ウクライナで戦う兵器たち

扶桑のイーグル

よく出てくる基本的な用語の解説

戦車

地上の王、とかそれに近い表現をされる兵器。火力・防御力・機動力を高いレベルで兼ね備えた、最強の地上兵器。しかし強すぎるあまり、天敵となる対戦車兵器が次々に開発され、あまり強く見えない。なんなら条件次第では歩兵に負ける(ウクライナ戦争初期がいい例)ので、割に合わない兵器と言われることも多い。

それでも相手の防衛線を突破する役としての価値は絶対的で、後ろに回り込むなどして混乱させ、上手く使えば戦線を大きく押し上げることができる(ロシアの最初期侵攻、ウクライナのハルキウ反攻がいい例)

ドローンに負け歩兵に負け、あれに負けたこれに負けたと言われるが、時代相応に強化された戦車はやっぱり強い。

チェスのキングがポーンにやられても、キングが弱いことにはならないのと同じ。


装甲車

その名の通り、装甲をまとった車。種類はとても多い。

歩兵を乗せて運ぶ、歩兵を運びながら戦闘する、戦車の補助など、目的に合わせて基本となる形が分かれている。

その名前からよく重装甲だと勘違いされるが、戦車に比べれば頼りない。軽さを重視したソ連系の装甲車にいたっては、十分の一以下の防御力しかない。

火力も劣ることが多いが、戦車よりも軽くて安く、扱いやすい。戦車では手の届かない、痒いところに効く戦力。

戦車みたいな形の装甲車も多く、見分けるのは大変。でも、なんか砲が小さくて細いなと思ったら大体装甲車です。


榴弾砲

りゅう弾砲とも。おっきい砲弾を高く長く飛ばすための兵器。

戦車が王ならこちらは女神。圧倒的な火力で辺り一面を耕してしまう。戦車のように相手の防衛線を食い破る力は無いけど、防衛線を(文字通り)破壊することはできる。

火力重視であり、機動力や防御力は並以下。しかし最近は、撃つと相手のりゅう弾砲がすぐに反撃してくるため、機動力をあげて逃げられるようにしている。りゅう弾砲が発射するりゅう弾は、戦車の装甲を叩き割れるので防御力をあげる意味はあまりない。

最近は誘導砲弾を使えるようになったので、装甲を厚くする意味がますます無くなっている。

陸軍火力の主力であり、基本。最強が主力になるとは限らないのだ。


防空網

航空機に向かって撃つミサイルを中心に作られる、空の防衛線。

相手の航空機を警戒させて寄せ付けなくしたり、追い払ったりするのが主な仕事。基本、同じ規模の航空戦力には勝てない。

戦闘機に比べれば安いので、数と種類をそろえて迎え撃つ。防空網は何重にも重ねるのが基本で、超高空から超低空までぶ厚い「傘」を提供する。

それでも航空機の速度は速く、突破力がべらぼうに高いので、攻撃の全てを防ぐのは難しい。

なお、防空網で成り立たせる航空優勢(後述参照)のことを航空拒否という。この戦争では双方の航空拒否が広範囲で成立し、泥沼の陸上戦が展開されることになった。


MANPADS

マンパッヅ。防空網を形成するミサイルの一つ。歩兵が肩に担いで発射するものを指す。

大きさや重さが制限される関係上、射程や威力に不安があるミサイルが多い。一方でレーダー警報装置や偵察機器にはバレにくく、ステルス性の高いミサイルでもある。

戦闘機に対して当てるのは難しく、「そこにいる」ことが重要なミサイル。ヘリやドローンには有効な場合が多い。

厳密にいうと歩兵が運用するミサイルの総称なので、肩撃ちできなくてもマンパッヅとして扱われるミサイルもある。


ロケット弾

発射すると燃料を燃やしながら飛んでいく砲弾。燃料が入っているので細長く、りゅう弾よりも遠くに飛ばせる。

たくさん入ったランチャーから連続発射することで高い火力を出せる。

最近は誘導できるロケット弾がある。ミサイルと何が違うのかは、専門家でもよく分からない。多分大人の事情。


ミサイル

目標に誘導されるロケット弾。色々な種類があるが、対空・対地・対艦の3種類が主。誘導方式や威力などがそれぞれに最適化されているため、例えば対空ミサイルを対地ミサイルとして使うのはあまり良くない。

