モンシロチョウが墜ちた後で
森本 有樹
#0 紋白蝶が墜ちた日
『
操縦桿を引く。プラスチック特有のぎーっという音がして、操縦桿が掌に倒れる。
『
そうだ、ここは、繭だ。私は中の蛹で。ドロドロになって、蝶になる夢を見ている。
『
いや違う。ここは胃だ。
『
全てを溶かし、消してしまう、行き止まり。その先には何もない。
『
紋白蝶は、もういない……
『
本当は解ってる。世界は広いんだって。まだ、他に何か美しいものがあるかもしれない。
『
だが、それがどうしたというのだ。……この心に空いた穴はどうすればいい。迷いの森の中枢の様に戻って来るこの場所から出るには、どうすればいい?
『
振り向く、白煙が吸いつくように後ろから迫って来る。壊れた敵の機影が見える。
『ごめん、結衣……』
迫るミサイルが怪しく光る。それが迫り、機体を構成する薄っぺらい合金の板の向こう側で閃光を放つ。
『ごめん……ね……』
大きな衝撃、の幻。
紋白蝶は、死んだ。
私の繭は、割れない。
夢は覚める。私は狭苦しい天井のアクリルを押しのけて地面に落下する。冷たくも暖かくもない木の地面。暗がりに慣れた私は遥か彼方の壁の時計から、朝がもう近いことを察した。
まだ太陽は見えない。紋白蝶は、もう居ない。
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