3-5
「ワタシ、イッショ、イク」
「え?」
「シゴト、オワッタ。ワタシ、ヒマ」
鍵を守る仕事がなくなったから、ついてくるということだろうか。
「え、暇って……この村は?」
「ムラ、アトツギ、マカセル。ワタシ、カミ、マモル」
「いや、護衛ならすでにいるんだが……」
「イタチさんが来てくれるなら、心強いよー」
ゼノが断ろうとすると、クレシュが口を挟んだ。剣をもらって以来、すっかり取り込まれている。
「だけど、その姿で人間の前に出るのはまずいだろう?」
「ワタシ、バケル」
そう言ったとたん、呪術師の姿が溶けるように揺らぎ、目の前に小さな老婆が立っていた。
「必要なときは、こうして人の姿になるから問題ない。おぬしは少々頼りないから、わしが面倒見てやろうというのじゃ」
「うわわ……! あんたって雌だったのか? ていうか婆さん!? いや、そんなことより、ちゃんとふつうに話せるんじゃねえか!」
「阿呆。あの口で、人族の言葉がまともに発音できるわけがなかろう。それにこれは仮の姿じゃ。必要に応じて何にでも化けられるぞ」
言ったかと思うと、たちまち豊満な若い美女になり、ついで筋骨たくましい大男になり、さらに犬や猫にもなった。
──発音がどうのって、これは幻術じゃないのか? 実際に体のつくりまで変わってるのか?
聞いてみたい気もしたが、また叱られそうなので黙っておく。
呪術師はしばらく変幻自在ぶりを見せびらかしてから、元の鼬もどきの姿に戻った。
「フウ。コレ、オチツク」
──俺も、このほうが落ち着きます……。
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて、よろしくお願いします。ええと、なんとお呼びすれば?」
「カミ、テイネイ、フヨウ」
鼬のときのほうが腰が低い。
「ワタシ、ナマエ、…………」
ものすごく早口で長い名前を言われたが、まったく聞き取れなかった。
「ワタシ、ユァン」
どうやら妥協してくれたようだ。
「ユァン……か。よろしく、ユァン」
「ユァン、かわいいねー」
ふわふわの体に抱きついて、クレシュが頬ずりしながら言った。
「あたしはクレシュだよー。神様はゼノー」
「神様はよせ」
「じゃあ勇者様―」
「頼むから、やめて……」
先行き不安ながら、とにもかくにも出発にこぎつける。
教えてもらった近道を三人でたどりながら、ゼノはふと思った。
魔王退治の旅なのに、魔物に神と崇められて、おまけに護衛として同行までしてもらうとは……。神と魔王と魔物の関係性がまったくもってわからない。魔王は魔物にとっても脅威なのか? それともこの鼬もどきたちが、たまたま神を信仰する善良な魔物なのか? あるいは彼らにとって、何かしらの超越した力を持つ者全般が神なのか?
──いや、俺のこの印を見て、鍵を渡してくれたんだしなあ。
とりあえず、神殿と鼬もどきは同じ側にいると考えてよさそうだ。
そしてその代表といってもいいクレシュとユァンは、道中何やかやと互いをいたわり、いっしょに狩りをして夕食の材料を調達し、野宿の支度から食事の後片付けまで仲良くこなしたのち、いそいそとよりそって寝る態勢に入った。
──ふわふわの抱き枕ができたから、俺はもういらないわけだね。
一抹の寂しさを覚えながらも、久しぶりの静かな環境で、ゼノはたちまち眠りに落ちていた。
翌朝──。
生き埋めにされる悪夢にうなされて目を覚ましたゼノは、クレシュとユァンが折り重なるように自分の上で寝ているのに気づいた。
悪夢の原因はこれだ。
「おい、おまえら……なんでこんなところにいるんだよ!?」
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