命の歌

ああ死にたいな

その言葉の奥底


生ぬるい羊水の音


安全な浅瀬を

ぴちゃぴちゃともてあそんでも


咥えた指先は

唾で汚れたまんまなんだよ


しんしん


深い方へ方へと


しんしん


船を漕ぎ出していくしかない


瀕死んしん


やがて岸は遠のいて


しんしん


ざらりと死が背筋を這う。


もう戻れないから

後には退けないから

それしか道は無いから

死が迫ってくるから。


何も無い海洋

そこにある回廊


燃える剣が円を描き

身体を灼き尽くす感触


それでも死にたくないから

本当は死にたくないから


骨になって進む

沸き立つ水を掻いてく


死にたいんじゃないでしょ?

生きたいんでしょ?

生きるのが辛いんでしょ?

現実が苦悩なんでしょ?


同じやり方

同じ生活

同じ電車

同じ顔をした人達


同じ会社

同じ仕事

同じキッチン

同じ送迎


似たような毎日

代わり映えしない自分

溜まる洗濯

固まる心

今日も痛い首と腰が


いつのまにか死んだのは心か?

知らぬ間に死んだのか心が?

肉体の欲望だけが生の証か?

この疼きだけが性の証か?


違う

違う

違う違う違う違う違う違う


違う……!!




誰が僕を殺した?

毒を飲ませたあいつか?


それとも搾り取るばかりの奴か?

はたまた海の向こうの組織か?


きっとそう。

だけど彼等には

命に触れる権限は無い

管理者Codeはそこに無い


あるのはこの手の中だけ。


なら誰が僕を殺した?

他でもない僕自身だろう?



命が欲しいんです。

死ぬことのない命がたた欲しいんです。



鬱で死なない

ナイフで死なない

悪意で死なない

イジメでも死なない


貧乏でも死なない

独りでも死なない

十字架にかけられても死なない


即身仏

髑髏本尊

焼身自殺

抗議の焼身自殺


チベットでも

ガンジスでも

ゴルゴダでも


地獄でも死なない


激流をくぐって

火炎を抜けて

骨だけになって

灰になったって


身体飛び出して

ここを抜け出して

大空に舞って

宇宙を突き刺して


命の歌を歌いたい

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