最強の戦車を目指して レオパルト2 前編
レオパルト2は1979年からドイツで運用されている主力戦車です。
長年にわたって様々な改修が行われており、どの時代においても最高クラスの戦車であり続けている戦車として有名です。
※この先、装甲厚や貫通力の数字が出てきますが、多くが機密情報であり推測に基づくものです。分かりやすさ・読みやすさを重視して細かい数字でも断言していますが、推測が正しいという仮定の下で行っています。
冷戦時代、急速に強大化するソ連の脅威に対し、西ドイツは強い危機感を抱いていました。
ソ連の機甲部隊の数は圧倒的であり、核を使わずして止めることはほぼ不可能であり、自国の戦車は質でも劣っていたからです。
西ドイツはアメリカと戦車を共同開発しますが、欲しい能力や主義主張が違ったために断念。
ドイツは共同開発に用いた戦車をたたき台に、新しい戦車を作り上げます。
それが、レオパルト2です。
当時最高クラスの火力、防御力、機動力を備えた、ソ連戦車に勝てる戦車であり、最強の戦車でもありました。
口径120mmの主砲は強力で、厚い装甲と最大70km/hの機動力を誇ります。
攻防走がバランスよく、高次元にまとまっている主力戦車らしい主力戦車です。
レオパルト2の最初となるのがA0型です。
当時は最強クラスでしたが、時代の流れというのは恐ろしいもので、現在の基準から見ればザコの一言です。
120mm砲は現在でも使われているものですが、まだ砲弾が低性能でした。
レオパルト2A0の主砲弾(APFSDS)は約53cmの鉄板を貫通できる能力があり、距離2kmでも47cm程度の貫通力を残します。
もう一つの主砲弾(HEAT)は60~70cmの貫通力がありましたが、現代戦車の複合装甲はHEATに対して強いので、APFSDSより優れているとは言いにくいです。
装甲は複合装甲で、対APFSDSで55cm、対HEATで80cmほどありました。
当時としてはかなり厚いですが、砲塔正面や車体上部でしかこのレベルの厚さは得られず、他の戦車同様に車体下部や側面などが弱点になります。
また、注意したいのは「最大」であって全体が同じ厚さの防御力ではない事です。
砲塔正面でも、平均を取ればもっと数値は落ちてしまいます。
これは、現在のロシア軍でよく運用されるT-72B(1985年製)と比較すると貫通力では負けていませんが、装甲では15cm近く負けています。
なお、ウクライナ軍が例によってコンタークト5をつけた場合、装甲は上回ります。
機動力は高く、強力なエンジンと優れた足回りにより時速70km/hで走ることができました。
重量もまだ55t程度であり、軽快に走れたと思います。
電子機器はソ連の戦車よりも一段優れており、この面で優位に立てたことは間違いありません。
レオパルト2A1では弾薬ラックと給油口、2A2では主に電子機器の改良、2A3ではラジオと弾薬ハッチの改良といった、小規模な変更にとどまります。
これら四種類の初期型レオパルト2は、ドイツのものは全てレオパルト2A4に置き換えられました。
レオパルト2A4は最も多く使われているレオパルト2であり、かなり大規模な改修が施されています。
自動消火システム、新砲弾、新しい装甲を備えたレオパルト2A4は、それまでに比べて一段高い戦闘力を持ちます。
新砲弾の名前はDM43。距離2kmで約60cmの装甲を貫き、爆発反応装甲で威力を削がれにくい砲弾です。
10cm近く貫通力が向上しているということですね。
またDM11という榴弾も扱えるようになり、時限信管を設定することで、空中で爆発させられるようになります。
これにより、歩兵や軽装甲の車両、戦闘ヘリへの対応能力が上がりました。
防御力は対APFSDSで70cm、対HEATで130cmほどにまで向上します。
それより弱い車体正面も、対APFSDSで60cm、対HEATで70cmまで改善されます。
ただ、平均では対APFSDSで34cm程度であることが、スウェーデンの時期主力戦車トライアルにて判明しています。
これは全ての戦車の弱点である防楯(ぼうじゅん・砲身の根元にある金属の塊)部分を含み、複合装甲の入った面積を多く見ると、より厚い数値が出ます。
