攻勢の嵐に潜みし敵を穿つ一筋の影 ストームシャドウ
SCALP-EG、またの名をストームシャドウはフランスとイギリスで2002年から運用されている巡航ミサイルです。
筆者が若ハゲでSCALP(スカルプ)って聞くと弱っていくので、以降はストームシャドウと表記します。カッコいいし。ないてねーし
ストームシャドウはジェットエンジンで飛行します。一般的な巡航ミサイルと同じです。
450kgの弾頭を備えており、通常の爆弾並の火力があります。
射程は、本国仕様で560km、輸出仕様で250km以上であり、ウクライナに供与されるのは輸出仕様と思われます。
地上20〜30mを時速1000kmほどで飛行します。
射程の短い巡航ミサイルで、有名なトマホークと比べると10分の1以下、ロシアがよく使うKh-55と比べても8〜10分の1です。
一方で速度に優れ、トマホークもKh-55もマッハ0.8以下なのに対し、ストームシャドウはマッハ0.95まで出せます。
マッハ0.95は上空を飛んだ時の値ですが、それはトマホークやKh-55のマッハ0.8も同じ。
低空ではストームシャドウのマッハ0.8に対し、トマホークは数値不明なものの明らかにそれ以下、Kh-55に至ってはマッハ0.5程度まで下がります。
ともするとリニアモーターカーに抜かれかねない巡航ミサイルが存在する中、低空でも時速1000kmを維持できるストームシャドウは高速な巡航ミサイルと言えます。
また飛行高度も低く、撃墜の難しい巡航ミサイルです。
ステルスミサイルではないのですが、先端が尖っているためレーダーの反射は多少なりとも抑えられます。
誘導方法を四種類持ち、西側製兵器でお馴染みの慣性航法誘導(要はスマホの傾きセンサーのすごいやつ)とGPSに加え、地形プロファイルマッチング、赤外線画像誘導です。
地形プロファイルマッチングとは、先に地形データを読み込ませておき、カメラやレーダーなどでミサイル周囲の地形を把握、読み込んだデータと照合して現在地を知る誘導方法です。
発射は航空機か艦艇から行われます。
ウクライナ軍には大型艦艇がないため、戦闘機からの発射になるでしょう。
ストームシャドウは迎撃難易度の高い巡航ミサイルと言えます。
しかし火力面においても、優れた性能を発揮します。
弾頭の大きさは他の巡航ミサイルと比べて特別大きいわけではありません。
しかし、王室工廠多段徹甲榴弾頭(Google意訳翻訳)、通称ブローチ弾頭を備えています。
ブローチ弾頭は、要は二重になっている弾頭で、一段目が土やコンクリートを貫通し、二段目で目標に打撃を与えるものです。
この弾頭により、強固なコンクリート製の建物やバンカー、地下司令部などへの攻撃を可能としています。
また、対地だけではなく対艦攻撃もできるので、敵海上戦力に打撃を与えることも可能です。
目標の設定は発射前に行う必要があり、発射後に変更することはできません。
ストームシャドウは目標に近づくと上昇し、再度機首を下げて補足します。
こうした機動はホップアップと言います。命中率を上げ、機関砲を避けるのに役立ちますが、高度が上がるのでミサイルなどに補足されやすくなります。
ホップアップ中、先端のカバーが外れて赤外線画像誘導に移ります。
赤外線画像は赤外線の情報を画像として認識するので、目標の細かい選別が可能となります。結果、狙った目標を正確に攻撃することができます。
赤外線画像誘導なので、移動目標でも誘導は可能です。当たるのか、そもそも移動できるような目標に撃つかは別です。
誘導装置の性格上、妨害にとても強く、ありとあらゆる電子戦システムを突破することができます。
赤外線画像で得られたデータから民間人の巻き添え確率が高いと判断された場合、ミサイルは事前に設定された墜落ポイントへ向きを変え、墜落します。
ストームシャドウは高性能な巡航ミサイルです。
しかし、巡航ミサイルなりの弱点があります。
まず、攻撃開始から実際の着弾まで時間がかかる点です。
長い距離を低空で移動するため目標を補足し続けることはできず、低速で移動するため時間がかかります。
よって、移動目標に撃った場合、到達前に補足範囲外へ移動されてしまい当たらない可能性があります。
接近に気づいて慌てて逃げ出そうとする目標は追えるかもしれませんが、不得意なことに変わりはありません。
通常の対地ミサイルに比べて遅いので、補足ができれば撃墜は容易です。
ウクライナの戦争では多数のロシア軍巡航ミサイルが、歩兵の対空ミサイルに撃墜されています。
ストームシャドウも同様に、対空ミサイルの上を飛んでしまえば撃墜されるでしょう。
