コラム:迫
迫
ときたま、一文字で表される兵器があります。
筒
その兵器の実体は、ただの筒です。
それが一体、なんの役に立つのか?疑問に思われるのも当然でしょう。
ただの筒が兵器などと、そんな詐欺みたいな話があるのか。
しかしこの筒は、「戦場の女神」榴弾砲を超える超高密度の火力を発揮し、機動力も高く、安く、軽く、操作も簡単で、歩兵のパートナーとしてどこにでも存在します。
山を超え、市街を超え、壁を超え、塹壕の中に引きこもった敵に火薬と破片の雨を降らせることができます。
この異様な兵器の名前は「迫撃砲」と言います。
迫撃砲は、片側を塞いだ筒です。そこに安定させるための板や、移動のための車輪が付いたりしますが基本は筒です。
空いてる方から砲弾を手で入れ、重力で落として発射薬に点火、入れたところから出ていきます。
砲弾は高角度で飛び上がり、ゆっくりとした速度で上昇。
逆U字のような軌道を描いて落下し、何かに当たるか設定された高度で爆発します。
この特性により、物陰に隠れている敵の頭上へ砲弾をデリバリーできるわけです。
こうした特性は榴弾砲と似ていますが、迫撃砲が違うのは連射能力と、砲弾重量あたりの炸薬量です。
迫撃砲は射撃の方法が簡単なため、榴弾砲の倍かそれ以上の連射能力があります。
発射時の速度が遅いため、砲弾に炸薬を詰めこむことができ、軽いのに高い火力を発揮します。
なので、迫撃砲は特に歩兵や軽装甲車両に対して榴弾砲以上の驚異になり得ます。
また、迫撃砲は簡単な作りなので軽く、口径が60mmや81mmといった小口径のものは歩兵が手で持ち運べます。
120mm以上の重迫撃砲は、分解するか車両で牽引する必要がありますが、榴弾砲より手軽というところは変わりません。
砲弾の初速が遅いため、砲身の厚みを薄くでき、安さと軽さに繋がっています。
また、砲身の寿命が長いという点も特徴です。
軽い、小型、簡単な作りのため、榴弾砲を扱う砲兵よりも低レベルの教育で使えるようになります。
ただ、目標を直接見ないで攻撃することが多いため、与えられた座標に着弾させるにはどうするか?という砲兵の基本的な知識はよく学ぶ必要があります。
砲弾の種類は多様で、爆発して破片を撒き散らす榴弾、夜間に空中で作動して周囲を照らす照明弾、煙幕を焚く煙幕弾などが扱えます。
榴弾砲と同じような弾が扱えるので、対応できる任務が幅広く、歩兵にとって優秀なパートナーです。
では榴弾砲など要らないのでは?と思われるかもしれません。
確かに、迫撃砲に役目を奪われて退役した榴弾砲もありますが、榴弾砲と比べると射程距離や単発の威力で劣ります。
榴弾砲は射程が20〜30km、砲弾によってはその倍以上という長大なリーチを持ちます。
一方、迫撃砲は数km〜十数km程度です。迫撃砲は榴弾砲に補足されれば一方的に叩かれてしまいます。
また、重量あたりの火力には優れますが、一発の火力で榴弾砲に劣ります。
榴弾砲は直撃させれば戦車でも破壊できる火力がありますが、迫撃砲では非常に困難でしょう。
砲弾が高く上がり速度が遅いため、対砲迫レーダーによって位置がバレやすく、短時間での撤収が必要です。
落下速度も遅いため、落下音で攻撃がバレやすく、着弾までに隠れる時間を与えてしまいます。
命中精度も低いため、単発火力で劣るのにバラけた攻撃となります。
破片に当たっただけで死ぬ歩兵や、損傷する軽装甲車両に対しては大きな効果を発揮しますが、装甲車や戦車といった重目標が相手だと効きません。
榴弾砲と比べると運用面でピーキーな性能をしています。
迫撃砲を大量に集めて運用しても使いどころが限られて効率が悪いので、歩兵部隊に広く薄く配備する方が効果的です。(もちろん例外はありますが)
しかし、比較的新しい迫撃砲はその限りではありません。
自走迫撃砲は、装甲車などに迫撃砲と自動装填装置を備え、高速で機動しつつ攻撃時には高い発射速度を最大限活せる迫撃砲です。
最低限の装甲と歩兵を遥かに超える機動力を持つ反面、多くの補給や整備を要するので砲兵部隊に配属されることが多い兵器になっています。
最近は走りながら射撃できる自走迫撃砲も登場しており、実際にそう使うかはともかく、それだけの精度と運用の幅の広さがあることの証明になっています。
迫撃砲は誘導砲弾を使用することで、戦車はともかく装甲車程度なら有効な攻撃を行えるようになります。
当然弾代は高くつくのですが、精密攻撃で確実に仕留められるので、迫撃砲の精度が低いというデメリットを消してくれます。
ロシアでは静音迫撃砲があり、これは砲弾が着弾するまで飛来する音が聞こえないという砲弾を扱えます。
これにより、初撃の効果を高めています。
迫撃砲はただの筒ですが、常に発展し続けています。
ウクライナにも、様々な発展を遂げた先にある、多様な迫撃砲が供与されています。
今後どのような迫撃砲が生まれ、ウクライナにはどのような迫撃砲が供与されていくのか、見ていきたいところです。
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