第12話 やっぱりシロ様ってすごく優しい人です!

前回のあらすじっ!

 俺は地面に台本を叩きつけた。以上っ!




「できるかぁぁぁぁぁ!!!!!」


 そう言って俺は、地面に台本を叩きつける。


「あっ!何やってるの!?シロくん!」


「台本を叩きつけたんだよ!これってサンドイッチのCMだよな!?ツッコミどころしかないんだけど!」


「いやいや!何もおかしなところはなかったよ!ね!ミレーユさん!」


「そうです、シロ様!サンドイッチのCMに相応しい台本でした!」


「え、マジかよ……これ、相応しい台本なんかよ……。ごめん台本。叩きつけて」


 俺は台本を拾いながら…


(俺は芸能界素人だからわからなかったけど、2人がそこまで言うんだ。サンドイッチのCMに相応しい台本なんだろう)


 そんなことを思い、納得する。


 俺が台本を拾い上げると…


「おぉ!君が噂のシロくんか!」


 50歳くらいの男性が声をかけてきた。


 今回の監督は、この業界ではかなりの有名人らしい。


「あ、監督。お疲れ様です!」


「お疲れ様です!」


「お、涼宮さんにミレーユさんも!今日はよろしく!」


 監督は俺たちに挨拶をする。


 そして、桜と穂乃果に気がつく。


「あれ?こちらの女性たちは見ない顔だな?シロくんの事務所の後輩たちか?」


「あ、いえ、俺の義妹と幼馴染です。今日は神野さんの許可を得て、見学に来ました」


「「よろしくお願いします」」


「あぁ、よろしく!あ、そうだシロくん。台本は見たか?」


「あ、はい。一度目を通しました」


「で、どうだった?良かっただろ?」


「そうですね、俺に良し悪しはわかりませんが、涼宮さんたちが絶賛してましたので、素晴らしい台本かと」


「だよな!なんせ、俺が考えたからな!」


(うん、そんな感じはしてた……)


「今回は企業側の強い希望で君たち3人が抜擢されたんだ。その期待に応えることができるよう、頑張ってくれ!」


 そう言って、監督は収録現場へと向かう。


「じゃ、もうすぐ収録時間になるから、私は控え室に戻るよ!」


「私も控え室に戻ります!また収録で会いましょう!」


 涼宮さんたちも、控え室に戻るようなので、俺たちも自分の控え室に向かった。




 控え室に戻り、神野さんから今回の収録について簡単に説明を受け、収録現場へと向かう。


「では、今から収録へと移る。各自、台本は覚えたか?」


 監督の言葉に俺たちは頷く。


(まぁ、俺の場合は怪しいけど……)


 控え室で覚えようとしたが、イケメンしか発言が許されないような言葉を、俺の身体が全力で拒否していたため、なかなか覚えられなかった。


「よし!それならさっそく始めるぞ。多少、アドリブが入っても大丈夫だから、その辺りは臨機応変に対応してくれ」


 その掛け声で全員が配置につく。


「では、よーい、アクション!」




〜以下、CM収録〜


 俺は高校生探偵シロ。


 数々の難事件を解決してきた男だが…


「くそっ!この暗号が解けねぇ!なぜだ!?」


 俺は学校の教室で1人悩んでいた。


 すると…


「それはね、シロくん!エネルギー補給をしてないからだよ!」


「そうですよ!シロ先輩!一度エネルギーを補給しましょう!」


 俺は、同じクラスの涼宮さんと、後輩のミレーユさんから提案される。


「あ、あぁ、そうだな。なにか頭が冴え渡るものを買ってくるか」


「大丈夫だよ、シロくん!私がハムサンドを買ってきたから!だからね、えーっと……は、はい!あーん!」


「ちょっと待ってください!私がシロ先輩にたまごサンドをあげる予定だったんです!だから先輩、そ、その……あ、あーんです!」


 2人は若干顔を赤くしながら、俺の口元にそれぞれ持っているサンドイッチを持ってくる。


(ヤ、ヤバい!“あーん”をされて食べるのが恥ずかしい!しかも、食べる前に言うはずのカッコいいセリフ忘れたし!)


 だが、このまま何もしないわけにはいかないので、俺は意を決して…


「あ、あーん……」


 顔が赤くなるのを自覚しながら、2人からのサンドイッチを一口づつ食べる。


 俺は食べ終えると、台本通り…


「そ、そうか!?わかったぞ!」


 2人に聞こえるように叫ぶ。


「ホント!?シロくん!?」


「ホントですか!?シロ先輩!?」


「あ、あぁ、2人のおかげでな」


「よかったぁ」


「はい、ホッとしたら力が抜けちゃいました…」


 安心したため、2人は地面に座り込む。


 俺は地面に座り込んだ2人の近くに行き、台本通り、頭を撫でようとするが…


(えっ!い、今から2人の頭を撫でるの!?無理なんだけど!)


