世界の警察であり続けるために M1126 ストライカー

ストライカー装甲車は2002年からアメリカで運用されている装甲車です。

装甲車の中でも兵員輸送に特化した、装甲兵員輸送車というタイプになります。


1990年代のアメリカ軍は、強大なソ連の崩壊による軍事予算削減と対テロ戦争の必要性という相反する要求に悩んでいました。


M2ブラッドレーのような強力な装甲車は重たく、展開に時間がかかります。

土地勘を利用して神出鬼没の攻撃を仕掛けてくるテロ相手の戦争では、欲しいときにいないという事態が多発します。


一方、小型で展開力と取り回しに優れるハンヴィーのような装甲車では薄すぎます。

現代のテロ組織は重機関銃を普通に撃ってくるので、それなりの装甲は欲しいのです。


アメリカはこのギャップを埋める装甲車を開発することになり、いくつかの案を出しながら細かな仕様を決めていくことになります。

また、いろんな状況に対応できるよう、(比較的)簡単に武装や装甲を付け替えられることも求められました。


これは暫定装甲車両と呼ばれ、無人化すら視野に入れた開発が進められていきます。

柔軟、迅速、多様性。それがこの装甲車の骨子です。


残念ながら無人化は断念されましたが、結果として様々な使い方ができるストライカーファミリーが出来上がりました。


ストライカーは全周が重機関銃に耐える装甲、タイヤによる高い機動力、状況に合わせて変えられる火力を持ちます。

それでいながら、9人の兵士を乗せて運ぶことができます。大きな車体のおかげですね。


エンジンは民間トラックと同じものを使用しているため、整備兵は非常に少ない訓練時間で扱えるようになります。

また部品も安く、ストライカー自身の拡張性によりエンジンの変更も簡単です。


武装は重機関銃から、リモコン銃塔(CROWS)、グレネードランチャー、機関砲、105mm戦車砲まで様々です。

機関砲以上の砲は、現場で取り付けることはできないものの、車体は同じものを使用できます。


あとこれは、ストライカーというよりはCROWSが優れているのですが、対空ミサイルであるスティンガーや対戦車ミサイルのジャベリンも扱うことができ、簡単な改造で高い火力を発揮できるようになります。


攻撃システムは電子化され、軍のインターネットにつながっています。

フレンドリーファイア(誤射)を防ぎ、電子機器が視える範囲内であれば味方と敵の両方を追跡することができます。


また車長は、車外に顔を出さなくても360°の視界を得ることができ、安全に周囲を見渡せます。

ストライカーの暗視装置は(この手の装甲車としては)優秀で、2.4km先まで見ることができます。兵士の顔につけるものが100m先なので、ストライカーが後ろにいるだけで歩兵の夜間戦闘力は大幅に向上します。


