第19話 事情聴取
秘密にはしていないらしいが、面倒なのであまり広めないでもらいたいと言うと、勇実と百山は了解したが、残る西村たちは文句を言った。なので黙っているのと引き換えに、母のサインをもらい、母と記念写真を撮らせてもらった。
母はにっこりとしていた。
それでそこを離れると、一谷たちが何やら相談したあと、言った。
「蒔島の家族関係のことは言わない。約束だからな」
「ああ。サインももらったし記念写真も撮ってもらったし握手もしてもらったしな」
俺は頷いた。
「信用している」
俺たちは、博物館を目指した。
その日家に戻り、春弥の買って来たお土産と俺の買って来たお土産を交換した。春弥の買って来たのはサングラスだった。
「へえ。目が隠れたらかなり印象が変わるもんだな」
「だよね。
でも皆もっと気になってることがあるんだけど、柊弥。何で髪型が朝と違うの。どこでそんな髪型になったの。印象が違いすぎて、遠目には別人かと思ったよ」
あ、しまった。メイクは落とされたけど、髪はそのままだった。
俺は失敗を悟った。
洗いざらい吐かされ、翌朝登校すると、視線が増えていた。
「何だ?」
たいがい一緒に行く勇実も、眉をひそめて辺りを伺った。
「あいつら、しゃべりやがったのか」
「いや、約束は守るタイプだと思うけどな」
西村たちは、そういうタイプだと思う。
落ち着かない気分で、とにかく教室へと逃げ込む。
が、教室も安全地帯ではなかった。ひそひそとこちらを見て言い合われるのは、気分がよくない。
それでもなるべく平静を保ちつつ席に着くと、西村たちが慌てた様子で走って来た。そしてそのまま、腕を引かれて人の少ない廊下へと引っ張って行かれた。
「何だ」
「俺たちは何も言ってない」
まず一谷がそう言った。
「ほかの班のやつが見てたようでござるな」
ざっと見て人垣に姿は見えなかったが、その可能性はあった。
「それだけならまだ人違いでごまかせたくらいには別人になってたけど、髪型をそのままに集合場所に行っただろ」
「ああ……」
「あれでばれたな」
叶が言い、黒川がうんうんと頷いた。
「うっかりしてたぜ」
勇実が嘆息する。
「でも、話してた内容までは知らないんじゃない?だから、頼まれて弾いたってくらいしか」
百山が言い、それでまとめる。
「よし。偶然弾けることを知られたから頼まれて弾いた。これだけでいいか」
一谷が言い、俺たちは頷いた。
「すまんな。別に秘密ってわけじゃないが、言いふらすことでもないしな」
「気にするな。俺たちの仲じゃないか」
どんな仲だろう。班が一緒だっただけの仲だと思うが、まあ、今後もこういう班を組む時は、このメンバーで組む確率が高いか。
俺たちは素早くそう対策を決め、教室へ戻った。
遠巻きにしていたクラスメイトの1人が、代表するように俺のところに来た。ほかの皆はしんと静まりかえって耳を澄ましているのがわかる。
「蒔島、昨日遠足でドラマの撮影見たか」
俺は澄まして答える。
「ああ、やってたな。一場面しか知らないからどんな筋書きかはわからないけど、街中で突然踊り出すんだから、普通の日本人は驚くよなあ」
「そうだよな。あははは」
「ははは」
周囲のやつが、そいつにキッとした目を送り、そいつは笑いを引っ込めた。
「で、さ。朝見た時と集合の時、蒔島の髪型違ってたよな。
ドラマの撮影でバイオリン弾いてたやつ、そういう頭してたんだけど。
あと、撮影のスタッフと一緒に、蒔島の班の蒔島以外のやつがそれを見てたんだけど」
そう言って、じっと俺を見る。おそらく俺のこのモブ顔の中に、それらしい何かがないかと探しているのだろう。
「偶然、その役者がけがをして困ってて、たまたま俺が弾けることを知ってるやつがスタッフの中にいて、頼まれたんだ。いやあ、スケジュールがどうのって泣きつかれて、仕方なく」
笑って言うと、周囲は一斉にドッとしゃべり出した。
「やっぱりな!」
「でも顔が別人みたいだったのに」
「メイクだろ」
「あれで学校来ればいいのに」
「メイクはせんだろう」
「せめて髪型くらい。今のって普通だし」
そう言って、一斉に俺を見る。
普通で悪いか。
勇実は隣で、笑いをかみ殺して肩を震わせていた。
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