 そんなことを思い、俺が固まっていたため…


「むぅ!何してるの!シロくん!そこは私たちに、ご褒美をくれるところだよ!」


「そうですよ!シロ先輩!私たちのおかげなら、何かご褒美が欲しいです!」


「えっ!ご、ご褒美!?そ、それって頭を撫でる……とか?」


「うん!それが最高のご褒美だよ!」


「はい!私も先輩から頭を撫でられたいです!」


 そう言って涼宮さんは俺の右手首を、ミレーユさんは俺の左手首を掴み、無理やり俺の手を自分の頭に持ってくる。


 頭に手を置いてしまったので、不慣れな手つきで2人の頭を撫でる。


「シロくん、上手だよ!」


「シロ先輩、とても良いです!」


「あ、あぁ。2人のおかげで解けたからな。これくらいならいつでもするぞ」


「ホ、ホント!?な、なら、もうちょっとだけ……」


「はい、私も、もう少しだけ撫でてほしいです」


 2人は顔を赤くしながら、上目遣いでお願いしてくる。


(くっ!かわいい!)


「ま、まぁ、これくらいなら……」


 俺は照れ臭そうにそう言って、しばらく2人の頭を撫で続けた。


〜完結〜



「はい、カットー!」


 監督の声で、俺たちは我に返る。


「ご、ごめん!2人とも!俺なんかが頭を撫でてしまって!」


「き、気にすることないよ!また、やってほしいくらいだし……」


「そ、そうです!わ、私はまだ物足りないくらいでした!」


「うぅ……こんな俺にまでフォローしてくれるなんて……」


 俺は2人の優しさに心打たれる。


 すると…


「シロくん!それに、涼宮さんとミレーユさん!」


 監督から声をかけられて、俺たちは監督の方を向く。


(やべぇ!全く台本通りじゃなかった!)


 俺は注意されるだろうと思い、身構えていると…


「うん!これはこれでとても良かったよ!」


「…………はい?」


「まさか、シロくんが、女の子の扱いに慣れてないシャイボーイを演じてくれるとは……しかも「シロくんって、本当は女の子慣れしてないんじゃ?」って思わせるくらいの名演技だったよ!」


「あ、ははは……ありがとうございます」


(違うわ!俺は女の子に慣れてないから、あんな風になっだけ!全て演技じゃないから!)


 しかし、大物監督の褒め言葉を否定するわけにもいかないので、黙っておく。


「シロくんのルックスで女の子慣れしてないことはありえないから、あの演技には度肝を抜かれたな!まさか、あんな演技をするとは……」


「あ、ははは……ありがとうございます」


(だから違うんだけど!このルックスのせいで、女の子と関わることがないんだよ!)


「どうやら、俺はシロくんの評価を改めないといけないらしい。それに、涼宮さんとミレーユさんも、評価を改める必要があるな。シロくんの咄嗟のアドリブに、あれだけの対応ができるんだ。しかも、顔を赤くするシーンや上目遣い……完璧だったよ!」


「ほ、ホントですか!?」


「あ、ありがとうございます!」


「よし!今日の収録は終了!3人とも、お疲れ様!また、声をかけることがあると思うから、その時は応じてほしい!」


「は、はい!ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


「あ、ははは……ありがとうございます」


 俺たちは、監督に感謝を告げる。


(えっ!あれでOKなの!?俺たち、サンドイッチの宣伝してないと思うんだけど!?)


 そんなことを思いながら、収録現場から出た。




 その後、涼宮さんたちと一緒に神野さんと見学していた、桜や穂乃果と合流して、控え室へと向かう。


 その途中、神野さんが俺たちに向けて話し出す。


「それにしても、3人とも素晴らしい演技でした!しかも、あの監督から「また声をかける」って言われましたね!」


「そうなんです!あの監督から、そのように言われる方は数少ないって聞いてます!」


「私もそう聞いてます!あの監督の作品は1回目が最も大事って言われてるくらいですから!」


「そうだよね!だから、私、気合い入れて臨んだんだんだけど、最高の結果になって良かったよ!」


「はい!これも、シロ様のおかげですね!ありがとうございます!シロ様!」


「うん!私もそう思う!まさかシロくんがシャイボーイを演じてくるとは思わなかったけど、とても良かったよ!」


 なぜか2人から褒められる俺。


「いやいや!俺のおかげじゃないよ!むしろ、俺の演技に合わせつつ、俺のフォローまでしてくれる2人の方がすごいから!」


(俺なんかセリフ忘れるし、2人を前に終始照れてるだけだったから!)


「まさか、シロくんは私たちのおかげでもあるって言ってくれるの!?」


「むしろ、2人のおかげだから!」


「や、やっぱりシロ様ってすごく優しい人です!」


「うん!少しも自分のおかげとは思ってないなんて!」


「いや、だから俺は……」


「あ、私はここを曲がるから、お別れだね!」


「私もここでお別れです!」


「あの、だから俺は……」


「じゃ!またね!シロくん!今日はありがとー!」


「シロ様!今日はありがとうございました!また、一緒に収録をしましょう!」


 そう言って2人は俺たちから別れる。


「あの、だから俺は……」


(結局否定できなかったぁぁぁぁ!!!!)


 俺は心の中で叫んだ。


 俺のことを不機嫌そうな顔で見ている桜と穂乃果に気づかずに…。


 そして…


「『おしゃべり7』の司会者をしていた大御所や、今回の大物監督から最高評価を貰う日向さん……どこまで駆け上がっていくのだろうか……」


 神野さんがそう呟いていたことにも気づかなかった。




 後日、今回収録したCMが全国放送された。


 その日、SNS上では『シロ様 照れる かわいい』『シロ様 シャイボーイ』等々、シロ様関連のワードが、またしてもトレンド上位にたくさんランキングされていたことに、俺は気づかなかった。


 そして、あのCM以降、CMのサンドイッチが飛ぶように売れた。

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