基本、速度が速いほど強い。速度が出せるよう翼が小さく、翼が小さいため速度が無いと揚力を得られず、曲がらないから。なので、特に対空ミサイルは発射後に空気の薄い上空へ上ってから敵に向かって落ちていくし、近距離よりも空気抵抗で速度が落ちる遠距離の方が当たりにくい。迎撃や回避をさせないためにも、とにかく速度はあればあるだけよい。

とりあえず3種類あると覚えておけば良い。と思ったがウクライナでは既に対レーダーミサイルが運用されており、しかも大きく取り上げられてしまったので4種類覚える必要がでてきた。

対レーダーミサイルはレーダーに向かっていく対地ミサイル。対地ミサイルでレーダーを狙うのと何が違うん?となるが、真っ先に狙うべき目標をすぐに選べるところは大きな利点。とにかく戦車でも歩兵でもなく、レーダーに飛んでいってくれる。

狙われたレーダーは回避するためにレーダーを止めるので、その間に味方の航空機が攻撃すれば大きな戦果を期待できる。止めなきゃ当たる。止めても大体の位置に飛んでいくやつもある。

因みにGoogle翻訳では「対放射線ミサイル」となり、核兵器の1種かと誤解されることもあった。


巡航ミサイル

やたらと射程の長い対地ミサイル。とにかく長い。普通の対地ミサイルは十数キロくらいしか飛ばないのに、巡航ミサイルは300kmとか1000kmとか当たり前のように飛ぶ。北海道から沖縄まで届くやつもある。弾道ミサイルと併せて、安全地帯や緩衝地帯というものを形骸化させた。

射程はバカほど長いが、速度が遅いので目標を観測しないと撃てない。実際使う時は最大射程付近から発射したりしない。じゃあなんでそんなに射程を伸ばすの?というと迂回させるためである。相手が警戒してない方向に向かわせて、それからぐるっと方向変えて突っ込ませる、みたいなことができる。低空を360°監視し続けられる軍隊とかまず無い。

射程に全振りしているので、見つかると落とされやすい。ミサイルとしては遅いしデカいので、レーダーの範囲内に入ると見つかりやすい。なるべく見つかりにくいよう低空を飛ぶが、それはそれで歩兵のミサイルや機関砲に落とされる。ジャンボジェットより遅いんじゃあね。

なおクソデカ弾体にクソ強エンジンを搭載して上空をぶっ飛ばし、速度で射程を稼いだ脳筋巡航ミサイルもある。ソ連製のKh-22がこれ。レーダーでガッツリ捉えられるが、撃墜が難しい。お前ほんとに巡航ミサイルか?なお速すぎて精度がお亡くなりになった模様。元は空母に当たればいいってものだからね、仕方ないね。


航空優勢

空をどちらが支配しているかを表す言葉。古くは制空権とも。これを取っていると、索敵も攻撃も防御も有利になり、勝てる可能性が上がる。

航空優勢、なんて曖昧な言い方なのは、取っていても敵戦闘機の浸透や反撃を許すこともあるから。航空機はとっても速いので、気づいたら侵入されてるなんてことはままある。

あくまでこちらが自由にやりやすいって話であってなんでも好き勝手出来るわけではない。味方機が飛んでる間だけ有効な概念なので、時間によって取ったり取られたりする。

ウクライナとロシアは2022/11/12現在において、まだどちらも航空優勢を取れていない。けどヘリや戦闘機が飛んでいることもあるので、そこだけはその時どちらかの航空優勢下にあると言える。と書くと、いかにあいまいな考え方か分かると思う。


戦闘機

分かりやすい空軍の主力。高性能な対空ミサイルを、高性能なレーダーと機体を使って発射できる。爆弾や対地、対艦ミサイルも積めるが、基本は敵の航空機を落とすために存在する。


攻撃機

地上目標を攻撃するための戦闘機。対空ミサイルも積めるが、基本は敵の地上戦力を破壊するために存在する。低速で敵を狙うことに特化したタイプや、戦闘機譲りの対空能力を持つタイプ、重たい対艦ミサイルを何発も搭載できるタイプなど個性豊か。大抵なにかしらの防御力が強化されている。もちろん重くなるので機動力は落ちる。


爆撃機

地上を爆撃することに特化した攻撃機。攻撃機っぽい役割の戦術爆撃機と、より大型の戦略爆撃機の2種類がある。

基本は、炸薬量に優れる爆弾を落とすための機体だが、最近はミサイルを積むことも多い。巡航ミサイルを搭載して長距離攻撃を行うことも(むしろこの戦争では、ロシア空軍の戦略爆撃機はこれしかしていない)。

