新旧と東西のハーフ&ハーフ ShKH vz. 2000ズザナ
ズザナは1998年から運用されているスロバキアの自走榴(りゅう)弾砲です。
榴弾砲、とは大きな砲弾を高く長く飛ばすことに特化した砲です。
射程は30km以上あるものがほとんどで、時間当たりの火力がミサイルやドローンよりも高いのが特徴です。
自走榴弾砲とは榴弾砲を走れるようにしたものであり、大抵は履帯(キャタピラ)式の車体です。
しかしズザナは、大型トラックの荷台に榴弾砲を載せた形をしています。なぜでしょうか。
トラック型、つまりタイヤ式の車両はキャタピラ式の車両に比べて安く作れて、速度が速く、整備もしやすいというメリットがあるからです。
自走榴弾砲の多くが時速50km/h程度の中、ズザナは80km/hで移動できます。
さらにズザナは自動装填装置も備えているため、高速で連射できます。
砲弾が大きいため機関砲のようにはいきませんが、当時の技術レベルを考えると高性能な部類です。
具体的には、10秒に1発という速度になっています。10秒ごとに、20m半径を破壊しつくす砲弾が飛んでくるわけです。
改良型のズザナ2では連射速度が落ちたものの、射程を伸ばしています。
最大速度も10km向上し、より早くて長い砲へと変化しました。
射程と速度に加え、現代的なオプションが一つ追加されています。
それは多弾同時着弾(MRSI)という技術です。
榴弾砲は破壊力の大きな兵器ですが、扱う砲弾が大きいため、どうしても装填に時間がかかります。
初弾は相手が対応できないかもしれませんが、二発目三発目と時間をかけて撃っていると逃げられたり隠れられたりして攻撃力が落ちてしまいます。
そこで、一度に多くの火力を叩き込んで一気に殲滅するのがMRSIです。
一発目は高く撃ちあげて長い距離を飛ばし、以降は徐々に角度を下げて撃ち出すことで同時に複数の砲弾を当てます。
敵に十分近づかないとできないという欠点はありますが、一つの砲で複数集めた時と同じ効果が期待できます。
当然高性能なコンピューターが必要で、ズザナ2は電子機器も高レベルだと言えます。
高性能なズザナですが、扱いの難しい一面もあります。
トラック型の宿命ですが、砲を360°旋回させて撃つことはできず、ズザナは前方60°に留まります。
左右30°という意味です。感覚的にも、結構狭いことが分かると思います。
撃てる角度を射角と言いますが、射角が狭いと移動する目標に対しての射撃が苦手となります。
動かない目標に対しても、車体を動かす手間が増えます。
ズザナは大型のオフロードトラックがベースになっているので、車体が大きいです。
他の自走榴弾砲と比べて数メートル程度の差があり、旋回場所は限られます。
大型で重いのにキャタピラ式ではないため、泥や砂にはハマりやすいでしょう。
草原が無ければ道路上に展開することになりますが、巨体をどれだけ旋回させられるでしょうか。
これまでの自走榴弾砲のような装甲は無いため、近くに砲弾が降ってくれば問答無用で破壊されます。
このように、欠点も多い車両です。
とはいえ最近の榴弾砲はトラック型が増えてきており、みな大方似たような欠点を持っています。
ズザナは大型ゆえの欠点はありますが、自動装填装置を載せる都合上仕方のない大きさと重さです。
最高速度の速さは回避能力の高さとなり、敵を翻弄します。
撃ったら逃げるが今の榴弾砲の戦い方であり、ズザナは今の戦い方に良く適応していると言えます。
昔ながらの榴弾砲の色が濃く残ってはいますが、性能は十分です。
旧ソ連の血を受け継いでいるので、ウクライナ兵も扱いやすいでしょう。
ズザナは多数の榴弾砲に混じり、ロシア軍を翻弄し続けています。
2022/11/18現在でも撃破された報告は1両だけです。
回避能力の高さが光る新旧東西の合わせ子は、今後も上手く力を発揮し続けることでしょう。
(追記:ウクライナに供与されているズザナの中にズザナ2が存在していることを確認しました)
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