第4話 放課後と引きこもりの親友

  午後の授業も何とか消化し、時は放課後。


与太郎よたろう、一緒に帰りましょう!」


 今日突然できた俺の許嫁いいなずけこと、リリー・ベッカーに誘われ下校しようというのだが。


「ごめん、リリー。今日、先約で寄らないといけないとこあってさ。また今度でもいい?」


「信じて送り出した彼氏がこんなことになるなんて」


NTR寝取られフラグを立てるんじゃ無いよ」


 段々とリリーの思考回路にも慣れてきぞぉ。


「仕方無いですね。後方彼氏面で見送ってあげます」


「ちょっと意味分からないですね」


 前言撤回、まだ理解するには時間が掛かりそうだ。


「大丈夫、親友の男のとこだから」


「お、おおおおオトコ同士?!(♂×♂)」


「えぇ……なんでそんな反応なの(ドン引き)」


 表情は変わらない彼女だけど、その感情はやかましいほど声で表現されている。


「また明日、学校で」


「はい!」


 何のひねりも無い俺の言葉に、彼女はその凍り付いたような表情は変わらず、嬉しそうな声で答えてくれた。


「……あー、これからどうなるんだ?」


 目的地まで一人、今日の出来事を思い返す。


 朝、ぬいぐるみ助けるために川に飛び込んで。許嫁ができて。先生にセクハラされて。媚薬盛られて……


「濃い~」


 過重100%ってとこか。


「恋がどうしたって?」


 俺のではない、少し高い声。


「おう、及川おいかわ。来たぜ」


 目的地へ到着。

 一軒家の通りに面した窓から、顔を出している。


「おう、与太郎。上がれよ、今日もゲームの練習付き合え」


 彼は及川 翔おいかわ しょう

 付き合いは一年も無いがこれだけは言える。俺の親友だ。


 同じ高校の同級生のはずなのに、彼は学校には行ってない。世間的にはいわゆる不登校、もしくは引きこもりという存在だ。


「あいよ~」


 一応、インターホンを押す。


「あら、与太郎くん。いらっしゃい」


瑞希みずきさん、お邪魔します」


 玄関の扉を開け、出て来たのはしょうのお姉さん。少し低めな身長と彼女の出す優しげな雰囲気は周囲の人を癒やすこと間違いない。


しょうちゃん。与太郎くん来てくれたんだから、せめて玄関まで迎えにきなさいよ~」


「いいじゃん。どうせ、ボクの部屋来るんだし~」


 ほんわかした姉と弟のやりとりに、なんだか緊張もほぐれる。ホント、今のメンタル的にしょうが誘ってくれたのは良いタイミングだったかもしれない。


「ごめんね、与太郎くん。翔ちゃん、ぐうたらで」


「大丈夫ですよ……あんなこと言いながらアイツ、窓から顔出して俺のこと待ってたんすよ」


 我が親友ながら、いじらしいじゃないか。


「もう~昔っから変わらないわ~。ありがとね。あとでお茶持って行くから~」


「お気遣い、感謝っす」


 お姉さんと挨拶程度の会話をして、翔の部屋へ向かう。通い慣れた及川家には、どことなく安心感があった。


「おーい」


 声をかけながら部屋のドアを二回ノック。


「おい、二回はやめろって言ったろ。トイレじゃないぞ、ボクの部屋は」


 小柄で華奢きゃしゃな部屋の主が、姿を表す。伸ばしっぱなしのキレイな黒髪。前髪をおでこの所で結んでまとめて、視界を確保してるらしいが雑過ぎだ。


「悪い悪い。ついくせでな」


「ん、どうした? キレが無いな、いつもなら『お前をトイレ(意味深)にするからだよ』って言うところだろ。何か嫌な事あったか?」


「お前、俺のコト何だと思ってんだよ?! 言わねぇよ、そんなこと!!」


 まぁでも、さすが親友。

 コイツには、隠し事はできないな。


「んー、まぁ嫌な事ってワケじゃないんだが……混乱しててな。整理ついたら話すよ」


「ふーん、無理すんなよ。ピエロ野郎」


 口が悪いようにも思われそうな一言だけど、これが彼なり気遣いだと俺は知っている。


「ああ」


 噛みしめるようにつぶやき、気持ちはすぐに切り替えた。


「よっし、いっちょやるか。今日こそ負けねえぞ」


「かかってこいよ~、ズッコンバッコンにしてやるぜ」


「その擬音ぎおんどうにかならねぇか?」


 ゲームのコントローラーを握り、二人で画面に向き合った。




 

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