下ネタピエロは笑わせたい!!~ド下ネタヒロインズとコメディ全振りな日々~

春菊 甘藍

一章 笑えない君へ

第1話 新学期と恋人(?)

  尻波 与太郎しりは よたろう(16歳)。


 ふざけた名前以外は、ごく一般的な高校二年生。実家の整骨院を継ぐべく、部活もせず家の手伝いをしている親孝行者だ。名前通りとはいかず、尻派ではなく、胸派らしい。どうでもいいことだ。


「おう、与太郎。行く前にちょっと話がある」


 学校に向かおうとした玄関で、めずらしく父親に呼び止められた。


「何? 父さん。学校行く前だから、手短に」


「今日、お前は彼女ができるぞ」


 また、いつもの冗談だろうか。半年くらい前からずっと、こうやってニヤニヤしながら言ってくる。


「あっそ、まぁいいや。行って来ます」


「おう、いってら~」


 今日はクラス替え初日。

 いつもの通学路には、この一年で見慣れた学校の制服が見える。


「今日から二年か……」


 初々しい様子で登校してるのは新入生だろうか。少しダボい制服に微笑ましくなる。


「んお?」


 いつも通る橋の中腹まで来た時だった。ふと川の方に目をやると、何かがどんぶらこと流れてる。


「あれは……なっ!?」


 流されていたのは段ボール箱。中には三毛色の……


「猫だ!!」


 手荷物は放り投げ、橋の手すりによじ登る。


「とうっ!」


 躊躇ためらい無く、川へダイブ。

 すぐさま箱まで到達するとビート板のように押して、自由形クロールで泳ぎ切り岸に到達。


「大丈夫か?!」


 橋の上から見た時、猫は動いてなかった。嫌な予感を胸に、のぞき込んだ箱の中には……


「……ぬいぐるみかよ!!」


 叩き付けそうになり、思い直してそっと胸に抱いた。そのまま、登校を再開。


「ハァ」


 周囲の視線が痛い。

 まぁ、それもそうか。


 びしょ濡れのぬいぐるみ持った男なんて、二度見せずにはいられない。ぬいぐるみは心の中で『ごめんよ』と詫びながらかばんへ押し込んだ。


 しずくをまき散らしながら、学校に到着。そのまま教室に着き、何の感慨も無くドアを開けた。


「おはようございます」


 一人の美少女がいた。


 肩の辺りまである金髪。少しつり上がった目、その中の瞳は群青色で。引き結ばれた唇。高い身長がゆえか、スタイルも非常によろしい。


尻波 与太郎しりは よたろうくんですね?」


 ビビって、うなずくことしかできなかった。


「ヶ、こ……」


 急に彼女の声が小さくなる。


「え? こ??」


 今思えば、ここで聞き返すべきではなかったと思う。


「子供は……何人欲しいですか?」


「何の話ィ?!」


 人生で一番大きい声が出た。


「わぁ」


「何あれ」


 クラスメイトから新学期始まって早々、好奇の目で見られてる。


「失礼。少し段階を飛ばしすぎましたね」


「少しどころじゃないんよ。もはや瞬間移動のレベルなんよ」


 静かにしゃべる印象が強い人。表情だけが、凍り付いたように動かない。


 言ってるコトだけが馬鹿みたいに過激だけどね!!


結納ゆいのうはいつ頃?」


「惜しいな。婚約もまだ済ませてないぞ」


「だったらすればいいことでしょう?!」


「どこでキレてんだよ?!」


 前言撤回、ちょっとやかましいです。


「私は、リリー・ベッカー。興味のある体位は『乱れ牡丹』です!」


「後半の情報は要らなかったかなぁ?! 尻波 与太郎しりは よたろうだよ!!」


 何ともやかましく勢いに任せた自己紹介。だが、名乗られたなら名乗り返すほかあるまいて。


「ふんっ!」


 表情は変わらない。

 でも彼女は、手を差し出してきた。


「おうよ!」


 なぜか交わされる固い握手。一瞬で彼女の意図をくんだ自分を褒めたい。教室は拍手で包まれてた。


「ところでやけに濡れてますが、もしかして性的に興奮なされてます?」


「自分で言うのも何だが、川に飛び込んだだけだよ」


「なるほど、川に飛び込みイカ臭さを落とそうとされたのですね」


「誤解が過ぎるぅ!!」


 教室中の女子から、『コイツ、マジか』って目を向けられてるぅ。ダメっ、見ないでぇ!!


 下ネタにまみれた話題を何とか方向転換させねば。というかこの子がなぜいきなりプロポーズまがいの事をしてきたのかが分からない。


「ベッカーさん、えっと……さっきの子供うんぬんとかって何ですか? ドッキリ?」


 まぁ、新年度だ。ノリの良い人たち(陽キャ)でそういう事もするのかもしれない。


「ひどい! 私の気持ちをそんな風に!」


 彼女の表情は変わらない。

 なんか声だけそれっぽく悲しげに聞こえる。


「わー泣かした」


「さいてー」


 女子からの視線が痛い!!


「与太郎、それはアウトだ」


「見損なったぞ、与太郎」


 男連中からも批判の嵐!!


「あうあうあうあ、ごめん。ごめんて! 疑って悪かったよぉ」


「では、私の気持ちは受け取ってくれますか?」


 急に突きつけられるは、究極の選択。

 彼女の顔をといえば、相変わらず無表情。


オトコを見せろ、与太郎」


「信じろ、与太郎」


「断ったら殺す」


 男たちの友情に混じって、女子からは確かな殺意のこもったお言葉。


「う、ウス。つつしんで、お受けいたします」


 少し、彼女の蒼い目を見開いたのが分かった。

 よ、喜んでる?


「あ……」


 そして、思い当たることが一つ。


「あのぅ、ベッカーさん。もしかして、俺の父親の尻波 頓馬しりは とんまって知ってる?」


「はい。半年前、居酒屋で与太郎くんのお父様と私の父が意気投合いたしまして。私たち、許嫁いいなずけになったそうですよ?」


「父さぁぁ~~~~ん!!!!!」


 人生で出た一番大きな声は、早くも更新された……

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