モンシロチョウが墜ちた後で

森本 有樹

#0 紋白蝶が墜ちた日


warning !警告! warning !警告! Pieris1 !ピエリス1 hostile敵機 six oclock !6時!

 操縦桿を引く。プラスチック特有のぎーっという音がして、操縦桿が掌に倒れる。

Shitしまった!! Pieris2ピエリス2 De-louse 後ろを落として!! readyやれる? ?』

 そうだ、ここは、繭だ。私は中の蛹で。ドロドロになって、蝶になる夢を見ている。

Negativeネガティブ! ! too closer近すぎる! ! 』

いや違う。ここは胃だ。

Roger分かった。 ! I avoidance躱す! !』

全てを溶かし、消してしまう、行き止まり。その先には何もない。

Completed躱した。! FOX2ミサイル発射 !』

紋白蝶は、もういない……

Gun`s Hitガン、ヒット!! shut dowよし、いや、……?! waitまて…… !』

 本当は解ってる。世界は広いんだって。まだ、他に何か美しいものがあるかもしれない。

that moveあの動き…………that's not broken !奴のシステムは生きている!

 だが、それがどうしたというのだ。……この心に空いた穴はどうすればいい。迷いの森の中枢の様に戻って来るこの場所から出るには、どうすればいい?

Pieris1 avoid回避しろ! ! Missileオフボ with Hi Aspect アで撃ってくる! !』

 振り向く、白煙が吸いつくように後ろから迫って来る。壊れた敵の機影が見える。

『ごめん、結衣……』

 迫るミサイルが怪しく光る。それが迫り、機体を構成する薄っぺらい合金の板の向こう側で閃光を放つ。

『ごめん……ね……』

 大きな衝撃、の幻。

 紋白蝶は、死んだ。

 私の繭は、割れない。

 夢は覚める。私は狭苦しい天井のアクリルを押しのけて地面に落下する。冷たくも暖かくもない木の地面。暗がりに慣れた私は遥か彼方の壁の時計から、朝がもう近いことを察した。

 まだ太陽は見えない。紋白蝶は、もう居ない。

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