第27話 面接

 重苦しい空気が満ちていた。

 あの後親父はすぐに祖父に連絡を入れたらしく、週末は外出しないようにと言いつけられた。

 お説教か何かかと思っていたら、なんと友田部長とその両親が我が家へと来たのだ。

 それならそうと言っておいてくれれば、もう少しいい服を着ておいたのに!

 そう考えて、慌ててよれよれのシャツを着替えようと部屋へ戻る。

「いいか」

 入ってきたのは、友田部長だった。

「部長、今日は一体何があるんですか」

 俺は十分に混乱しているが、友田部長とそのご両親も、十二分に緊張しているようだった。

「聞いてないのか」

「全く。出かけるなと言われただけで。てっきり、祖父が説教しに来るのかと……」

 友田部長は少し下を向いて考えていたが、意を決したように顔を上げた。

「俺が念弟になると言っただろ。それで今日はその確認と面接だ」

 俺は引いた。

「ええ……面接って、じじい、何様?」

「藩主様だろ。法律や時代が変わっても、ここではそれは変わらない。蒔島家はここの藩主だ。

 当事者の方が軽く考えていたようだな」

 その通りです。

「部長、危険回避のためにフリをしてもらうとちゃんと言いますから」

 友田部長は片方の眉を上げ、冷たい声を出した。

「お前はバカか。それじゃあ一向に騒動は収まらんぞ」

 俺はグッと声をもらした。

「いえ、でも、それだと部長に申し訳ないですし」

「何がだ」

「ええっと、例えば、将来なりたかったものとか結婚とか。

 ああ、それは別にありにすればいいのか」

 言ったら、友田部長は目を吊り上げた。

「はあ?家の存続を考えなくてはならないのはお前だが、俺の家は別にいい。弟が2人もいるからな。俺はそうしたい相手が現れれば結婚する」

「そうですか。3人兄弟なんですか。へえ」

 俺はだんだん、何を話しているのかわからなくなってきた。論点はどこだった。

「蒔島。俺は、一生でもお前とカノンを弾きたいと思った。音楽性が合うからな。それは嘘じゃない。

 それに、事業を切り盛りするのは面白そうだ。起業したいと思っていたし、案もあるが、金がないというのがネックだった。

 だが、こうなれば渡りに船だ。もちろん損はさせないつもりだ。

 それにお前の補佐は、やりがいがありそうだからな」

 どうも最後のはおまけで付け足したようだなと考え、思ったことをそのまま言った。

「それは、俺もです」

「じゃあ、問題はないな」

「……ない……ですかね」

 じじいにこっちの思惑がバレなければ……。

 それで友田部長は、ふっと力が抜けたように笑った。

「そうか。よかった」

「はい。その、よろしくお願いします」

「ああ。こちらこそ」

 それでお互い頭を下げ、何だかおかしくなって同時に吹き出した。

 着替えながら、話をする。

「そう言えば、弦楽四重奏団、決まったのか」

「俺のバイオリンと、百山のビオラ、水城のコントラバスは決まりました。後は編成次第でゲストを頼みます。ピアノなら叶、パーカッションなら西村とか」

「それじゃあ弦が3本じゃないか」

「何となく1年生に声をかけてるんですけど、そうしたら、力とか解釈とかが合う人が意外といなくて。

 ほら、3年生だと秋には引退で、その後受験だし。2年生でもやっぱり来年はそうなるし。だから同学年がいいかなと」

 友田部長は少し面白くなさうな顔つきになったが、

「まあ、理にはかなっているな。

 夏頃には未経験者も上手くなってきてるだろうし、それまでは俺がゲストで入ってやろうか」

と言い出した。

 途端に俺は嬉しくなった。

「はい!お願いします!」


 報告してから1週間後になったのは、その間に友田部長の成績や評判や交友関係や健康状態など、ありとあらゆる調査をしていたからだという。それで問題なしとなったので、面会となったらしい。

 それを聞いて失礼だと怒ったが、当の友田部長が

「当然のことだろう。それだけ役目が重要で、愛や恋なんていう浮かれた理由では済まないということだ」

と言ったので、俺も仕方なく納得することにし、友田部長の株はますます上がった。

 祖父と祖父の念弟、父と遥さんによる面接で、ガチガチに緊張していた友田部長のご両親だったが、友田部長はしっかりと受け答えをしていた。

 経営学部か法学部に進んで将来は俺の右腕として警備会社に入社することになるとも言ったし、一生右腕としてサポートをすると言えば、圧迫面接じみた面接は終わった。

 友田部長のご両親も、それに異議はないということだった。

 気付けば、あれだけ嫌だ嫌だと言っていたのに、1学期も済まないうちにこれだ。

 人生、何がきっかけでどうなるかなんてわからないものだ。これで共犯関係成立か。



 

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