星降る夜のステラ

有栖川 黎

第1章 コスモナウト

 金曜日の夜に夜更かしをして自転車で丘陵地まで来てしまった。


「最っ高~」


 だれもいない広大な丘陵地で私は鼓膜が撓むのを認識できるほど大きな声で叫んだ。


 と……言うのは冗談で実際には赤の他人に対して挨拶をするときと同じ程度の大きさで発音したのである。


 今日も夜空は綺麗でたくさんの星々と燦燦と輝く三日月が見える。


 その中に一つ白く輝きをはなつものがある。


 輝きは段々と強さを増してこちらへ近づいてくるので眩しさで目をとじた。


 私の聞き間違え…なのかは解らないが爆音が鳴り響いた気がした。


 目を開けると宇宙船の様なものが百メートルほど先に墜落している。


 興味本位かただの好奇心かはどうでも良い。私の身体は気付いた時には既に宇宙船の前にあったのである。


 「これ、キリル文字かなぁ…」


 宇宙船にはキリル文字に似たものが表示されていた。


 私たちは高度に発展しすぎたヒエログリフ…ではなく絵文字や顔文字を使用しすぎているためにすぐにはこれがキリル文字であると断定はしにくいのでこのように疑問形になるのを許してほしい。


 宇宙船には赤い国旗マークの様なペイントが為されているが、どこの国の物なのかはわからない。


 オマケにこの宇宙船のハッチが見つからないので搭乗員が乗っているかも確認ができない。


 ここは七輪で焼くタイプの焼肉屋さんかと思うほど辺りは煙が充満している。


 私は恐る恐る墜落した宇宙船をノックして反射のように手を引っ込める。

 

「ガサゴソ…パリンッ...ゲホン…ゲホン」

 とてつもなくわざとらしい咳払いと慌ただしさに加えて宇宙船から出てきた色白でオレンジ色の旧式宇宙服を身に着けた銀髪の美少女に息をのんだ。


「わたし、ステラ…ここどこ?」


「ここは地球、ところでどこの国から来たの?」


「地球しらない…わたし宇宙から来たコスモナウト」


 私は理解が追い付かなかった。来ている服は極東のとある国の宇宙服で宇宙船の文字も喋っている言葉も断言はできないけれどおそらく同じ極東文化圏の言葉だろう。


「あなたは宇宙人ってこと?」


「わたし…宇宙人じゃないコスモナウト」


 とりあえず、彼女は宇宙人ではなく宇宙飛行士であることを伝えたいみたいだ。


「ココ…顔だけ寒い、家ドコ?」


 彼女は寒いのが嫌いみたいだ…だが家には入れることは出来ない。


 得体の知れない生物と言うのは言い過ぎかもしれないが宇宙服にはホルスターが付いていて彼女は銃を携行しているのだ。


「ワタシ…銃は撃たない、弾ナイ」


 テレパシーでも使えるのだろうか?私は思ったことを言い当てられてしまったので非常に驚いたが彼女のどこか、さみし気な瞳が哀愁を誘う。


「分かったよ、でも宇宙船はどうするの!?」

 凄まじい閃光と衝撃だったので、このままだときっと軍関係者や警察機関が来て面倒ごとになると私は確信していた。


「コレ…もう使えないからイラナイ」


「え…本当にいいの?忘れ物は?」


「ワスレモノ…ない」


「分かった、とりあえず急いでこの場から逃げないと」


「ニゲル?…エイリアンから?」


「違うよ。いろいろ見つかると面倒な組織だよ...見つかったらステラ逮捕されて事情聴取されるかもしれないんだよ」


「タイホ…?変な名前——わたし一緒に逃げる」


 とりあえずこの場所を離れないといけない。それだけが頭にあったのだが最悪なことにサイレンの音が聞こえてきた、こちらへ向かってくるような気がしたので私は彼女を自転車の荷台に乗せて猛スピードで坂をまるで転げ落ちるかの如く勢いで下るのだ。


 夜が明けそうだ。かなり小高い丘なので街が一望できて空の色が黒から水色っぽくなってきたのである。


「イエ…遠い?」


「15分位だからそんなに遠くないよ」


「ワカッタ、ソラ見て…キレイ」


「綺麗だよね。私時々これ目当てで、ここに来るって決めてるんだ」


 彼女は自転車のギアの部分に足をかけて私の肩をもち立ち上がった。


 夜明かしした功なのか…彼女の銀髪が風でなびいて朝日が髪を照らす様はまるで御仏の様にも思えたほどに可憐で荘厳であった。


 丘を下って平地に降り立ったころ二台の警察車両と遭遇したのだ。


「宇宙船トラレル…?」


「たぶん、処分されるかもしれない。どのみち…あそこからは移動されちゃうね」


「宇宙船ドコ行く…?」


「それはまだわからないね」


 家まで残り5分と言う所まで来たので目線の先に見えたコンビニに入ることにした。


 自転車を降りて、コンビニの入口横の本が売っているスペースで私はステラとあったことがきっかけとなり理科年表という国の機関が編纂している本を生意気に思われるかもしれないが誇らしげにオレンジ色のカゴの中にいれる。


 ステラは飲み物が置かれた扉付きの冷蔵庫の前で立ち尽くしていた。


「コレ…オイシイ?」


 ステラが指さしたのは銀色の缶のエナジードリンクで綺麗な顔と銀髪が反射して映る。


「まぁ…おいしいかな?」


 曖昧な返答ではあったがステラはオレンジ色のカゴに大きなエナジードリンクを微笑みながらいれたのである。


 会計の際に肉まんを店員に勧められたので二つ追加で購入してコンビニを退転した。


 再び自転車に乗り、風でなびく長い銀髪に朝日が当たるのをまるで神仏を拝謁するかの如く眼差しで見ていた。


「もう、すぐ着くから」


「ワカッタ」


 駅の近くにある、家に着いたのでステラを自転車から降ろして家の鍵を開けて階段を十数段ほど上り部屋の窓を開けてそこから屋根の一番高い所へ向かう。


 屋根の一番上に上るなんて危険だしあまりやっていいことではないだろうけど早起きと言うか早朝に起きていることの特権な気がしている。


 ステラと屋根の一番高い所で立ち上がって私はステラと話しをした…月を上にして。

 

「これからどうするの?」


 ステラは肉まんを食べながら「ワタシ…月をめざしたい」


「月?分かった行けると良いね…いや行けるよきっと」


「だってステラは」


「コスモナウト」なのだから。








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