芸術

-N-

芸術




 午前四時。周りは暗く、ただ明かりとモニターの白ばかりが光っているだけの部屋で、私は苦しみ続けている。息を吸って、吐く。息を吸って、吐く。キーボードに打ち込む。手間取る。思考する。思考する。しかし何も考えられぬ苦しみに、私は吐いた。「神は私に不自由な生を与えた」と書いて、消した。ふさわしくなかった。綺麗ではなかった。もっとこう、「才能と障害のボタンを掛け違えを与えた神と、ブレザーを授けられた私」のような、自虐のようなものを使いたかったのだが、しかしそれも究極に吐き気がして、だめだった。長すぎる。

 思考した。芸術とはなにか。答えは分からない。

 ここ最近、苦しんでいる。全てのことが上手くいって、あるいは上手くいっていないのをごまかしているようだった。芸術のことを置き去りにすれば至極世界は上手くいっており、逆に芸術に目を向けることさえできずにいる。つらい、苦しい、痛い。そういう世界から離れた場所で輝く自分に見惚れていたのかもしれない。

 芸術とはなにかをまさにこの一時間問い詰めている。

 芸術は苦しい。今まさに全身全霊をかけてキーボードを動かすこの手さえも、鉛のように重い。想像外の会心をたぐり寄せようと必死になってもがいている。水を含んで溺れているようなストレスが脳にのしかかっている。芸術を投げ出したいくらいに。

 本当にそうなのだろうか。この文字を震える手で入力した。見るだけでもアレルギー反応を起こしかけた、平面上の現実は、私に問いかけている。「芸術は苦しく、楽しくない?」

 虚無の思考が私を襲った。「  」と打たれた言語のストーム。錆び付いた三番線。障害者。鳴らない銃火器。

 分からない。私には、一切が分からないでいる。

 しかし、進まなければ。どんな形でも。ただ、ただそれだけが、私の世界の中心にあって、私自らに鞭打たせているのだ。

 進め、進め。苦しみとクスリを打ち間違えながら、鉛の手は苦しみを想像へと変えていく。

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