名誉挽回を狙う飛び出しナイフ スイッチブレード

スイッチブレードはアメリカが2011年から運用を始めた自爆ドローンです。


小型軽量のドローンで、300と600の二つの型があります。300は対人用の低威力弾頭で、600は対戦車弾頭を備えた大型スイッチブレードです。

アメリカなんだから爆撃で解決することもできそうですが、なぜ軍事力世界一の国はこのようなドローンにいち早く手を出したのでしょうか。


アメリカは度重なる対テロ戦争で、幾度となく誤射や巻き添え被害を出し、その地域だけでなく世界的に批判されていました。

第二次世界大戦時ならともかく、現代の国際世論は無関係の市民を殺すことを、例え間違いでも許さなくなったのです。


アメリカ軍は誤射を防ぐため、確認の手順や種類を増やしていきました。

たった数分で完了していた砲撃は最大数時間も待つようになり、たった一度の爆撃に9つも情報を付けて、攻撃後の退避方向まで指定されるようになりました。


これに対しテロリストの足取りは軽く、土地勘もあるのでさっと攻撃したらさっと逃げていきます。

反撃が有効なのはその場だけで、砲撃や爆撃が飛んでくるころには影も形もない……なんてことも。


特に海兵隊は、支援を受けられないことが多くて苦戦を強いられました。

ウクライナ戦争で大活躍のジャベリンも、テロリストに向けて撃つには高価すぎるし威力も大きすぎました。(テロリスト相手には)即応性も悪いと言うオマケつきです。


挙句、そこまでやっても民間人の車を逃げるテロリストと誤解して、民間人に被害を出さないようにと積んできた精密誘導兵器で狙い撃ちするなど、現地との仲は最悪でした。


手順を増やすことでは対応しきれないと(早々に)分かっていたアメリカは、兵器の改良にも乗り出します。

小型の誘導爆弾、刃で切るミサイル、手投げ偵察ドローン……それらの対テロ戦争用ウェポンの一つに、スイッチブレードがありました。


小型ドローンらしく低速で飛べる距離も短くいですが、どうせ入り組んだ地形や市街地の短距離戦で使うのでそれはあまり問題になりません。

筒から斜め上に飛び出す方式で、広くない場所でも使えます。


現場の海兵隊員がお手軽に発射でき、見つけたテロリストを簡単に攻撃、手りゅう弾くらいの火力を前方に集中させるので周りに被害は出ない。

見つけた対象を即座に攻撃できるので、偵察後の攻撃要請というラグが発生しない。

場合によっては自爆し、攻撃を控えることもできます。安いので痛くありません。


対テロ戦争の道具としては有用で、現場から特に不評は無く政治ウケは非常に良いものでした。

特筆すべき高性能な部分はあまりないのですが、安くて気軽に使えるのが良かったのでしょう。

遅いけど偵察しながら誘導できるミサイル、という使われ方をしています。


さて、対テロ戦争で活躍した自爆ドローン、スイッチブレードは「自爆ドローン」という恐ろしい名を戦場にとどろかせ……ませんでした。


ウクライナ軍は正規戦で防衛戦の真っ最中です。

正規戦というのは、正規の国の軍隊を相手にした戦争です。兵士一人とってもその防御力はテロリストと比べ物になりません。数も多いです。

防衛戦では、民間人を気にする必要はほとんどありません。攻撃する対象は通常それとわかる格好をしており、周りに民間人はいないからです。


スイッチブレードは対テロ戦争用に、短射程で低威力、代わりに気軽で小型に作られています。

それが腐っても軍事大国のロシア相手に効くか?というとかなり微妙でしょう。


実際、ウクライナからは低威力である点を指摘されており、手りゅう弾を積んだ商用ドローンの方が使い勝手が良いようです。

一人殺せるか殺せないかで、攻撃すれば周りの兵士は逃げてしまう。当然装甲車は壊せない。届く距離は十数キロで、発射してることが分かれば砲弾が飛んでくるかもしれない。


射程に関しては商用ドローンも同じなのですが(だからロシア砲兵が元気な初期はあまり使われなかった)、火力があるだけマシということなのでしょう。

とにかく、対ロシアに使うには相性が悪すぎたのです。


さて、微妙な結果で終わってしまったスイッチブレード300ですが、現在はより高火力の600が供与予定となっています。

もしかしたら2022/11/15現在では届いているかもしれません。


スイッチブレード600は、重さが2.5kgから15kgまで増えている代わりに、射程は80km、弾頭は対戦車ミサイル「ジャベリン」のものが流用されています。

ジャベリンは初戦で次々にロシア軍の戦車を撃破したミサイルであり、同等の火力を持つスイッチブレード600は火力に困ることはないでしょう。

ロシア軍の榴弾砲の射程外から一方的に攻撃できる点も魅力です。


記事を書いている2022/11/15では、似たドローンであるロシア軍のランセットが戦果を挙げており、ウクライナ軍の貴重な重装備が次々に撃破されています。

戦況に与える効果は少ないものの、地味に痛い攻撃であり、ランセット同じようなドローンを持つことはある種の反撃能力を持つと見ることもできます。


スイッチブレード600は、恐らく良い評価を受けるでしょう。ロシア軍の貴重な装備や拠点を的確に破壊する、そんなドローンになれると思われます。

ランセットが活躍しているのです、スイッチブレード600にできない道理はありません。


ロシア軍の重要施設が攻撃されたことへの隠語である「タバコの不始末」にスイッチブレード600が追加される日は、そう遠くないでしょう。

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