09話
「ねえ見てこれ、新しく買ってきたんだけどどう?」
「似合っているね、でも、去年の水着の方が似合っていたよ」
「くぅっ、新しく買ってきた存在に対してなんて酷いことを言うんだっ」
だって実際に去年の方がよかったのだから仕方がない、逆に無理をしてお世辞を言われる方が嫌ではないだろうか。
「おい莉子、そんなに慌てなくても海は逃げないぞ」
「早くしてっ、海は逃げないけど時間はいっぱいというわけじゃないんだからっ」
ちなみに莉子ちゃんが好きな男の子はあの子だ、これは本人に教えてもらったことだから勝手な妄想というわけではない。
それと一緒に来ている彼女の友達の志知さんはやたらと莉音に絡まれていて早くも弱った顔をしていた。
つまり、みんなと一緒に来られたのはいいものの、中々にカオスな感じになっているということになる。
「ねえ池羽君、一応聞いておくけどなんでもう少しぐらいは頑張ってくれなかったのかなって」
「一番の理由は情けなかったからだよ、二番目の理由は莉音が一生懸命だったから、三番目は近くにイケメン君がいるのに僕なんかに振り向いてくれるわけがないと諦め気味だったからかな」
「二人きりでいられているときは多かったと思うけど」
「山下さんが来てくれて確かに二人きりの時間は多かったね、でも、時間があればなんでも上手くいくわけじゃないんだよ」
迷いなく振ってきたくせに聞いてくるなよなんて気持ちになるなんてこともなかったから迷いなく振ってくれてありがとうと言っておいた。
「あのね、振られた方もそりゃなにかが残るだろうけど振ることになった方も――」
「あの日は静葉、やばいぐらい荒れていたよね~」
「だって自分だけすっきりとした顔で帰って、そのうえで風邪とはいえ違う女の子に会っていたんだよ!? そりゃ私じゃなくてもそうなるよ」
「だったら受け入れてあげればよかったのに」
「池羽君が悪いというわけじゃないけど莉音ちゃんとか関係なくそれは無理!」
な、なるほど、自由にされたから自由にしようということか。
確かにいまのままでは僕のやり逃げということになってしまうから彼女にはそれをできるだけの権利がある。
でも、今日また改めて言われるのはあの後と同じように気になるわけで……。
「なんで無理なんですか? 確かにあまり積極的になれない人ですけど無害……ですよね?」
「だって背が低いんだもん、自分より低い子は恋愛対象として見られないよ」
ありゃりゃ、じゃあそもそもスタートラインにすら立てていなかったということだったのか。
結構残酷だなという感想になったのだった。
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