汚れと虫 side麻璃亜
放課後、いつもなら美琴と一緒に帰っている頃なのだが、今日は急遽委員会でやらないといけない事ができてしまったため、まだ帰れていない。
美琴を待たせてしまうのは申し訳なかったため、先に帰ってていいと伝えたのだが、『私が麻璃亜と一緒に帰りたいから待ってる』と言われてしまえば、嬉しさで自然と微笑んでしまい、そのまま了承するしかなかった。
「以上で、今日の委員会を終わります。急な呼び出しにも関わらず集まっていただきありがとうございました。みなさん、気をつけて帰ってください」
委員会の活動が終わり、担当の先生がそう締めくくると、みんな帰り支度をしていく。
私も美琴のもとに戻ろうと思って、教室を出ようとした時、同じ委員会の男子から声をかけられた。
「麻璃亜さん、良かったら俺と一緒に帰らない?帰りにどっか寄っていこうよ」
名前は覚えていないが、たまに私に話しかけてくる人で、少しめんどくさそうな印象がある。
「ごめんなさい。今日は幼馴染と一緒に帰る約束があるから、また今度機会があれば考えてみます」
私はそう言って、改めて教室を出ようとしたが、私は腕を掴まれて引き止められる。
「いやいや、幼馴染の子にはメッセージとかで謝って先に帰ってもらってさ。今日は俺と一緒に帰ろうぜ?」
(…は?…触られた?美琴ちゃん以外の奴が私の体に触った?)
自分から触れるのは覚悟を決めてるからまだ我慢できる。
しかし、突然、何の準備もなく触られる事を私は良しとしない。何故なら私の全ては美琴のものであり、彼女以外が許可なく触っていい理由など存在しないのだがら。
汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い。
美琴以外に触られたことへの嫌悪感と気持ち悪さで吐きそうになるが、何とか耐えた後、腕を掴んできた男を睨みながら言葉を返す。
「すみませんが離してくれますか。こうやって強引に迫られるのは好きではないので、申し訳ありませんが離してください」
私の様子が変わった事に気づいたのか、その男はすんなりと腕を離した。
しかし、まだ一緒に帰ること自体は諦めていないのか、なおも話を続ける。
「いや、腕を急に掴んだのは謝るけどさ。そんなに怒らなくてもいいだろ?今日が無理なら別の日でもいいからさ、一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。今回のように強引に何かされるのも嫌なので、そのお誘いはお断りします。では、私は帰るので失礼します」
私はそう言うと、今度こそドアを開けて教室を後にする。そして、美琴のもとに行く前にトイレへと行き、私は嘔吐した。
「…うぅ。ほんと最悪。美琴ちゃん以外が触ってくるとかほんと無理。気持ち悪い」
しばらくトイレの個室にいた後、落ち着いた頃にそこを出て鏡の前に行く。
「酷い顔。美琴ちゃんに心配かけないようにしないと」
私は美琴に会いに行く前にメイクで顔色などを誤魔化し、なんとか気持ちも切り替える。
「よし、大丈夫。これ以上待たせるのも申し訳ないし、美琴ちゃんのところに行こう」
トイレを出た私は、美琴が待っている教室に向かう。すると、ドアの向こうから美琴の話し声が聞こえる。そして、よく聞くとその声は男の声だった。
私は嫌な予感がしつつも、中を確かめなければいけないと思いドアを開く。
そして、私の目に入ってきた光景は、美琴と知らない男が向かい合って話をしているところだった。
さっきまで美琴に会う事を楽しみにしていたのに、今は本当に最悪の気分だ。ただ、このまま何もしないわけにもいかないので、私は彼女に話しかける。
「美琴ちゃん?何してるの?」
私は今、いつもと同じように笑い、いつもと同じように話せているだろうか。
「麻璃亜? 委員会の仕事はもう終わったの?」
「うん。ついさっきね。ところ美琴ちゃんは何してるのかな?」
嫉妬で気が狂いそうになるが、まずは彼女が何をしていたのか知らなければならない。だから、彼女に今の状況について聞いてみる。
「麻璃亜を待っている間、勉強してたんだけど、途中で名取君が話しかけてくれて。それで、話してるうちに仲良くなったから連絡先でも交換しようかって話してたところ」
「ふーん」
私は今どんな表情をしているのだろうか。ちゃんといつも通りできているだろうか。美琴は恋愛感情には疎いが、勘は鋭い方だから、私の変化に気づいてるかもしれない。