また、レオパルト2A4は改修で能力を引き上げることができ、改修に必要なメーカーサポートが受けやすく、中古品も多いため購入しやすいと「製品」としてもいい戦車です。
続くレオパルト2A5は、車体や砲塔の装甲を追加し、車体側面に垂らした装甲である「サイドスカート」の前方3分の1を厚いものに変えています。
電子機器も更新され、車長はより効率的に外を監視することができるようになりました。
追加された装甲はショト装甲と呼ばれ、横から見ると矢じり型をしています。
ショト装甲の中は二枚の装甲板が入っているだけであり、まるでハリボテです(いわゆる中空装甲)。
しかし装甲の間が空くことにより、HEATの貫通力を大幅に下げ、APFSDSに対しても強力な防御力を誇るようになります。
スウェーデンの次期戦車トライアルによると、砲塔正面の対APFSDS厚さは平均で53cm。実際に射撃した数値では80cmを超え、かつその厚さが砲塔前面のほぼ全体に施されています。
対HEATでは170cm程にもなり、優秀すぎるくらいの防御力を叩き出しています。
車体正面も、対APFSDSで67cm、対HEATで125cm程と硬くなり、すきが少ない戦車になりました。
新砲弾も扱えるようになります。砲弾の名前は「DM53」。距離2kmで65cmの貫通力を有します。
また、ロシア戦車によく付いている爆発反応装甲(ERA)を作動させない仕組みを持ち、コンタークト1、コンタークト5を無力化します。
ただし、より新しいレリークトは作動してしまいます。それでも貫通するとされていますが、事実だとしても貫通力が低下することによる威力の低下などの影響は考えるべきでしょう。
レオパルト2A5をロシア戦車と比べると、T-72Bを圧倒しています。
T-72Bの改良型であるT-72B3に対しても、攻撃力で優位、防御力は「車体正面で」同等です。運と戦術が悪くない限り、負けないでしょう。
T-72B3以上の戦車は今のロシア軍には少ないですが、それでもある程度まとまった数があるT-72B3Mがレオパルト2A5に匹敵します。
攻撃力は10cm上回り、使い捨て装甲のERA込みなら30cmほど上です。ただし、ERAを抜くと20cm以上下回ります。
そして、ウクライナ軍がコンタークト5をつけると、レオパルト2A5はT-72B3Mと同等の装甲を手に入れられます。
攻撃力はいかんともし難いですが、DM53の特性であるERA無力化を考えると十分でしょう。
レオパルト2A6は砲身を伸ばし、55口径砲(L55)とした改良型です。
L55とDM53/63(DM63は極端な温度への適応や発射薬が燃えた時のカスを少なくした砲弾。基本性能はDM53と同じ)の組み合わせは強力で、距離2kmで76cmの貫通力を誇ります。
これまでのレオパルト2の主砲であった44口径砲(L44)に比べ、同じ砲弾でも貫通力を10cmも伸ばすことに成功しています。
弾速もマッハ4.5からマッハ5へと高速になり、当てやすくなりました。
一方で砲身の長さは長くなってしまいました。
砲身の長さを知るには、口径と使っている砲弾の直径をかけ合わせれば簡単に出てきます。
レオパルト2は120mm砲弾を使っており、L44であれば120×44で約5.3mです。
L55は120×55となり、6.6mです。
この1.3mの差は、狭い場所の多い市街地戦で不利になります。
平和維持活動などに使われることを前提としたレオパルト2 PSOはL44砲に戻し、偵察能力やリモート機関銃を備えたものです。
監視能力も強化されており、横や後ろから攻撃されることも考えた装甲が追加されています。
非殺傷兵器を搭載することも可能です。
レオパルト2A6Mは地雷対策に力を入れており、外側だけでなく内部も強固になりました。
レオパルト2A7は正規の車両なのですが、改造というか、試験要素の強いレオパルト2です。
市街地戦に適応することよりも、戦闘力を高めることを重視していて、装甲がさらに厚くなっています。
