第14話 忘れた頃にやってくる
時の歯車に消されそうになった事件より、数日が経過した。
今日は久しぶりにタクと会う予定だ。
どうやらコンピューター系の専門学校に行ってるらしく、「たまには遊ぼうぜ~いいだろ~な~?」ってうるさいから遊ぶことになった。
男二人だとむさ苦しいので、今回は七海も参加してる。
三人でカラオケにやって来た。
「オレ来るの打ち上げ以来だよ~マジ久しぶり!」
「そうだね、私もよ。新生活で忙しくって中々来れないから」
「そもそも俺は打ち上げに不参加だったからな?いつ以来かわからん」
三者三様にコメントしながら、次々に曲を入れていく。
タクは俺と七海の名前呼びに動揺して、「おい、いつ付き合ったんだよ!」と小声で聞いてきたが無視した。
まだ付き合ってないとか言えない。勘違いしといてもらおう。
「いや~西沢さん、歌上手いね~!歌手やってもいけてたんじゃな~い?」
「そんなことないよ。赤石くんも上手だよね」
そんな二人の会話に入れずにいるぼっちが一人。
はい、音痴です。歌は好きだから、下手の横好きってやつですが、なにか?
「ヤスは音痴だけどな~!わはは!」
「うっせ!歌は気持ちだよ。ハートだ、ハート!」
ついに七海に聴かれてしまった俺のリサイタル。ガキ大将よりは破壊力ないので勘弁してくださいね。
ある程度みんなが何巡か歌い終わって、ランチタイムになった。みんな何かしらご飯を頼んで、今は食べながら談話中ってやつ。
「やっぱカラオケは飯が高いよな」
「それな!けどヤスは稼いでるから大丈夫だろ?今日はゴチになります!」
「アホ、割り勘に決まってるだろ!あ、七海の分は俺が払うよ」
「何ソレ!男女差別よ?オレもおごってちょー!」
「私も自分で払うよ。ヤスくんの気持ちだけもらっておくね?」
アホのタクは図々しいが、七海は別だ。今回は割り勘みたいな流れになってるけど。
予習してきた本によると、男がトイレに行くフリをして、先に会計をするって書いてあったな。
しゃくだが、タクの分もまとめて払っておいてやるか。
話はドンドンと弾んでいき、歌っては休憩して談笑する。とゆーループを作っていた。
そのループ中にタクからバイトしたいという話題が挙がった。
「ガッコーも落ち着いたし、遊ぶ金ほしさにバイトしたいんだよな~」
「すればいいだろ?」
「ところが、近くでいいバイトがねーんだわ、これが。なぁ、ヤスんとこで高時給で雇ってくれよぉ~お願い~」
こ、こいつ!この歳でもうコネを使おうとしてやがる!
「アホか。世間の荒波に揉まれてこい!若いうちから苦労してこいよ」
「そんなジジくさいこと言わずにさ~。ね、一生のお願い!」
「お前何回一生あるんだよ!毎回使うなよ。残機いくつあんだよ」
そしたらやけに静かな七海が、思案顔で何か考えてるっぽい。
思案顔も可愛いね。
これが惚れた弱みか。片想いってツラい。
「ヤスくん、赤石くんを雇ってあげてもいいんじゃないかしら」
「え?なんで?負債にしかならないと思うんだけど」
「少なくとも、ヤスくんの負担は減らせるわ。それに赤石くんはパソコン関係に強いんだよね?」
味方ができたのが嬉しかったのか、タクがノリノリで話に乗っかってきた。
「そーなんすよー。オレ、こう見えてネットは神対応なんすよね!ほら、西沢さんも応援してくれてるし、多数決で決定じゃね?」
「いやいや、かといってうちは儲けがまだ全然出てねーから、雇うとか赤字にしかならんし」
「中長期的に見て、ヤスくんのアクセかなり売れる見込みあるわよ?・・・もしかしてレビュー見てないの?」
言われて気付いた。
確かに見てない。発送だけで面倒臭くて、商品のレビューや星評価とか知らんわ、全く。
「発送が面倒臭くなってるのは、売れる数が多くなってきたからじゃないの?私の周りの人は、ほとんどアクセ買ってるわよ」
「マジで?そんなに売れてたの?手元にお金来ないから実感ないんだけど」
タクを雇うのはとりあえず保留ということで、通帳見てから決めることになった。
七海はいつもの呆れ顔したあとに、説教が飛んできそうだったから慌てて曲を入れて、歌って誤魔化した。
帰ってから通帳記入しに行くと、恐ろしいほど金が入ってた。
いつの間にか百万超えてんだけど!
