第21話 答弁

「僕の魂言は【変形ディフォーム】で、自分を色んな形に変えることができるんだ」


 結局俺は凛音とペアを組んだ。知り合いらしい知り合いがいない俺にとってはありがたいことだ。凛音もまた同じように思っていたのだろう。女子生徒2人に誘われていながらわざわざ俺を選んだのだから。


「って、聞いてるのか財!」

「あんまり聞いてなかった」

「だから僕は変身能力じゃなくて変形能力が使えるんだって」

「どこが違うんだそれ?」

「簡単に言うと体積が変わらないんだ」


 そう言うと凛音は人差し指を伸ばして見せた。代わりに中指は縮んで次第になくなってしまった。その後人差し指が縦に裂けて2本の棒状に、さらにそれらは螺旋状に絡みあい、槍の先端のような凶器へと変貌した。


「体積を増やした分は別の部位が減る。トータルは常に一定だ。硬さは変えられるけど僕の体の最高硬度までしか硬くはできない。あとは……」


 そこまで言って凛音は指を元に戻し、握手を求めるように右手を差し出した。訳も分からずこちらも右手を差し出そうとすると、凛音の手のひらからいきなりナイフが飛びだし、俺の手のひらに小さな傷をつけた。


「ビックリした?」

「いや、当たってるけど!?」

「変形のついでに体に武器を隠せるようになったんだ」

「え?無視?ちょっと刺さったんだけど?血出てきたんだけど?」


 思い返せば路地裏で刺されそうになった時にどこからともなくナイフを取り出していた。なるほど、こういうカラクリがあったのか。


「でもどうして俺に教える気になったんだ?あんまり教えたくないんだろ?」

「授業をこなせばそのうち能力はバレるだろ。それに……」

「それに?」


 凛音が言葉に詰まって視線を落とした。不思議に思って続きを問うと凛音は数歩下がって小さな声で答えた。


「僕も少しだけ……、財を信用してもいいかな、って」

「あ、ありがとう……?」


 何だかよく分からないが信用してもらえたらしい。じゃあ俺からも信用の証として本当の能力を教えるとしよう。


「俺の魂言は【藁稭長者シャークトレード】で、自分と対象の持ち物を交換することができるんだけど――」

「それは昨日聞いた」

「えっ、いつ?」

「いつって……、昨日君が僕を襲ったときに……」

「は?」


 待て待て待て待て。何の話だ凛音。お前は何を言っているんだ。何を顔赤くしてんだ。昨日?襲った?俺が?いくらお前が美少年だからって、いくら俺がモテないからって男を襲う事はない。いや、でも待てよ……。昨日の記憶があまりない。一体どこから……。


「凛音君を、襲った……?」


 背後から寒気を感じ、恐る恐る振り返ると般若のような形相の女子2名が圧倒的な怒りのオーラを放ちながら腕を組んでいた。先ほど凛音をペアに誘っていた可憐な女子だ。今はもうそんな姿は無いが。


「こいつ、殺さなきゃ」

「奇遇ね。私も同じことを考えてたの」

「じゃあペアを組みましょ」

「ええ、どっちが先に殺せるか競争ね」


 先ほどまでいがみ合っていた二人が手を取り合って俺を殺す算段を立てている。説得しようにも俺には記憶が無いため完全に否定はできない。記憶にございませんなどという国会議員めいた答弁で彼女らの殺意を止めることは恐らく不可能だ。


「はい、そろそろ最初の試合な。誰かやりたい人~」

「はい先生」

「おっ、五十嵐か。あとは……」


 これだ!これしかない!


「はいはいはいはい!!!!」

「おう、元気がいいなあ財。じゃあお前ら来い」

「ぃよっしゃぁ!!!!」


 何とか試合と称して俺を殺す計画は回避することができた。ついてる!今日の俺はついてるぞ!


「あたしたちなら簡単に倒せるってわけ?舐めやがって!」

「あんこちゃん、頑張ろう……!」


 余計な怒りを買って敵が増えました。


 

 

 

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