第26話 その結果
友田部長は、これまでに見たこともないほど全身から「不機嫌だ」というオーラを吹き出させていた。
「またお前か。けがしたくないならすっこんでろ!」
負けじと小田先輩が不機嫌に声を荒げて言うが、前屈みで脂汗を流しているその姿では、勝てそうにない。
「お前が候補にも漏れたのは、きっとそういうところだ。上手くこいつを利用してやろうとかいう欲を見透かされたんだろう」
それで小田先輩は、ますます顔を赤黒く染めた。
「お前ら……!
おい。こいつの腕、へし折るのは簡単だぞ。こっちに来い」
「警察呼ぶのが簡単ですよね」
言いながらこれ見よがしにスマホを出す。
「お前が俺の股間を蹴ったんだ。傷害だな」
「正当防衛でしょう。ロッカーがへこむほどこいつをここにぶつけ、脅して怖がらせた」
舌戦でこの友田部長に勝てる人はいるのだろうか。どんな時も冷静に言葉を返す。
「先にお前がやったんだって言うぜ。ああ。蒔島家のスキャンダルかなあ」
しかしそこに、新たな声がかかった。
「俺は最初から見ていたから、それが嘘だと知ってるぜ。それこそ、お前がそこで待ち伏せしているところから」
現れたのは、生徒会長だった。
「校則違反の範疇にないし、これは犯罪だなあ。
どうする、蒔島君」
俺にパスが回って来た。
「まあ、これ以上付きまとわない、こちらに関わらないと言うのであれば、このまま穏便に済ませてもいいですよ。お家の方も、こんなスキャンダルは気の毒ですからね。中学生の妹さんとか」
それは春弥が聞いて来たことだった。
それで小田先輩は悔しそうにしながらも「手を引く」と約束し、この場を離れていった。
生徒会長は溜息をつき、俺たちを見た。
「噂は聞いてるよ。色々と厄介だね、君」
「はあ」
こちらが溜息をつく番だ。
「ありがとうございました」
「いいけど。あそこまで力で来るやつもいないとは思うけど、ここまで念弟の件が知られちゃあなあ。まだ地味なままだったらまだともかく、目立っちゃったしなあ、君」
「本意ではありませんが」
「嘘でいいから、決まったって言えば。何なら俺がダミーになるよ」
それに、黙っていた友田部長は口を開いて不機嫌そうな声を出した。
「お前が?ふざけたことを」
「何でだよ。時期がくれば後腐れなく別れてやるよ?それまでそう振る舞えばいいんだろう?」
面白がるように生徒会長が言う。
「いえ、それが認められるかどうかも不明でして。もしダメなら申し訳ないことになりますので」
「ふうん。祖父に聞いてたよりも厳しいんだな。
あ、俺の祖父、蒔島宗弥氏の念弟候補だったんだぜ」
「へえ」
「俺ならそれでもいいけどな。経営学部に進学して、公私ともにパートナーとしてしっかりと勤め上げてやれると思うけど」
冗談だろうが、そう言ってニヤリと笑った。
それで友田部長は、今日一番の冷気を放出した。
「え、友田?」
「ぶ、部長」
「お前に任せられるわけがないだろう。とっかえひっかえしているのを知らないとでも思ってるのか、貴様」
ええー。
「ダミーなら俺がやる。俺は部長だからな」
堂々と言う友田部長だが、本当にわかっているんだろうか。
「俺では不満か、蒔島」
ギロリ止めを向けられ、慌てて首を振った。
「いえ!とんでもありません!」
その後どうやって生徒会長と別れたのか、それからどうやって友田部長と分かれ道まで来たのか定かではない。
家へ帰り着くと、順番に思い出して、今更ながらパニックになってきて、玄関口でしゃがみ込んだ。
「お帰り──ってどうしたの!?ちょっと、優弥さん!」
呼ばれて親父が来る。
「何でもない」
そう言って部屋へ入るが、追いかけてきた春弥はごまかせない。似てないのに、こういう時は双子の何かが働くのだ。
俺は洗いざらい、吐かされた。
そしてはっとしてドアを開けると、にんまりとした親父と、驚いたような顔の遥さんがいた。
しまったー!。
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