戦術爆撃機は敵の陸上部隊や基地を狙う目的で作られ、戦略爆撃機は敵の都市や工場、司令部を狙う目的で作られている。

どちらも鈍重なので、防空網に入り込んでしまうと悲しい結果になる。大きさにものを言わせた妨害能力にも限界はある。


ドローン

新時代の幕開け。と言いたいところだが、色々複雑。ドローン自体は1950年代から運用されてきたし湾岸戦争で間接的に大戦果を上げているので、新しくもなんともなかったりする。

大型高性能高価格のものから、小型低性能低価格のものまで様々。これを一括りにしてドローンと呼んでいるため「10万円で数千キロ飛行し数百キロ先の敵をつぶさに観察できる」みたいなイメージが付くこともある。そんなものはない。

乱暴に分けると4種類になるが、ウクライナで使われているのは主に3種類。飛行機型で小型の偵察用、飛行機型で小型の自爆用、羽がいっぱいついてるやつ。

それぞれ異なった強みがあり、全部混ぜて考えるとドローン万能論みたいなものに行き着くので注意しましょう。


ゲームチェンジャー

そんなものはない。

色んな種類の兵器が複雑に絡み合って軍隊を作っているので、何か一つの兵器が全てを圧倒するようなことは無い。あえて言うなら核兵器がゲームチェンジャーにあたる。

ジャベリン、ハイマース、ハーム、榴弾砲、その他あれこれがゲームチェンジャーと呼ばれてきたが、全て外れてきた。

本気でゲームチェンジャーと言っている記事や発言は全て冷ややかに見て良い。ただし、範囲を限定した上でゲームチェンジャーと言う場合は必ずしも間違いでは無い。

陸戦のゲームチェンジャーに最も近いのは戦車だが(そうなるよう作られてきたし)、一度もそんなふうに言われてないあたり、適当な言葉である。


APFSDS

装弾筒付翼安定徹甲弾。初見だと何言ってるか絶対分からないやつ。

戦車や装甲車の砲から発射される砲弾の一つで、なんか魔法じみた貫通原理を持つ。

まず徹甲弾(てっこうだん、AP)という「硬い金属の塊を思いっきり叩きつければ装甲割ったり貫通したりできるっしょ」というサルからろくに進化していない発想の弾があって、発想自体が貧弱なので早々に限界を迎えた。

次に「飛ばすときだけ外側の殻を外せば速度が落ちにくくて貫通力が増すのでは?」という文明人らしい発想から生まれたAPDSが誕生する。発想は良かったが技術力が追い付かず、傾斜に弱いうえにブレやすいと言う弱点を持っていた。

ところで金属というのはものすんごい圧力をかけると液体としてふるまう(連続的に変形する)ようになる。この現象を利用できないかと考えられたのがAPFSDSだ。

ダーツみたいな形状の硬い棒をマッハ4~6で飛ばすので、温度に関係なく金属が液体状になってしまうほどのものすんごい圧力が発生し、自身も液体状になりながら浸透、装甲とドロドロになって混ざり合いながら貫通する。ドロドロになるので傾斜で弾かれることもない。

貫通後は圧力から解放されるため、ドロドロだった金属が無数の銃弾となって車内を破壊する。

これをちゃんとした形式で書くと「侵徹体先端は塑性変形を生じながら侵徹が生じ、装甲にめり込み侵入する(Wiki)」とか意味わからない文章になる。何が言いたいかって言うと、これかみ砕いて説明するのは大変なんだぞ褒めてってことです(欲しがり)


HEAT

ヒート。対戦車榴弾。上記のAPFSDSの効果を、内蔵された金属でやっている弾。

V字に凹んだ金属の板を爆薬でめちゃくちゃに圧縮、同時に前方に吹き飛ばすことで槍みたいな形のジェット噴流ができる。これをメタルジェットという。カッコイイ。

メタルジェットはマッハ20以上とかいうとんでもない速さになるので、装甲との接触面にはものすんごい圧力が発生する。その圧力により金属が液体のように振るまい、強度を無視して貫通するようになる。

APFSDSよりも簡単に貫通力を高められ、また砲弾そのものの速度は関係しないためあらゆる距離で同じ貫通力を持つ。APFSDSと比べて速度の遅い無反動砲や対戦車ミサイル、爆弾などにも使える。

じゃあ全部HEATでいいじゃんとなりそうなものだが、メタルジェットは装甲に与える効果は同じものの、元がジェット噴流であるため空間があるとどんどん霧散してしまう特徴がある。このため、中がスカスカの中空装甲があるだけで効果が半減する。