補足が難しいのであって、撃墜は簡単なのです。
一発が高価なので、数を投入することは難しいでしょう。
約1.2億円、数発で戦車が買えてしまいます。
こういった特性のため、迎撃回避には多方面から同時に襲撃させることが有効ですが、ストームシャドウは難しいです。
射程が短いので、迂回させると燃料が足りなくなる恐れがあります。
また、航空機から発射するため長距離防空システムを嫌う必要があり、せっかくの射程を活かせないかもしれません。
ストームシャドウの射程は250km以上、長距離防空システムの射程も200km以上。航空優勢が覚束無い今、フルに活かすのは難しいでしょう。
結果、ストームシャドウは嫌がらせ以上の攻撃はできません。
火力も射程も不足しているため、然るべき目標だけを狙っても、相当な消耗率になるでしょう。
ロシアのように発電所や民間施設は狙うべきではありません。
なぜなら、大した効果は無く、民間人に被害が出れば抗戦意識を刺激するからです。
しかし、軍事における嫌がらせというのは、戦局を動かす可能性があります。
有名なハイマースは、ここでいう嫌がらせのための兵器です。敵軍を殲滅するような火力はなく、然るべき目標を狙う必要があります。
それがいかに重要であるか。司令室、詰所、弾薬貯蔵庫、電子戦システム、長距離防空施設、橋……そういった重要施設への攻撃は、影響が全体に波及します。
ストームシャドウはハイマースよりも数が少ないですが、射程は三倍以上あります。弾頭も強力です。
長距離防空システムに邪魔はされるでしょうが、長距離防空システムだって榴弾砲やドローンから逃げる必要があります。
フルスペックで敵国の領土領空に立ち入れないのはどちらも同じです。
射程200kmのロシアの防空システムが前線から100km後方にあれば、ストームシャドウは前線から150km以上後方まで狙えます。
それに、航空機は高速です。突破力が高いので、一時的に航空優勢のない地域へ押し入ることは可能です。
長距離防空の配置や攻撃機の頑張り次第では、250km以上後方の目標も狙えるでしょう。
ロシア軍はもう一度選択を迫られます。重要施設を下げて、困難になる補給や通信を頑張るか。
重要施設は下げずに全体の戦闘力を維持して、高価値目標に攻撃を受け続けるか。
ハイマースの時は前者であり、動員を行う要因になりました。
動員によってロシアの生産能力は落ち、優秀な人材が多数流出し、国内が不安的になりました。
ロシアは不安定な状況から無理やり脱しつつありますが、もし同じことをまたやったら?
ロシアはとても嫌がるでしょう。地獄の選択です。
少数の攻撃事例だけで選択肢を狭め、嫌な選択を強い、敵を弱らせていく。
これがストームシャドウ、もとい巡航ミサイルの役割です。
そして、ストームシャドウは他の巡航ミサイルよりも低空を高速で飛行します。
中長距離のミサイルは補足すらできないでしょう。短距離の防空システムのみが満足に対応できますが、時速1000kmで突入してくるミサイルにどこまで抗えるでしょうか。
リビア内戦では、40発以下という少数のストームシャドウが空軍基地を含む目標に発射され、97%が攻撃を成功させています。
ISISに対しては全てが地下のバンカーを破壊しました。他の戦闘においても、ほぼ撃墜されていません。
流石にロシア軍相手には多数の撃墜例が出るとは思いますが、それでも優秀な結果を残せるでしょう。
ロシア軍はGPSジャマーを用いてハイマースなどを妨害していますが、ストームシャドウには効きません。
ジャミングを受け次第、地形プロファイルマッチングを主とした誘導へ切り替わるからです。
仮に地形プロファイルマッチングすらできなくなっても、慣性航法誘導があります。
精度は落ちますが、ジャミングが届く範囲は限られています。GPSジャミングを受けるとしたら、すでに目標から数十kmまで迫っています。
そして最後は、赤外線画像誘導です。これを妨害するには、大量の熱源で目標を隠すほかありません。
しかしそのような地上装備は、無いのです。一度捉えたら、撃墜されない限り命中するでしょう。
それに、輸出仕様ではなく本国仕様が供与されるとしたら、ロシア軍の被害はより甚大になるでしょう。
ストームシャドウは、十分な数を適切に運用された場合、ロシア軍を混沌と混乱に陥れ、指揮統制・補給機能を低下させ、地下という逃げ場を奪い、破壊することができます。
これが勝利に近づく、更なる一歩となることを期待します。伝説の反撃を、もう一度!
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