幼馴染のことが好きな貴方を、出逢いの美少女が振り向かせてあげる
月白由紀人
第1話 プロローグ
「きてくれてありがとう」
市立彩雲学園高等部。
放課後の教室には、俺、
「はっきりしないのは性ではないから単刀直入に言うわ。如月郁斗君。私と貴方は今『出逢った』の。私と彼氏彼女の関係を前提に、付き合ってもらえない?」
そう告白してきた詩織を、窓からの夕陽が綺麗に照らしている。
長く艶やかな黒髪に丹精な顔立ち。強い意志を感じさせる深い瞳が印象的な美人。整った体躯と、スカートから伸びる綺麗な脚線が、俺の目に眩しい。
この楠木詩織は、転入三日で学園一の美少女に上りつめたクールビューティだった。振った男は既に二桁という噂の学園の高嶺の花。
俺は率直に驚いていた。詩織から「放課後の教室で待っています」という古風なラブレターをもらった時には、まさかと思って本気にはしなかったのだ。だがしかし、その詩織に告白されて今の状況に陥っている。
詩織が冗談を言っているようには見えない。俺の事をからかい半分に茶化している様子もない。揺るがない視線、その瞳に、俺にはうかがい知れない詩織の決意の程が見てとれた。
「ええと……」
「ええと?」
たじろいでいる俺は、上手く返答ができない。
「なんで……俺なんかに? 別にイケメンでもないし……。学園カースト上位の陽キャでもないし……」
「確かに如月君のルックスは平凡。でも私は貴方に惹かれたの。だから今こうして貴方と『出逢っている』わ。今ここで『出逢った』私では不満?」
真剣な漆黒のまなこ。二重の綺麗なまつげに縁どられていて、吸い込まれそうに感じる。
胸中でうめきながら、なんと返答してよいのかという戸惑いの中で、俺は言葉を紡ぎ出す。
「……ごめん」
「……」
詩織の頬が僅かにぴくりと震えたのはわかったが、その表情に大きな変化はなかった。ただ、その瞳がやや細くなって俺の様子を見据える目になった気がする。
詩織が、落ち着いた様子で尋ねてくる。
「どうして……私では駄目なのかしら?」
理由は、ある。
はっきりと、ある。
転入したての詩織にはまだ情報がないのかもしれないが、クラスでも学園内でも有名な話だ。いずれ詩織にも伝わるだろう。加えて、詩織にお茶を濁したような返答を返すのは失礼だとも思った。だから詩織には申し訳ないが、はっきりと伝えることにした。
「『幼馴染』じゃないからです」
その場面で――詩織は何故かふっと笑った。
「想定通りの答えね。分かっている事を問いかけて、決まっている返答が返ってきただけ。でも私は、その貴方の執着を私への想いで塗り替えてあげるから……覚悟しておいて」
それだけ言い放ってから詩織は背を向けた。
真っ直ぐな背に綺麗な黒髪の印象を俺に植え付けて、楠木詩織は教室から去っていったのだった。
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