確かにめっちゃアクセサリー作ったけども!高いほうもちゃっかり完売してたよ。
タクを雇うことにして、とりあえずRainで連絡だけ送っておいた。
『このたびは弊社とのご縁はなかったということで』
『え!マジで?』
『採用の運びとなりました』
『おい!紛らわしいわ!』
なんやかんやで、雇用したものの。お高い時給を出してたら、コイツの人生ダメになりそうな気がしたから、とりあえず900円からスタートってことになった。
タクの家でも出来るように、商品を持って行ってやった。
いつも通りアイテムボックスからドバドバと出して、梱包の箱やら緩衝材もドバドバと出したら、驚いたあとに怒ってた。
「ちょ、おま!今のどっから出したの?てか、出し過ぎだろ!俺の部屋がぁぁぁ!」
仕事内容は伝えたから、連絡貰ったら商品の補充するぐらいで、あとはお任せでいいだろう。
帰ってからレビューのことを思い出した。
何気なく見てみる。
『長い付き合いの腰痛とサヨナラしました』
『肌が前よりもずっと綺麗になった』
『重い日も安心』
とか書いてあった。
最後の七海じゃないよね?
他にも、ずららぁ~と見ていると、核心を突いたコメントを発見!
『着けた時と、外した時の差がかなり違った。まるで魔法のようだ』
おぉ!見る人は見てくれてるんだな。そうそう。ちゃんと魔法で付与しているからね。
そこらの付与術士なんか目じゃないレベルのをかけてるからね。
一緒にされると困るね!えっへん!
ふと、七海にレビューのことで自慢しようと思い連絡する。
そしたらソッコーで返ってきた。Rain高速化スキル仕事し過ぎでしょ。
『ちょっとお話したいことがあるんだけど』
デジャヴを感じ、どうしようとアワアワしてると、Rainがきた。
『今すぐそっち行くね』
俺は観念した。
何のことかは解らないけど、怒られる準備だけしておこう。
そこで唐突に気付く。
何気に初めて女の子が俺の部屋に来るじゃん!
急いで部屋中に清潔魔法を掛けて、エンペラーシープの座布団を用意し、ルナガイアで買った王室御用達の紅茶を準備。
あ、コンドーさん買ってない!
いや、避妊魔法があった。これで大丈夫。
そわそわしながら、脳内で女の子が家に来るイベントをシミュレートする。
インターホンが鳴り、慌てて降りると、母さんが対応していた。
「はじめまして、こんにちは。西沢七海と申します。ヤスく・・・安也くんはいますか?」
「あらあら~ご丁寧にどうも~。安也の母です。あの子ったら!こんな可愛い彼女がいたなんて!母さんびっくりしたわ~。で、いつから二人は付き合ってるの~?」
七海がタジタジになっていた。
そんな七海も可愛い。じゃなくて!助けなきゃ!
「か、母さん!いいから、ほら、台所に戻って!お茶は俺が用意したから、母さん顔出さなくていいからね?」
「あらこの子ったら、こんなにも遅れての反抗期なのかしら?悲しいわ~母さんは孫の顔が見たかっただけなのに」
「ゆ、愉快なお母さんですね?」
「あら、お義母さんだなんてやだわ~。なんだか照れちゃうわね」
ナイスだ、母さん!
じゃなくて、七海が困ってるだろ!困った顔も可愛いです。まる。
「じゃあ、あとは若い二人でゆっくりと~」
定番のセリフを吐いて母さんは去っていった。
七海と顔を合わせ、二人の目が合うと、七海は顔を真っ赤にしていた。
やべ、可愛い。
ちなみに俺も照れてしまい顔を反らしてしまった。
変な沈黙のあと、二人で部屋に入った。
さっきの母さんの『孫』のくだりのせいで、ついベッドに目線をやってしまった。
七海もチラッチラッと見てた。
ホントに申し訳ない。
「ざ、座布団にでも座ってよ」
「う、うん。ありがと」
二人で対面したまま、沈黙と緊張が続いた。そっと紅茶を入れたけど、王室御用達って味がしないんだな。初めて知ったよ。
「なかなかインパクトのあるお母さんだね」
「なんか申し訳ない母で、すみません」
「いやいや、私は好きだよ。良いお母さんじゃない」
好きって、やっぱり俺のことが・・・母さんのことですね、はい。
「気勢を削がれてしまったけど、ヤスくんに話があってきたんだ。ちょっといいかな?」
「うん、どうしたの?」
あ、そういえば怒られる前フリがあったわ。
「アクセに魔法付与してるでしょ?」
「あれ?そのこと?確かにしてるけど、七海も解ってたんだね。いや~あのレベルは俺じゃなきゃ無理だね。他の凡庸な付与術士じゃ一つ二つが精々ってとこかな?」
「いや、付与してるのが問題だから!訓練の時に言ったじゃない!もぉ~!」
それから七海はプリプリと怒りながら、魔法だけじゃなくて魔法の付与もダメだと言った。
この現代社会に魔法ってのは流出させちゃダメなんだって。
世の中には魔法の化粧水とか、魔法のような洗剤とかあるのに。解せぬ。
あと魔法瓶は魔法じゃないってのを、人生で初めて知ったね。
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