基本の防御力は重機関銃に耐える程度です。

しかしストライカーは拡張性が高く、様々な装甲を追加することができます。


ある装甲パッケージでは、対戦車榴弾(HEAT)を防ぐための金網状装甲、スラットアーマーを搭載できます。

この装甲の防御成功率は6〜8割と運試し的なところがありますが、軽く済むのが特徴です。


同パッケージには爆発反応装甲、車体への複合装甲、地雷に対応する装甲スカート(タイヤまわりの装甲)、ハッチ(出入口)周りの装甲が入っています。

これらを搭載することで、歩兵が放つ対戦車無反動砲を軽減、または耐えることが出来ます。


スラットアーマーを取り外し、爆発反応装甲をさらに盛ることもできます。これは最近の改修で実現しました。同等の重さでより確実な防御を期待できます。

自動消火システムや地雷防御の充実などにより、装甲車の中では高い生存性があります。


2016年には更なる改良が施されています。

一部のストライカーには、赤外線暗視装置やレーダーに発見されにくくなるカモフラージュシステムが追加されました。


最高速度は100km/h。しかしストライカーの機動力の真価は、そこではありません。

軽量なため中型の輸送機で移動でき、世界中ありとあらゆる場所へ96時間以内に到着できます。


整備や補給、医療、工兵といった様々な兵を有する師団クラスの大きさになっても、120時間以内に到着できる能力があります。

さらに、推奨はされていませんが空中投下も可能であり、これを利用した場合はさらに早い速度で展開できます。


ただし、追加の装甲を搭載したままでは重くなりすぎるため、それは後から運ぶ必要があります。

また、輸送機で運ぶことは可能ですが、ヘリで運ぶことは難しいため、その点はハンヴィーのような機動車には譲ります。


ストライカーは車輪の空気圧を全て変えることができるため、地形適応能力が高いです。最大2mの壁を乗り越えることが出来ます。

また攻撃で穴が空いても一定時間は空気圧を維持できるため、その場から離脱することができます。


タイヤなのでメンテナンスの負担が軽く、部隊としての移動速度も速いです。

速度と防御力を両立している特性は使い勝手がよく、アメリカはストライカーのみで構成される部隊、ストライカー旅団をつくったほどです。


ストライカーは地雷に対応するため車高が高くなっており、比較的横転しやすい車両です。

ただしABS付きブレーキにより高速走行時の横転を防ぐ努力がなされています。

また水陸両用車ではありませんが、水密車体によって上部ハッチ以下の水深であれば川を渡ることができます。


ストライカーの一番の特徴は、種類の豊富さです。


元となるストライカーは、M1126です。

9名の歩兵と、機関銃、重機関銃、グレネードランチャーのどれかを取り付けられます。武器はCROWSに換装することも可能です。


M1128MGSは、105mm戦車砲を搭載したストライカーです。機動砲システムの英語の頭文字を取って、MGSです。決して某ステルスゲームの名前では無い。

MGSは車体の上に無人砲塔を搭載しています。砲弾は、車体に追加された砲弾ラックと自動装填装置によって運ばれます。


発射速度は6秒に1発と十分で、口径は小さいですが砲弾が新しいためそれなりの貫通力を持ちます。

MGSが使える最新砲弾のM900A1は、距離2kmで57cmにも達します。


正面から戦車と戦うのは難しいですが、側面からなら安定して貫通できる能力です。

ただし18発しか搭載できず、継戦能力は高くありません。


砲弾は他にも、HEAT(ヒート)とHESH(ヘッシュ)、対歩兵用のキャニスター弾が使えます。

ヒートとヘッシュについては過去記事を参照していただきたいのですが、キャニスター弾が何かと言いますと、要は巨大な散弾です。


数千発や数万発といった数の鉄球を内包した105mm砲弾を打ち出すことで、数百メートル以内で撃った方向にいる敵兵を殲滅することができます。

装甲のない車両や家屋にも効果的で、多数の敵兵と遭遇した場合は高い制圧力を発揮します。


M1128は高性能なコンピューターを搭載しているため、エアコンが標準装備されています。

しかし砲を載せるために出入口が狭くなっており、非常時の降車に時間がかかるかもしれません。


装甲には期待しない方がいいでしょう。装甲車であっても、正面から撃ち合うのは避けるべきです。

なにせ重機関銃しか防げないので、機関砲を撃たれたら死が確定します。ただ、無人砲塔なので、砲塔のみを顔出して撃つことで防御力を大きく上げられます。


米軍は2022年にMGSを廃止し、現在は使われない装備となっています。

MGSの自動装填装置は整備が難しく、費用がかかるためです。


M1129MCは、自走迫撃砲です。迫撃砲は射程が短くて酷く山なりに飛びますが、時間あたりの火力に優れます。

上空から砲弾を降らせる戦い方を得意としますが、普通は移動能力に難があります。


MCはストライカーの車体に迫撃砲を載せることで、機動力を上げたものです。

MCの迫撃砲は、榴弾はもちろんのこと精密誘導砲弾、照明弾、赤外線照明弾、煙幕弾、クラスター弾などを扱えます。


M1134ATGMは、対戦車ミサイルを搭載したストライカーです。

TOW対戦車ミサイルを発射することができ、大半のロシアの戦車を正面から撃破可能です。


戦車砲の射程を超えた長距離火力として使われます。遠隔操作もでき、ストライカーが破壊されても重要な人員は逃げることができます。

しかし再装填に時間がかかり、継戦能力も高くは無いことに注意が必要です。


M1135NBC RVは、核化学生物兵器が使われた場合に備えたストライカーです。

汚染を感知し警告すると共に、汚染度マップを作成するために密閉された車内からサンプルを取れるようになっています。


他にも偵察、救急、指揮、前線指揮、工兵車両などが存在します。

また実験的な車両が多数あり、現在もストライカーMEHEL、ストライカーMSL、ストライカーAUDSの3種が開発中です。


MEHELはレーザー兵器車両であり、小型〜中型のドローンを相手にすることを考えられています。

現在はレーザーの出力と発電能力の強化が行われています。


MSLは短距離防空システムです。スティンガー対空ミサイルの他に、対戦車ミサイルのヘルファイア、戦闘機用の対空ミサイルであるAIM-9Xを装備できます。

AUDSは対ドローンシステムで、高度なレーダーと光学センサーで小型のドローンも見つけ、無線を切断しつつ30mm機関砲で破壊できます。

AUDSの機関砲弾は空中で炸裂するか、誘導されることでドローンに対し効果を発揮します。


そして、それぞれの車両には装甲の厚さや種類の違いで複数の仕様に別れており、巨大なファミリーを形成しています。


多様性。ストライカーは多様であり、様々な使い方ができます。

作戦の自由度を上げ、成功率を高めることができます。


現在(2023/1/22)はストライカー装甲車約100両がウクライナに供与されることが決まっており、今後も増えると思われます。

どの車両がどれだけ供与されるかは分かりません。M1126のみかもしれませんし、MGSが多数含まれるかもしれません。


各ストライカーがどのような役割を果たすかについてまで解説するとあまりにも長くなるので控えますが、ストライカーという装甲車はそれだけで多様な能力を持った軍団を形成することができます。


なんでも出来るパッケージとして動くことも、ストライカーばかりでは無いパッケージに組み込まれて何でもできる車両として動くこともできます。


柔軟。ストライカーは柔軟に動けます。どのように配置しても、いくらかの活躍は残すでしょう。


タイヤ式の装甲車なので、泥濘には弱いですが路上を素早く移動できます。

欲しい時に、欲しい場所にあることは良い兵器への第一歩です。


迅速。戦場を駆け回る兵器として、優れたレベルに達しています。


ストライカーは、防御力には期待できません。大口径の機関砲や対戦車ミサイル、戦車砲を防ぐことは難しく、あっという間に破壊されてしまうでしょう。

あくまで装甲兵員輸送車であり、歩兵を素早く安全に移動させる、以上のことを求めるのは(一部を除いて)やめた方がいいです。


しかし堅実に作られており、ストライカーのみで多くのことが完結するのは魅力的です。

これらの性質はウクライナでも発揮されるでしょう。ウクライナ軍の能力を全般的に高めることができます。


レベルの高い装甲兵員輸送車として、活躍してくれることを望みます。

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