そうとした時、ヒナが1人の男性と一緒に交番へ来た。


 アタシは連れてきてくれた男性に礼を言って別れる。


「ヒナ!アタシは心配したんだぞ!ヒナは可愛い天才子役として有名なんだから、もっと気をつけないと!」


「うっ、ごめんなさい」


「ホント気をつけろよ?」


「そ、それを言うならお姉ちゃんもなの!?美少女モデルって言われてるんだから気をつけないと!」


「あ、あぁ。美少女って言われるほどでもないとは思うが、モデルはやってるからな。アタシも気をつけるよ」


 アタシとヒナは芸能活動をしているため、お互いに注意喚起をする。


「でも、今回もヒナの勘は当たったな」


「うん!真白お兄ちゃんは悪い人じゃなかったの!」


 ヒナはなぜか、良い人、悪い人がなんとなくわかるらしい。しかも、今まで間違ったことはない。


(ヒナが良い人って思った人かぁ。アタシも話した感じから悪い人とは思わなかった。また、どこかで会ったら声をかけてみよう)


 アタシはそんなことを思いながら、ヒナと一緒に歩いた。

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