車体は対APFSDSで62cm程度ですが、砲塔正面は対APFSDSで100cmと推測されています。「ありとあらゆる砲弾を弾く」に相応しい装甲です。
砲弾はDM73を扱えるようになり、貫通力は80cmを超えます。
他にも赤外線ステルスやネットワークシステムの強化、暗視装置の更新などが行われています。
レオパルト2A7+は、対テロ戦争のような「低強度紛争」から、正規軍がぶつかりあう「高強度紛争」まで広く活躍できるよう設計されました。
壊れた部分を簡単に交換することができるモジュール装甲に身を包み、戦車の弱点であった側背面も旧世代の対戦車火器に対抗できます。
相手によって最適な爆発を選べるプログラム榴弾を扱うことができ、砲塔上部の機関銃はリモート銃塔になりました。
他にも足回りや周辺の状況を確認するための電子機器などにも改良が加えられています。
扱える砲弾はDM73ですが(現在はDM73が最新の砲弾)KE2020 Neoと呼ばれる砲弾の開発も進んでおり、こちらは貫通力90cmを発揮する予定です。
最新のレオパルト2A7Vは、全体的な改善が行われています。火力、防御力、機動力その全てが向上し、ネットワーク能力も最新式に置き換わりました。
これはもう詳細不明なのですが、レオパルト2の未来を感じさせてくれる車両です。
レオパルト2は最強と呼ぶに相応しい、かつ、戦車らしい戦車です。
高火力、重防御、大馬力の全部盛りは地上最強の兵器としてあるべき姿であり、ファンが多いのも頷けます。
しかし、レオパルト2だけが突出した戦車なのでしょうか?
違和感を覚えませんか?他の国だって高い技術レベルを持ち、同じように努力しているはずです。にもかかわらず、レオパルト2がこれだけ長い間「最強」でいられるのはどういう事でしょうか。
前提がおかしいのです。レオパルト2は最強では無い。そう言えます。
確かに、レオパルト2の火力と防御力は目を見張るものがあります。しかし戦車とはそれだけではありません。
レオパルト2は機動力の高い戦車でしたが、足回りやエンジンの改良はあまりにも少なく、改修の度に機動力を落としてきました。
重量は元の55tから、66.5tに増加。レオパルト2A6でも62.3tです。
加速に優れた戦車は、その勢いを並にまで落とします。
重量増加は足回りを痛め、故障を増やすことでしょう。
ウクライナの泥濘を大馬力で突破できれば良いですが、重量を誤魔化せなければ泥の中でもがき苦しむことになります。
また、重量問題は橋や地形を選ぶため、長距離での機動力を低下させます。
日本がレオパルト2を羨みながらも、より軽量な自国製の戦車にこだわった理由の一つです。
一方、ウクライナの泥濘も夏にはなりを潜めます。
泥はただの平原となり、レオパルト2の戦闘力を最大限発揮できるでしょう。
レオパルト2は重さだけではなく大きさも問題です。
車高は低く抑えられていますが、それでもソ連・ロシア系の戦車と比べると背が高いです。
背の高さは見つかりやすさと被弾率に直結します。
いくら防御力に優れるレオパルト2とはいえ、側背面や上面は薄く、攻撃されれば破壊される可能性が高いことには変わりません。
また、弾薬が乗員と完全に分離されていない点は、レオパルト2の生存性に大きなケチをつけています。
大きくは無いですが、車体に弾薬庫が設置されています。これが誘爆して砲塔が吹き飛んだ事例が存在します。
2016年のトルコ軍はシリアでレオパルト2A4を投入しましたが、地雷や対戦車ミサイルにより大きな損害を被っています。
そもそも2A4が旧式化した戦車であることは考慮すべきですが、レオパルト2はシリーズを通して設計が大きく変わっておらず、ウクライナに供与されるレオパルト2も同じ運命を辿る可能性があります。
特に地雷に対しては、レオパルト2A6Mからしか対応しておらず、それ以下のレオパルト2は脆弱です。
電子機器は優れていますが、ネットワーク能力に関しては特段優れているとは言えません。ソ連・ロシア系戦車よりは高いと思われますが、最強を名乗るには低いレベルに留まっています。
レオパルト2には自動装填装置(オートローダー)がありません。
