第10話 インフィデンス実行
「(じゃぁいざとなったら無線で指示出すから、とりあえず林道を褒めに行け)」
「(りょーかい!褒めて褒めて褒めまくるぜ?)」
ユリカは放課後図書室で勉強していることが多い。
九重の言葉に従い図書室に向かうと、案の定、ユリカは図書室にいた。
まばらに生徒がいる図書室で、長机の隅に座り参考書を広げかりかり鉛筆を動かしていた。
少し垂れ目で緩くウェーブする茶髪が特徴の少女だ。
目も大きく顔も整っており、男子人気の高そうな少女である。
その姿を認めると早速九重がインフィデンスに向かっていった。
図書室にいるのが似合わないスポーツ男子が静かな図書室に乗り込んでいく。
さすがスキル『即行』を有する男。
迷いが一切ない。
「うまく行くのかしら……」
アイをはじめ砂金達三人は図書室の扉から中を覗う。
『あ、九重君』
無線の先からユリカの声が聞こえてきた。
見ると九重の存在に気が付きユリカが顔を上げていた。
これからインフィデンスが始まる。
三人の間に張り詰めた空気が漂う。
そして九重は言ったのだ。
『ユリカ、お前は『優しい』な!』
「マジかよ!」
確かに褒めれば良いとは言ったが脈絡なく褒めろとは言っていない。
余りに直球なそれでいて共感を呼ばない誉め言葉に砂金は絶叫していた。
『えぇ、どうしたのいきなり……』
案の定、戸惑いで表情を曇らせるユリカ。
そりゃそうだと砂金達が納得していると無線からおかしな呟きが聞こえてきた。
『……なんだおかしい。砂野達と話が違う』
「いやおかしいのはお前だ!」
『え、なに?どうしたの?砂野君?』
唐突に意味不明な、かつデカい独り言を始めた九重にユリカは戸惑いを隠せない。
おいどうするんだと砂金は慌てふためくが、ようやく思い出した。
九重の耳の奥に無線機を取り付けており、いざという場合はサポートできるようにしておい
たことを。
南無三。
砂金は急いで無線機にスイッチを入れ指示を出そうとする。
しかしそれは遅かった。
『ユリカは『頭も良い』よな!』
『『面倒見もいい』、うん!』
『あと『気遣いも出来る』!?』
速射砲のように次々放たれる誉め言葉の数々。
『な、なんだ』
『どうしたのいきなり……』
九重がデカい声でユリカを褒めまくるので周囲の人間がざわつき出す。
一方で迷惑極まりない形で衆目に晒されたユリカからは次第に表情が無くなっていた。
そしてそれが九重の焦りになる。
砂金達のいう前情報との齟齬に九重は混乱する。
砂金は言っていた。
スキル化する才能を褒めると相手は『喜ぶ』と。
次第に表情を消しているユリカはその真逆である。
このままではつがいを解消される。振られると、混乱の極地に至った九重は――、言った。
サムズアップし―― 『ユリカは『かわいい』し『足もエロイ』し『胸もデカい』し最高だぜッ!!』
静まり返る室内。
カタリとユリカが席を立った。
(!)
砂金は表情を消し立ち上がったユリカを見て今後の行く末をとっさに判断。
自分の事のようにあわあわと慌てふためいた。
だが砂金の予想は外れた。
ユリカは笑みを作り、朗らかに言ったのだ。
『九重君は私にインフィデンスしようとしてくれたんだね?でもそんなんじゃ私には無理だ
と思うよ?』
それは九重にしてみれば事実上の死刑宣告。
九重は足手纏いだと落ち込むユリカにスキルを発現させ、つがい解消を思い留まらせ、告白
しようとしていた。
だが今のユリカの台詞は、足手纏いになっている自分はつがいを解消する。
そしてあなたがいくら頑張ってもこんな誉め言葉じゃ私はスキルを獲得できないから、やは
りつがいを解消しますね、という意味だ。
慣れた手つきで無駄なく参考書などを片付けていくユリカ。
その様子を眺め呆然と立ち尽くす九重。
砂金は直感的に思った。
ここでこの会話が終わるとユリカをインフィデンスする機会を失うと。
――それはダメだ。
そんな自分は
――『許せない』。
とっさに砂金は無線に指示を出していた。
「おい九重!デートを取り付けろ!」
次の機会で徹底的に九重をサポートしユリカをインフィデンスしようと考えたのだ。
九重だけでなく砂金視点でユリカの長所を探しインフィデンスする。
一縷の望みを賭けて九重に指示を出す砂金。
しかし同時に、今の九重には難しい頼みかも、とも思った。
実質振られた後に、即デートに誘うなど、普通の人間には不可能な所業である。
しかし――
『よしじゃあ俺とデート行こうぜ!』
『なぜこの流れでいきなり……』
さすがスキル『即行』を有する男。
秒でデートを取り付けた。
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