第10話 学校へは彼氏を探しに行くわけではない

 同じく今日からクラブ活動があった春弥にどうだったと訊かれ、あったことを話すと、春弥が文句を言い出した。

「何でそれで終わらせちゃうんだよお」

「は?いや、職員室に着いたし、一応気を使って慰めてくれただけだしな。そんな、真に受けて喜んだらバカ扱いだろう」

 俺が言うと、春弥は頭をガリガリとかきむしる。

「なんで柊弥はそんななのかなあ」

「自分を知ってるからだよ」

 そう言おうと思ったが、そう言うと春弥は怒り出すので、

「面倒くさいし、学校へは勉強をしに行くんであって、彼氏を探しに行くわけではない」

と言うと、ふくれっ面をしながらも、

「それは表向きの理由じゃない。もう。教育委員会?」

と言いながら機嫌を直した。

「成績とかスポーツとかクラブとかでびっくりさせちゃえばいいよ。

 それよりもさあ、月末に遠足があるじゃない。1組はどこに行くの」

 今回の遠足のコースとして2つ提示されており、クラスごとにどちらに行くか選ぶことになっていた。中学とは違うんだなと関心したような、どちらも面倒くさいような気がしたものだ。

「多数決でベイブリッジだ」

「へえ。3組は遊園地だよ。智宏と何乗ろうかって相談してるんだあ。楽しみだなあ」

 遊園地コースも希望する声はあったが、城崎先生が面倒くさそうに、

「入場料も乗り物代もかかるぜえ」

というと、途端にもうひとつのコースに乗り換えた。

 嘘ではないにせよ、絶対に自分が遊園地は面倒で嫌だったからに違いない。

 俺としてはどうでもよかった。どちらも班ごとに自由に行動するのだが、ベイエリアは、海沿いの地域内を散策し、買い物をしたりただ歩いたり、船関係の博物館に入ったりとする予定だ。

「柊弥にお土産買って来るから、柊弥もお土産買って来てね」

 面倒だが、そのくらいはいいか。

「へいへい」


 どこを向いても男ばかりというのにも、慣れ始めた。勇実はぶうぶう文句を言っているが。

 だが、大抵の生徒は学校の外に出会いを求めているし、中には文句を言うやつはいても、本心から「手近な男で間に合わせよう」と思っているわけでもなさそうだ。

 しかし少数、男にときめくヤツもいるようだし、そういうカップルを異端視するものはいないし、する方が異端視されるという。しかも、腐男子やそこまで行かなくとも、そういうカップルを応援し、見守るというのが校風だという恐ろしい事実を知った。

 これが名門校の実態だ。

 入学してわりとすぐにそれらの情報は耳にし、それと一緒に、校内人気生徒一覧なるものも回ってきた。誰だ、こんなものを作った暇人は。

「人気生徒一覧かあ。どうせなら、駒石の生徒の胸の大きさ一覧の方が欲しい」

 勇実が言うのに、俺も百山も即反論した。

「そんなもの作ったヤツがばれたら、捕まるぞ」

「そうだよね。胸じゃないよね」

「まあな。顔も大事だ」

「勇実……」

 俺も百山も、残念な目を勇実に向ける。

 と、渡り廊下と校舎の廊下の角で、誰かにぶつかりそうになった。

 慌ててバイオリンケースをかばってから、相手を見た。

 襟章は3年生、爽やかそうなタイプの生徒で、ぶつかって因縁をつけるとかいうタイプではなさそうだ。

「おっと、すまん。急いでいたものだから」

 そう言う相手に、こちらも

「いえ、こちらも注意が不十分でした」

と返したが、まじまじと顔を見られる。

「あれぇ。君が噂の蒔島柊弥君か」

 途端に好感度が下がる。

「はあ。地味な方の蒔島です」

 しかしその上級生は吹き出した。

「違う違う。友田からも三枝からも聞いてたから。ふうん」

 ろくでもない噂だろうか。

「俺は生徒会長の海野だ。よろしく。じゃあな」

 そう言って、上級生は急ぎ足で立ち去った。

 そうだ。こっちも急がないとチャイムが鳴ると、それをぼけっと見送った俺たちも教室へ向かい始めた。

「今のが海野会長かあ。一覧表にもでてたね」

 百山がにこにことして言うのに、勇実も頷いた。

「そう言えばそうだったな」

「え、勇実も気になったのか」

 そちらに驚いた。

「当然だろ。一覧表に載るのは俺のライバルだからな!」

 いつもポジティブで結構なことだ。

 その後、ぶつかったのを見ていた誰かがわざわざ噂話にし、それを聞いた春弥が教室に飛び込んできて、

「何でそれでおしまいにするの!?」

とまたも怒られた事は言うまでもない。





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