キスガアナタ

山咲 金時

第一章Gninnigeb

1.平和な毎日

第一章Gninnigeb


1.平和な毎日


 まだ夏の暑さが残っている秋の候、事件は起こった。

 詳細は分からないが橋の上から落ちて誰かが死んだんだ。

 他殺の可能性ゼロ、いわゆる自殺らしい。

 人間というものは不思議だ。

 お互い殺し合うのだから…


ーそんな事件が起こる5ヶ月前の話ー

「今日は気持ちのいい朝だなぁ」

 むしむしする夏の季節。朝はまだ涼しく過ごしやすいほどだった。俺は大きく背伸びをして、窓を勢いよく開け、朝日を浴びていた。

 見える景色はビル、高さは40メートルといったところだろうか、それが数十個と建っている。


(おっとこんなことをしてる暇はないな。)

 とりあえず俺は妹の煤湯を起こそうと大声で

「もう学校に行く時間だぞ。早く起きないと遅刻するぞ!」

 煤湯は俺の声に驚いたのかすごい勢いで飛び起きて

「えっ!もうそんな時間なの!そういうことはもっと早く言ってよ!」

「俺は何回も起こしたぞ…早く起きない方が悪いだろ。」

 そう言ったら言い返せないのか、頬を膨らませて1人でリビングに行ってしまった。

(あいつまた拗ねてやんの。無視してたらいつか機嫌直るだろ)

 俺は妹を無視したまま同じようにリビングに行った。


 そして、いつものように俺が速攻で炒めた、スクランブルエッグとソーセージ、そこに一枚のきつね色に焼いたパン。

 これら食べながら煤湯の方から話しかけてきた。

「お兄ちゃんってさ、、恋人っていたりするのかな?」

「お?急にどうした、さっきまで拗ねてたのに、まぁ…俺に恋人はいないぞ。あれは、ただ単にあいつがついてきてるだけだ。」

「いや、別に拗ねてないし!でもお兄ちゃんいっつも塩尻さんと一緒じゃない!」

「そんなことより、遅刻するけどいいのか?」

 煤湯は思い出したのか、焦って支度をしながら


「もう!早く言ってよ!」

 と言ってドタバタと大きな音を鳴らし、出て行った。

「俺もそろそろ出ないとな、母さん…行ってきます。」


 少し歩いていたら後ろから元気な声で

「諒くんおはよう!」

 やはり来た、塩尻だ。

「あぁ、おはよう。」


 塩尻とは幼馴染だが俺はあんまりこいつの事が好きじゃない。

 なんでかって?元気すぎて暑苦しいし、よく噛んでくる。昔からのこいつの癖だ。まぁそれでもいい話し相手になるから別にいいけどな。


(カプッ!)

「いてて、やめとけやめとけ、周りの目が気になる。」

「えへへ、ついつい嚙んじゃった、そういえばなんか今日暑いよねー」

「まぁ8月初旬だからな、そりゃ暑いに決まってるだろ。」

「あ、それよりさ!昨日輪花と仲部でキオンに行ってきたんだよねー」

 キオンとは色んなお店が集まった大型商業施設のことだ。

 こいつと輪花は1番の中だが仲部とはそんなに仲良くないはず…


 とりあえず俺は感想を聞いた

「ほぅ、それでどうだったんだ?」

「いろいろ服買ってきたんだよ!ゲーセンに行ったり、普段行かないから面白かったなぁ…」


 そんな感じで適当に話していたら学校に着いた。

 俺のクラスは3-2、いつも通り階段の昇り降りがめんどくさい場所にある。

 俺は教室に入った。


 そうしたら何故か皆神妙な顔をして席に座っていた。

(どうしたんだろう?何か悪いことでもあったのか?)

