愛に狂えよ、我が獣 【過去夢03】
鳥兎子
01 その唇と、香は誘う
“
――その
少年達の色を買う『
『花魁』と共に『男』の肌を撫でるのは、女と見紛う美しき男の『陰間』。男色を売る時期である“蕾める花”と“盛りの花”の少年時期を過ぎ、女色を売る時期である“散る花”の
“散る花”の陰間、花魁、客の男。色道を追求する者達の……半場冗談のような思いつきから、ある秘密が始まった。
『ねぇ、
陰間の呼び出しが禁じられている、ある遊女屋にて。花魁の付き人である『少女の禿』に化けた、“蕾める花”の『少年の陰間』を客の男が犯す。彼らが、より深い背徳感を味わう為だった。
――だから、
『禿』に化けた“蕾める花”の陰間の
その度に彼女への好奇心は、
編笠を白絹のように
ふと。視線に気づいたのか、彼女は編笠を上げる。
彼岸花の
目の縁を彩る
男を知れど、女を知らぬ我が身故か。僅かな
だが夢心地の熱情は、いつも現実に犯される。
色道
嫌悪を思い出してしまいそうになる時は、目を閉ざせばいい。浄化してくれるような、
今、名も知らぬ彼女は、
去らないで欲しい。俺の部屋に、嘘を載せた手紙か、罠か……何か仕掛けでも施しておけば良かった。何かの間違いで、彼女が遊女屋に帰れなくなればいいのに。そんな願いが呼んだかのように、花魁である
「大変です。
「いつものように、仮病の誤魔化しは効かんのか」
「それが……」
いつもとは違い、慌てた様子の飛鶴が男に耳打ちをする。みるみる険しい顔へ変わっていく男は、俺を解放する。花魁は俺に着物を着せるのを手伝いながら、早口でまくし立てる。
「貴方と入れ替わっている
先程まで犯されていたと言うのに、飛鶴は容赦なく俺の背を叩く! 背を痺れさせる焦りと共に、俺は陰間茶屋へと駆け出した!
「こんな時に初めて名を知り、会えるなんてな」
胸を支配する熱情は、掻き乱された。珠翠が『女』だと正体がバレてしまえば、彼女はどちらにしろ犯されてしまうかもしれない。俺は彼女に穢れて欲しくない、と願っていた事に気がつく。愚かだな。いつしか必ず『花魁』となる珠翠は、今で無くとも身体の清らかさを失うというのに。
俺は陰間茶屋へ飛び込み、部屋の襖を開いた!
だが……そこには、客も珠翠も居なかった。
――居るはずの無い
珠翠に恋焦がれるばかりに、狂気に堕ちた俺が夢でも見ているのだろうか。
「
俺の声で喋る
「あんたは、一体……」
「
妖。それは、世に蔓延る
最も、それは
「人を喰らう
「ふ……
小さく嘲笑する珠翠に、俺は胸を抉られる。性を操る彼女は、処女ですら無かったというのに。
「妖のくせに、何故人の振りなんかしてるんだ」
「妾は
どこか茫洋と虚空を見つめる珠翠は、
「あんたは、珠翠じゃないのか」
「『珠翠』と言う演目を演じていただけだ。
俺の想いすら、長き時を生きてきたであろう妖は知っていたらしい。告白すら叶わなかった虚しさか、怒りか……灰の中で燻る火種はまだ存在する。『少女の珠翠』が消えてしまう事に抗える選択肢があるとしたら、俺は必ず選ぶだろう。
「俺だけに、正体を明かした理由があるんだろ? 答えろよ」
そうでなくては、俺の代わりに客に犯されてまで正体を明かす必要など無い。焦らすように、珠翠は煙管を一吸いして……唇から白煙を
「良い玩具を見つけたからだ。人の中に、
鮮烈な紅の色彩の珠翠は、妖の瞳孔が宿る翡翠の瞳で魅惑的に微笑した。その細く
珠翠の前に
「
そのまま頷きそうになる自分を、一つの執着が呼び戻す。
「俺が従うのは……俺が手に入れるはずだった『
珠翠はまあるく瞠目する。幼い表情に、俺が恋焦がれた彼女はまだ存在するんだと確信出来た。
「ふふ。人から対価をせびられるのは初めてだ。ならば
――珠翠が欲しい。身体も心も。
今なら、あの男の醜い欲が理解出来てしまう。俺はあいつよりも深い欲を手に入れてしまったから。
彼女を押し倒すと、紅の長い髪筋は華のように広がった。愛玩する獣に褒美を与えるかのように、少女の珠翠は林檎飴のように潤う唇で弧を描いた。
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