ただ、私をこんな感情にさせた男が気になり、そいつの事を見る。名取と呼ばれていたその男は、私が見ただけだというのに何故かたじろぐ。
「そういう事なら、早く連絡先交換したら? 私も委員会の仕事終わったし、早く帰ろ?」
本当は交換なんかして欲しくないが、美琴が許可しているし、そうしないと帰れなさそうなので、私はそう声をかける。
「そうだね。名取君、QRコード読み取るから、スマホの画面見せて?」
「あ、あぁ。ごめん、栗原さん。沢辺さんを待たせるのも悪いから、連絡先の交換はまた今度にしよう」
「そう? なんかごめんね。今日はありがとう。楽しかったよ」
「うん。俺も」
名取は何故か分からないが、美琴と連絡先を交換せず、私と早く帰るように言ってきた。美琴はその提案にのると、カバンを持って私の方に近づいてくる。
「ごめん。お待たせ」
「大丈夫だよ。さ、帰ろ」
私はそう言って、いつのように腕を美琴の腕に絡め、腕を組む。
そして、美琴と一緒に教室を出る時、男の方を少しだけ振り向き、殺意を込めて睨みつけてやると--
「ヒッ⁉」
と、何とも情けない悲鳴をあげていた。
それに気づいた美琴が後ろを振り向き、彼の視線が気になったのか私の方を見てきたが、いつも通り微笑みながら彼女を見上げる。
そんな私を見て、美琴は特に気にした様子もなく、私たちは帰る事にする。
「……チッ。まだ寄ってくる虫がいたか」ボソッ
そして、最後に私がつぶやいたこの言葉に気づくものはなく、空気に溶けていった。
あの日から数日後、土曜日の今日は美琴の家に泊まりに行く日である。
約束の14時まではまだ時間があるので、余裕を持って準備を済ませ、彼女の家に行くだけだというのに可愛く着飾る。
そして、準備を済ませた後は家を出るため玄関に向かう。
「お母さん、行ってくるね」
「気をつけて行くのよ?それと、美琴ちゃんのことお願いね?」
「任せて」
私は母親に泊まりに行く事を伝え、家を出る。そして、少し歩いたところで美琴の家が見えてきて、彼女の家の前についた後はインターホンを押す。
少し待っているとドアが開き、美琴が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、麻璃亜」
「こんにちは、美琴ちゃん! 今日もよろしくね!」
「うん、よろしく。外暑いから、早く上がりな」
「ありがとう! 」
私は美琴に挨拶を済ませたあと、家の中に入る。
そして、いつもはこのまま美琴の部屋に行く流れなので、私は彼女の部屋に行く前に、家で作ってきた料理を彼女の家の冷蔵庫に入れて来て良いか尋ねる。
「あ、美琴ちゃんのお部屋に行く前に、持ってきたお料理を冷蔵庫に入れてきてもいい?」
「いいよ。いつも料理作ってきてくれてありがとう」
「大丈夫だよ! 今日も美琴ちゃんの好きな物たくさん作ってきたから、楽しみにしててね!」
美琴に許可を貰った私は、いつものように冷蔵庫のあるキッチンへと向かい、持ってきた物を冷蔵庫の中にしまっていく。
全て入れ終えた私は、急いで彼女のもとへと戻り、声をかける。
「お待たせ、美琴ちゃん!…って、考え事なんかして、どうかしたの?」
「いや、何でもないよ。それじゃあ、部屋に行こうか」
「うん!」
美琴は私を待っている間、何か考え事をしていたようだが、何でもないと言うので気にしない事にした。
その後、美琴の部屋に向かった私は彼女の部屋に入ると、いつも言っている言葉を今日も口にする。
「んー! 美琴ちゃんの部屋、やっぱり落ち着くなぁ!」
「いつもそんなこと言ってるけど、別に大したことない普通の部屋じゃない?」
「そんなことないよ! 美琴ちゃんの部屋だからこそ、私は落ち着くんだよ!」
本当にその通りだ。こうして彼女の部屋があって、彼女の使っているものがある。それを確認するだけで、まだ彼女は私を置いて居なくならないと安心できる。
「はは。なんか、面と向かってそう言われると少し照れるね。そうだ、今日はゲームでもしようか。新しいのを買ったんだ」
「ふふ。照れてる美琴ちゃんも可愛い! それじゃあ今日は、ゲームをして過ごそうか!」
こうして、美琴の提案により、私たちはゲームをして過ごす事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327
『人気者の彼女を私に依存させる話』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます