第2話 首
仕方ないので、近くに生えていた雑草を食べてみる。
「むしゃむしゃ……んぐっ!」
急に寒気を覚える。
その直後、全身、いや全首に痺れを感じた。
どうやら毒草だったようだ。
ピコン! と通知音が鳴る。
『スキル毒とスキル毒耐性を取得しました! これにより、ゲロスキルと毒が融合。新たな技として“毒のゲロ”が使用できます』
「えぇ……」
そんなの技として使えるのか?
俺は傾げる首もないので、コロコロとまた森の中を進んでいく。
その間もずっと揺れで酔ってしまい、ゲロを吐きまくる。
※
「きゃあああ!」
どこからか、女性の甲高い悲鳴が聞こえてくる。
俺は急いで首を回して転がしていく。
そこには、天使のような美少女がいた。
長い銀髪に緑の瞳、小顔で守りたくなるような女の子。
豊満なバストにモデルのような長身。
短い丈の修道服を着ている。
頭には白いベールをかけて。
地面に倒れ込み、腰を抜かしているようだ。
そのシスターを囲むように、5匹のモンスターが睨みつけている。
名前はわからないが、見たところ、狼の系統だな。
俺はとりあえず、助けに入ることにした。
と言っても、戦う手段は持ち合わせていないのだけど。
「グシャアア!」
雄たけびをあげる狼共。
俺は情けなくコロコロと頭を転がしての登場。
「大丈夫ですか? お嬢さん?」
なんてテンプレのセリフを言ってみた。
「あ、あの魔物さんですか?」
この子も俺をモンスター扱いか。
まあいいや。とりあえず、助けてやろう。
「俺が相手になってやる! 来い、貴様ら!」
「グシャアア!」
一匹の狼が俺に目掛けて飛びかかった。
ガブリ! と鋭い牙で嚙まれる。
だが痛くも何ともない。
しばらく噛まれること数分間。
俺はなにも出来ないでいた。
敵の狼も噛み殺せないことに、苛立ちを隠せないでいるようだ。
それをシスターちゃんと残りの狼たちが黙って見守るというシュールな空間。
どうしたものか、俺は最強だが攻撃方法がない。
そう言えば、さっき毒のゲロを取得したとか言ってたな。
よし試してみよう。
「うおぇぇぇ!」
いつも通り、ゲロを吐き散らす。
すると驚いたことに吐しゃ物を喰らった狼は、一発で死んでしまった。
口から泡を吹き出して。
「こ、これは使える!」
そう思ったら、あとは楽勝。
同様の攻撃を繰り返すだけ。
あとの4匹も秒で倒してしまう。
『ゲロスキルがレベル3に上昇しました。毒のゲロもレベル3に上昇』
つ、強い。
ゲロのくせして強すぎる。
気がつくと、俺は空中に浮かんでいた。
なぜならば、先ほど助けてあげたシスターちゃんが、俺の顔を宙にかかげているから。
「あなた様は神から祝福を受けた勇者様ですね!」
なんて人をヒーロー扱いしてきた。
「いや、違うよ。俺の名前はロクロウだよ……」
自己紹介をしてみると、彼女は目をキラキラと輝かせる。
「勇者ロクロウ様ですね! 私はシスター、アンジェラ。アンジーとお呼びくださいませ」
勝手に勇者と認定されちゃったよ。
※
それから俺はアンジーと旅に出た。
というか、勝手に勇者と祀り上げられて、この国の王様と謁見。
魔王を倒してこいと命令された。
アンジーがそれを勝手に承諾。
まあ歩く脚が出来たので、もうあまり酔うこともなく、街を歩くこともできた。
飯もアンジーが買ってくれるし、生活に支障はない。
あるとすれば、夜のことか。
アンジーは俺に惚れているようだ。
だが、宿で一緒に寝るとしよう。
彼女は下着姿になり、俺を誘惑するようにして一緒に寝るのだが、俺は手も足もない。
豊満なアンジーの胸にプニプニと押し付けられて、気持ちはいいのだけど。
それだけだ。
期待していた展開はなにもない。
「クソがっ! 誰だよ、異世界に転生したら、ムフフなライフがおくれるって言ったヤツ!」
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