 と思っていたら先生が入ってきた。

 椿馬先生だ。

 いつもならガラガラと大きな音を立てながら入ってくるのに今日はやけに静かだ。

(やっぱり何かあったんだ。)

 そう思っていたら入ってきた先生は少し残念そうな顔をしながらゆっくりと話し始めた。


「皆さんおはようごさいます。もうみんな知ってるかもしれないけど、昨日輪花さんが亡くなりました。」

 何故かこの時は敬語だった。いつも、タメ口なのに、、

 そんな事よりも俺はその内容に驚き、俺は思わず「なっ…」と声に出てしまった。

 昨日まで生きていた輪花が死んだ?昨日は塩尻とキオンに行ってたはずなのに....

 俺は思わず疑問に思いみんなの前で質問してしまった。

「何で亡くなったんですか?」


 空気が一気に凍ったような気がした。

 この時はまさかあんな事になるなんて誰が想像したんだろう。


 先生は「え?知らないんですか。橋から落ちたんですよ、まるでカワセミが魚を取りに行くように....身を投げ出したんですよ。」


 と先生が言った瞬間、周りの空気が凍った。本当に凍ってしまった。その言葉を聞いた仲部は

「なんで!?私は昨日あなたと一緒にいたのよ!!なんでなのよ!!」

パニックになった。当たり前だろう、昨日まで一緒にいた仲だ。


 すると急に冷静になり


「私はあなたの事が好きだった。なのに何で貴方は分からないのよ!じゃあもういいわ。私もあなたのいる場所に行くわ。」


 先生は咄嗟に仲部の手を掴んだ。焦っていたのか、少々荒い言葉だが、仲部を落ち着かせるようにこういった。

「あいつはお前に死んで欲しいと思ってると思うか?」

 仲部は泣きそうな顔になりながら

「そうよ!そうに決まってるじゃない!私を置いてどこかへ行くはずがないんですから!!」

 その言葉を聞いて仲部は突然泣き出した。


 先生は続けた。

「仲部さんは私の大切な生徒です。死なせはしない。」

 仲部は涙ぐみながら言った。

「なんで先生は私に死ぬ事を止めるのよ…」

 先生は優しく包み込むように仲部に言った。

「先生だけじゃありません。皆もそう思ってますよ。」

「そ、そうよね、皆ごめんなさい。」


 皆からも「大丈夫?」と言われながら、ボロボロと涙を流していた。


 するとグラウンドの方から罵声のような大きな声が聞こえてきた。

「良かったな仲部!みんなに助けてもらえて!まぁ、お前も直に死ぬけどな!」

 あいつ今なんて言った?仲部が死ぬ?

「そして神埼!お前の妹は貰っておいたからな!」


 覆面で分からないけど俺の身元を知っているやつか!しかも俺の妹を誘拐するなんて・・・なら要求があるはずだ。

「お前たちの要求はなんだ?」


 すると男達が

「要求なんてねぇよ!俺はただ<神>に近づきたいだけだ、だから俺はこいつのことを殺す!」


「何っ!?やめろ!そんなことをして許されると思っているのか!」


「許されるよ、この世界に<神>が存在する限り。そして、俺は<神>に近づくんだ!」


 彼は腰につけていた銃を取り出し、煤湯の頭に押し付けた。

「やめろー!」

 その瞬間バン!という音が鳴り響いた。

「ぐはっ、」

 撃たれたのはその覆面男だった。

 胸を一直線に貫かれていた。


「な、なんで俺が、殺されなければ、いけないんだ、」

 致命傷を負ったようだ、あいつは何かを言いながら持っていた銃の引き金を引いた。

バン!バン!バン!と3発、音が鳴り響いた。


「煤湯!!」


何故か頭がぼーっとしてきた。

視界もゆがみ、勢いよく後ろに倒れた。

自分の腹の方に痛みを感じ、見てみたら血が大量に垂れていた。

俺は2発目の弾に当たったようだ。

煤湯のことがどうしても気になるが、出血が多すぎて、立ち上がることが出来ず、意識が遠ざかっていった。

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