また爆発しないとメタルジェットは発生しないため、スラットアーマーと呼ばれる金網装甲で信管の作動を防ぐとただの遅い金属の塊にしかならなくなる。爆発してもスラットアーマーと主装甲の間の空間で半減する。また爆発反応装甲でも効果を大きく削られる。

間に柵や木、壁があってもそこで爆発してしまうため、HEATを最大限活かすなら①敵との間に何も無くて②スラットアーマーや爆発反応装甲を付けていない部分を狙って③中空装甲も無いことを祈り、撃つ必要がある。こんな感じで制約が多い。

最近は先端に小さなHEATを付けることで②を排除する弾もある。


-ゆるめな装甲車の種類解説-

装甲兵員輸送車

歩兵を安全に速く運ぶための装甲車で、攻撃力はほぼない。装甲が全体にあるけど、機関銃しかなければ大体これ。

装甲も軽度なものが多く、安く作れるようになっている。最近は地雷対策や快適性を上げるために巨大化し、戦車より大きくなっている。


歩兵戦闘車

歩兵と共に戦うための装甲車で、火力や防御力にも優れる。歩兵は乗せられるけど、あくまで一緒に戦うために乗せている感じ。機関砲や対戦車ミサイルを装備し、状況次第では戦車と戦える。

装甲は機関砲に耐えられる程度に厚いものが多く、最近は軽量級の戦車に迫る重さを持つものも。最新のものは、対戦車ミサイルなどを空中で破壊する装備まで備えていたりする。

強力だが装甲車の中では高価になりがち。しかし何でもできるので重宝される。


機動車

装甲車……装甲車?の一つ。軽装甲車とも。大体はジープに毛が生えたような車両で、上部に機関銃を載せることができる。ちょっと大変だけど、対戦車ミサイルを撃つこともできる。

装甲が無いに等しい物から、生半可な地雷や銃ははじき返すものまで幅は広い。ガラスが普通車同様に広いが、防弾ガラスになっていることが多い。

使いやすい、安い、速いと運用するのが楽なので、お手軽に歩兵の機動力を上げられる。

最近は地雷対策と火力強化がトレンドで、ロシアでは8連装対戦車ミサイル、中国では機関砲塔を備えたりしている。当然デカくなるか搭乗人数の削減を強いられる。もうこれは歩兵戦闘車のような何かだよ。


MRAP

耐地雷車両と言い、装甲車の一つ。トラックとバンを組み合わせたような見た目をしていることが多い。機動車に比べて窓は小さく、装甲の面積が多い。

耐地雷と言うだけあって地雷対策はかなり強力。エンジンが吹き飛んでも、タイヤが爆散しても乗員だけは守られる。

車高が高くなりがちなのでデメリットも多いが、とにかくよく地雷に耐えてくれる。ついでで小銃弾にもよく耐える。それ以外は普通の輸送車両。


装輪自走砲

比較的最近生まれた種類の装甲車。「戦車は高価いから削減したい、けど減らすと重くて遅いから緊急時に展開できない!どうしよう!」という悩みと「高速道路や輸送機で手軽に運べる装甲車は軽さが大事。だけど火力も大事。対戦車ミサイルは色々制約があるからおっきな砲を載せたいな」という希望が合わさった結果誕生した。

言い換えると「戦車並みの火力があって使い潰せるやつが欲しい」ともなる。(必ずこうした意見からできているというわけでは無い)

結果として、戦車と肩を並べつつ戦車の補佐ができ、戦車よりも速いので先行して襲撃したり防御したりできる使いやすい装甲車になった。装甲車のくせに歩兵は乗せられないのでバリバリの戦闘マシーンである。なんなら最新戦車と同じ光学機器を載せて事実上の軽戦車として運用している国もある。日本お前だよ。

国土面積や長さの割に軍事費が少ない国、海外展開が多い国が世界に先んじて配備中。

概念が新しく各国それぞれの考えに基づいて作られるため、名前が定まっていない。機動砲システム、機動戦闘車、装輪突撃車、戦闘偵察車、ほにゃららほにゃらら。正式では無い名称として、装輪戦車というのもある。

似てるのに違うからと言って毎回説明するのは面倒を通り越して実害が出かねないので、装輪自走砲と(ひとまず)括られた。これですら、装輪自走対戦車砲とか装輪自走駆逐戦車とかブレまくるのでややこしい事この上ない。

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