これには、戦車の乗員が増えるので前線での整備が楽、装填関係が故障しないといったメリットもありますが、デメリットも多いです。
停止時に短時間撃つならば、装填手にはメリットしかありません。高練度であれば自動装填装置を超える速度で装填できます。
しかし、長時間撃ち続けたり走行時に射撃する場合には自動装填装置の方がずっと早く、疲れずに装填できます。
また、装填手がいるぶん戦車が大きくなり、装甲の範囲が増え、重くなる要因になっています。
総じてレオパルト2は、分かりやすい部分は非常に強いものの、表に出て来にくい細かな部分は比較的弱い、という(大ざっぱな)評価ができます。
良くも悪くも重戦車的な主力戦車であり、良くも悪くもドイツらしい兵器です。
現在(2023/1/28)、ウクライナに供与されるレオパルトはレオパルト2A4、2A6と2A5系列となっています。
最も数が多いのは2A4で、防御力・攻撃力・電子機器などに不安がつきまといます。一方で機動力は悪くないでしょう。
次に多いのが2A6で、特に防御力に定評がありますが、かなり重いため機動力に不安があります。また、2A6Mでない場合は2A4同様に地雷が不安要素となります。
2A5系列のStrv.122は装甲が厚くなった2A5です。攻防共に優れていますが、やはり機動力が不安です。
何より、レオパルト2は戦車であって、それを越えた何かではありません。
他の戦車と同じく、側背面と上面、下面は弱点です。2A4は陳腐化が激しく、運用には慎重を要するでしょう。
レオパルト2がいれば陣地を突破できるというわけではなく、これまで通り様々な兵器を組み合わせて能力を活かせる環境を作ってやる必要があります。
いかなレオパルト2と言えど、無闇に突っ込めば消耗して終わりです。
ウクライナ軍には上手く運用してもらいたいですね。私は、できると思っています。ウクライナ軍は適応してきました。
補給の問題はありますが、西側兵器を供与する時に起きる全般的な問題であって、レオパルト2に限りません。この辺りをクリアしてきた実績が、ウクライナ軍にはあります。
補給・整備関係は地獄を見ているとは思いますが、頑張るしかないですね。
レオパルト2も限界に近づいているとされます。
現在はより高い火力、より厚い装甲、そして軽量化、自動装填装置、さらにドローンの搭載などを視野に入れた次世代戦車、KF-51パンターの開発が始まっています。
最強格の一つであり、最強を目指してひた走り続けてきたレオパルト2はウクライナでどこまで、どのように活躍できるでしょうか。
英雄的活躍を戦史に刻むことを、望みます。
2023/7/2
大量のコンタークト-1ERAを装着したレオパルト2A4が確認されました。より性能の高いコンタークト-5でないことが悔やまれますが、仕方ないでしょう。
砲塔の防御力が、最大で対APFSDSは70cm、対HEATで180cm以上と、対HEATのみですが大きく向上しています。
これは、対HEATはレオパルト2A6と同等の防御力を手に入れたと言えます。
ERAは使い捨てですが、同じところに砲弾やミサイルが当たることはそうそうありません。
また、動画のレオパルト2A4は弱点であった防楯の手前にゴム板と思われるものを装着しており、空間装甲の代わりにしていると思われます。
一方で車体については素のままです。あれだけ平たいウクライナの地でも、やっぱり攻撃は砲塔に集中するのだろうか……と推測がはかどります。
https://twitter.com/clashreport/status/1675110423064870915
2023/8/11
レオパルト2A4がDM53を扱っている画像が確認されました。大きな改造なく扱えるみたいです。ただ、この改良作業には数か月ほどかかっていたのではないかと予想されています。
貫通力は5cm向上、ERA無効化という強力な特性が付与されました。ウクライナの一部のレオパルト2A4は、2A5並みの攻撃力と防御力を手にしているようです
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