惚れた理由
終盤について書く前に、なぜ今までにない熱意が湧き出してきたのか、というのを自分なりに考えてみる。これもまた、後腐れをなくす為だ。
コンテンツに惚れたのは「聲の形」が初めてだった。そして、多分、これが最後になる。もう漫画作品は買わないだろうし、ここまで熱を上げることもないだろう。
仮に「聲の形」よりも、あらゆる面で素晴らしい作品が出てきたとしても、それは関係のないことだ。
理屈を越えている。
恋なるものをすると「熱にうなされる」「心が浮つく」というが、似たような感覚なのだろうか。
確かに漫画として優れているのは間違いなかった。高く評価されたのも頷ける。こちらが漫画という形式に慣れていなかったという点もある。
ただ、どうにもそれだけではないように感じられた。
語弊を恐れず言うなら、波長が合ったのだろう。読んでみて一目惚れした。
「聲の形」は……少なくとも個人の認識の上では、1を 100にする作品ではなかった。0を 1にする作品でもなかった。
1が長らく 1のままだったところから、何とかして 2へ向けて動きだそうとする作品に見えた。
・
笑わないで欲しい。
恋はホルモン分泌による一時的な現象だなんて、本気で思ってた。
そう考えていれば、正当化できると思ってたから。自分の嫌な部分を見つめなくて良いんだと思ってたから。
いつも思っていた。どうしてわざわざ群れたがるんだろう、仲良くしたがるんだろうって。
デメリットやコストよりメリットの方が大きいからだなんて、本気で思ってた。
でも違った……損得とは関係ない領域も確かにあるのだ。「成功するか失敗するかなんて関係なく」進みたい人もいるのか。そんな感情や思いやりすら、打算だとか社交辞令だとかで誤魔化していた。
分かってる。そうやって考えてれば、気楽だから……
だってそうだろう!? 勝ち負け、効率、高速、要約。
なるべく沢山のことを知りたい、学びたいじゃないか。充実させていきたいじゃないか、得したいじゃないか。
バカな奴らを見下してさあ、自分は一人で高層ビルからワイングラス片手にディナーを満喫したいだろう。そうでなきゃ
……
そうやって、輝かしい未来に抜け駆けする算段をずっと考えていた。
一人は良かった。他の人が付き合いに時間を使ってたところを、勉強に充てられたし。相手の都合や内心を考えなくていいし、自分が抱くであろう生々しい感情に向き合う必要もない。何より衝突しなくて済む。
コスパだけなら負け知らずだろう。それは今も思ってる。
でもこの戦法にはひとつだけ大きな欠点があった。それは「どこか足りないこと」だった。
その「足りなさ」がどこにあるのかをずっと探していた。
今なんだ。
巨大に見える過去の経験則と未来の不安に気を取られて、足もとのちっぽけなものに目を向けなかった。
相手の都合や内心に怯え、自分が抱くであろう生々しい感情に怯え、衝突に怯えた。
怯えるために経験を積んだわけでも、未来を予想したわけでもないのに。
今しかないんだ。
だから理由を挙げるなら、刺さったのだと思う。長らく 1の自分の心に。
「惚れた弱み」なんて言葉があって、どちらかというと、ドツボにはまった人を隣から冷めた目で見ていた方だったのに、今となっては自分がその立場にいる。
ダセーとも思う。
でも思ったよりかは悪くない。
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